絶対言わない 17
目が覚めたら隣に人がいて吃驚した。
しかも体の下は自分のベッドの感覚じゃない。
びくっと体を揺らすと、くすっと笑う声がした。
「おはよー」
柔らかな声に顔を上げるとカカシが穏やかに笑っていた。
状況が掴めなくてあわあわすると、カカシの手が額に掛かった髪を掻き上げ、露になった額に唇で触れた。
わっ!
朝から刺激が強すぎる。
あまりの衝撃に心臓をドキドキさせていると、ちゅっと音を立てて離れた唇が目元に触れた。
ゆ、夢・・!?
願望からよくこういう夢を見ていたから現実との区別がつかなくなる。
それにしてもリアルだと思っていたら、頬を滑った唇が唇に重なった。
しっとり重なった唇が角度を変えてまた重なる。
軽く吸い上げられて顎を引くと唇が追いかけてきた。
ちゅ、ちゅ、と小さく唇を啄ばむ音が聞こえる。
――この感覚を知っている・・。
そう思うと瞬く間に記憶が蘇って、頬が燃える様に熱くなった。
昨日、こんな風にカカシにキスされた。
俺、カカシに告白したんだった。
今更ながらに羞恥が押し寄せる。
「ん、んんーっ!」
抗うように胸を押し返すとカカシが意外そうな顔をした。
「どうしたの?」
「な、なんでも・・」
なくはないけど、あんまり顔を近づけないで欲しい。
恥ずかしくてカカシから目を逸らすとまた額に唇がくっ付いた。
ドキドキして心臓が飛び出しそうになる。
緊張して体を小さくするとくすくすと笑う声がして抱きしめられた。
腕の中は温かく、思っていたよりずっと居心地が良い。
あれほど感じていたカカシとの距離が無くなっていてほっとした。
心も驚くほど晴れて軽くなっている。
カカシの腕の中から周りを見ると、そこは病室の中だった。
「俺、昨日泊まっちゃったのか?」
「うん。うとうとしてるから見てたらすーって」
「ば、ばか!見てたなら起こせよっ」
「やだよ、せっかく可愛いのに。オレの腕の中で寝たんだよ?寝顔だって可愛かったし、そんなもったいないことするワケないデショ」
「わーっ、わーっ!」
朝から何言い出すんだ。
可愛いとか勿体無いとか、今までそんなこと言わなかったのに。
いや、似たようなことは言われたりされたりしたけど、ここまであからさまじゃなかった。
急変したカカシの態度に付いていけなかった。
恥ずかしくて悶死しそうになる。
甘ったるい空気を振りまくカカシに耐えきれなくなって、じたばたとベッドから降りた。
「あっ、どこ行くの!?」
「どこって・・、仕事に決まってるだろ!」
「まだ時間あるよ・・?」
「一旦帰ってシャワー浴びないと。準備だってあるし」
「ふぅーん・・。そっか」
ベッドから体を起こしたカカシが目に見えてしょげた。
寂しそうな顔で仕方ないって笑われると、胸がちくりとした。
「・・また来るから」
「うん、わかってる。イルカこっちに来て」
広げられた両手に近づくと抱きしめられた。
引き寄せられるまま身を屈めると、カカシの唇が重なる。
「待ってるね」
「うん」
軽く触れるだけで唇はあっさり離れていく。
それを俺は物足りなく感じた。
はっ!俺ってばふしだらなことを・・!
動揺して、カカシに気付かれる前に離れた。
「もう行く」
「うん、いってらっしゃい」
「いってきます!」
カカシに見送られて病室の外に出た。
ドアを閉めて、1,2歩進んで立ち止まる。
振り返るとどのドアも閉まっていて、その奥ではみんな寝ているようだった。
今起こったことなんて何事もなかったように廊下はシンとしている。
だけど。
ドキドキと早鐘を打つ鼓動や唇に残る感覚が、それが現実だと教えてくれた。
込み上げてくるものを堪えて足早に階段を降りる。
病院を出て門が見えると堪えきれず駆け出した。
やったーっ!!
心の中で盛大に叫んだ。
カカシの恋人になった。
カカシとキスをした。
これからはもう何の気兼ねなく、カカシの事を好きになってもいいんだ!
あまりの開放感にこのまま空を飛べそうな気がした。
喜びが溢れてじっとなどしていられない。
ぴょんぴょん飛び跳ねるように門を走り抜けると茶色い塊が飛び出してきた。
「わっ!お前、待っててくれたのか!?」
走る速度を落とすとカカシの犬が飛び跳ねるように俺の周りを回った。
それから走ろうとでも言うように駆け出しては立ち止まる。
ぶんぶん振られたしっぽに誘われて走り出すと、犬が嬉しそうに並走した。
「ありがとな!」
応える様に跳ねた犬に嬉しさが倍増する。
子供みたいにはしゃぐ気持ちを抑えられなかった。