絶対言わない 20
とは言え、自分の家にカカシが居るのはすごく嬉しいことだった。
カカシの荷物を片付けたり洗濯をしたり、部屋の中を動き回る間、ちらりと視線を動かせばカカシが居る。
視線を動かさなくても、俺の部屋なんて台所、居間、寝室の3つしかないからどこにいてもカカシの存在を感じる事が出来た。
「カカシ、先にご飯する?それとも風呂沸かしたほうがいいか?」
ベッドに座ったカカシに声を掛ける。
窓を背にして夕日の中にいるカカシに目を細めると、ひょいひょいと手招きされた。
「なに?」
知らず頬が緩む。
意識して表情を引き締めると、とことこ歩いてカカシの隣に座った。
「疲れてない?少し休憩しよ?」
「あ、うん」
こくんと頷いた後、何を話したらいいのか思いつかなくて困った。
今までこんなことなかったのに、カカシの隣にいると緊張して言葉が見つからない。
話せないでいると余計緊張して心臓がドキドキした。
隣にいるカカシはそんなことないのか穏やかな空気が流れてくる。
落ち着きを取り戻したくて目まぐるしく頭を働かせると、もっと早くに聞かなくてはいけないことを思い出した。
「カカシっ、傷痛くない・・?もしあれだったら寝てていいよ?その間に、俺、ちゃんとご飯の準備するから――」
「イルカ、そんなに頑張らなくていいよ。オレも自分で出来ることは自分でするから。傷ももうそんなに痛まないし、大丈夫だよ」
「そう・・、そうか・・」
急に自分があまり必要とされてない気がしてしょぼんとなった。
カカシの手となり足となり、いっぱい役に立つつもりでいたのに。
「イルカ?」
「・・でもして欲しいことあったら遠慮なく言ってくれな。俺、カカシの為になにかしたい・・」
「・・うん。ありがとう、イルカ」
ふわりと頬に息を感じてはっとするとカカシの唇が頬に触れた。
触れるだけで去っていく唇に視線を向けると、すぐ目の前にカカシの顔がある。
「カカシ・・」
見上げるとカカシがゆっくり顔を傾けたから目を閉じた。
唇が重なって、すぐに離れていく。
軽いキスかと思って瞼を開こうとしたら、カカシが首の後ろに手を添えて俺を引き寄せた。
いつもより強く唇が重なって、まざまざとカカシの唇の柔らかさを感じる。
下唇を食まれると、じんと唇が痺れて体が甘く疼いた。
ふわーっと体温が上がって鼓動が早くなる。
唇を開いて同じようにカカシの唇を食むと、ちゅっと湿った音が鳴った。
その音に羞恥して俯こうとしたら、カカシの手が頬を押さえてそれを許してくれない。
「イルカ、もう少しだけ・・」
続けさせてと唇の上で囁かれて蕩けた。
カカシの唇が角度を変えて触れてくると、体がふわふわして意識がぼんやりしていく。
カカシの唇のことしか考えられなくなって、夢中で唇を重ね合わせた。
擦れ合う唇が気持ちいい。
カカシの手が背中を撫ぜだすとおかしな感覚が生まれ始めた。
体の奥に磁石があるみたいにカカシに引き寄せられる。
ぽっかぽっかと火照った体に、ますます思考は蕩けていった。
――もっと、くっつきたい。
「カカシ・・」
「・・うん」
制止を掛けたつもりじゃなかったのに、返事をしたカカシの唇が離れてしまった。
熱の篭った頬をするりと撫ぜると体まで離してしまう。
こんなことなら名前を呼ばなければ良かった。
止んでしまったキスが残念でカカシを見上げると、困ったように笑ったカカシが俺を引き寄せ、すっぽり腕の中に囲った。
カカシの背に手を回して首筋に頬をくっつける。
胸と胸が重なり、トクトクと早鐘を打つ心臓がカカシにまで伝わる気がした。
ふわふわとカカシに引き寄せられるような感覚がいつまで経っても抜けていかない。
頬から伝わるカカシの体温も高くて、ひしっとしがみ付いた。
カカシも、俺と同じ事を望んでくれればいいのに。
夕食を作っている間、カカシは風呂に入った。
手伝いたかったのに、前に嫌だと言われた手前言い出せずにいると一人で入ってしまった。
体の方は思っていたより回復していたようで、時々痛そうな顔をするものの、一人で立ち上がったり、歩いたりする。
そうなってくると俺なんかいなくても良いような気がしてしまった。
カカシが元気になっていくのが嬉しい反面、不安にもなっていく。
この調子ならカカシはすぐに出て行ってしまう・・。
カカシの不幸の上に成り立つような望みを持ちそうになる己をたしなめた。
でも、ずっと傍にいて欲しい。
「わあ、おいしそうだね!」
小さなちゃぶ台に並んだおかずにカカシが歓声を上げた。
とりあえず俺に出来ることと言えばこれぐらいだから、頑張って作った夕食は自分で見てもなかなかの出来栄えだった。
お酒の変わりにお茶でカカシの退院を祝って乾杯する。
きっとカカシはビールぐらいは飲みたかっただろうけど、怪我が完全に治るまでは我慢してもらうことにした。