絶対言わない 2



カカシが怪我をしたらしい。
でもそんなのいつもの頃だから心配なんてしたりしない。
ただパックンが知らせに来たから病院に向かうだけで、俺は本当に・・。

「カカシ!」
「はぁーい」

ベッドの上でひらひら手を振る男に脱力した。

ほらな、だから思ったんだよ。大した事ないって。

「どうしたの、イルカ?そんなに息を切らして――」
「べ、別に。パックンが急いで行けって言うから・・」
「あれ、そうなの?」

首を傾げるカカシに何かを見透かされそうで顔を背けた。

「用がないなら帰る」
「そんなことないよ。ね、りんご剥いてよ。ホラ、手にケガしちゃって上手く使えないの。それにね、こっちも」

服を捲くって包帯を見せる。
腹に撒かれた包帯に、その下の傷を思って顔を顰めた。

「だいじょーぶだよ?・・しばらく入院するケド・・」
「・・そうかよ」

素っ気無く言ってイスを引き寄せた。
心臓が嫌な感じで捩れた。
カカシが怪我をするのは好きじゃない。

「イルカ?」
「なんだよっ」
「りんご」
「なんで俺が・・」
「いつも美味しいもの食べさせてあげてるデショ?」
「ぐ・・」

それを言われると弱い。
ぶつぶつ言いながらも赤く熟れたりんごを手に取った。
本当は果物でもなんでも、栄養のあるものを食べて早く元気になって欲しい。

「ウサギちゃんにしてね」
「はいはい」

ウンザリしたような返事をしながら、少しだけ、楽しいと思った。
個室の病室には二人きりで、こんな時間を過ごすのは久しぶりだ。
りんごにナイフを入れる俺の手元をカカシがじっと眺めていた。
緊張して指が震えそうになる。
四等分して三角の切込みを入れると、カカシが嬉しそうに笑った。

「イルカ、上手ー」
「そうかな・・」

褒められて嬉しい。
三角の下にそうっとナイフを入れて耳を作ろうとした時、

「カカシ先輩!」

突然声がして、驚いて耳を切り落としてしまった。

「いっ」

咄嗟に指を隠してカカシを見れば、さっきまで下ろした口布を上げてドアを見ていた。
気付かなかった自分の未熟さが恥ずかしい。
振り返れば随分若いくのいちが立っていた。
気配の無さはきっと上忍。
俺よりも優れた人間だった。

「すいません、カカシ先輩。私を庇ったばっかりに・・。大丈夫だっておっしゃってたのに、入院されたって聞いて吃驚して・・」
「気にしなくていーよ。入院っていっても大したことないし」
「良かったー」

笑みを浮かべて目元を拭う仕草に、気付いた。

この子もカカシのことが好きだ。

急に居た堪れなくなってお尻の下がもぞもぞした。
この二人の前で俺はなんて邪魔な存在だろう。

「カカシ先輩、何かお手伝いさせてください。入院してる間、少しでもお役に立ちたいです」
「え、いいよ。イルカがいるし」
「でも・・」

急に引き合いに出されて緊張した。
膝の上の皿には不恰好なりんごが乗っている。
笑われた気がして、急いで立ち上がると頭を下げた。

「よろしくお願いします。俺、仕事あるし。この人のことなんて構ってられません」
「ちょっ・・待ってよ、イルカ」
「それじゃあ」

ぺこっと頭を下げると病室を出た。
走って病室から遠ざかるとトイレに逃げた。
洗面台の上で手を広げると血が滴り落ちた。
水で洗い流しても、後から後から血が滲み出る。

「無様だなー・・」

俺がもっと優れた人間だったらカカシの隣に並べただろうか・・?

意味の無いことを思い浮かべた。
俺がカカシと同じ任務に就くことなんて一生無い。
実力の差なんて歴然としてて考えるだけで無駄だった。








前回の後は、「泊まりにいってもいい?」と肩透かしを食らったものと思われます。


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