絶対言わない 16


角度を変えて啄ばむように触れてくるカカシのキスに陶然となった。
意識はほやほやと空中を彷徨い、視界もぼやんと蕩けていく。
だけど心を覆っていた雲は完全に晴れることなく、いつまでも影を落とし続けた。

これって想いが通じたってことだよな・・?

優しく頭を撫ぜる手に期待する。
ちうっと下唇を吸われて体が震えた。
ぶるっとなった体をカカシが強く抱きしめる。

「はあ、抱きたい・・」

ため息混じりに呟かれた言葉に心臓が大きく跳ねた。

だ、だ、だ、抱くってそういう行為をするってことだよな?

肌を重ねるイメージが頭の中を過ぎって、羞恥に全身が熱くなる。

・・・そ、それって、俺のことスキってことだよな?

期待は確信に少しだけ形を変えて俺の背中を押した。
恐る恐るカカシの背中に手を回してみる。
そうすると抱きしめる力が強くなり、手の平が体を撫ぜた。
擦り寄るようにカカシが首筋に顔を押し付けてくる。
これ以上ないほどカカシの体温を感じて、俺はあっさり決断した。

カカシに、抱かれたい。

経験も無くてキスだって初めてなのに、カカシへの想いが激流となって俺を押し流した。

「・・カカシ、」
「・・ゴメン。ダメだよね、こんなところじゃ。だって、初めてスルんだもん・・」
「・・!」

カカシの弱弱しい声に慌てて口を閉ざした。

危なかった。
カカシが先に言ってくれて良かった。
もう少しでふしだらなヤツと思われても仕方ない事を言うところだった。

ゆっくり体を起こしたカカシが「ね?」と確認するように額をくっつけてくる。
「うん」と頷き返すが、残念そうな表情になっていないか気になった。
オレの上から退いたカカシがごろんとベッドに横たわる。
その体がベッドの端ぎりぎりなのを見て、ベッドから降りようとするとカカシに腕を掴まれた。

「ダメ、イルカも傍に居て」
「で、でもカカシ、落っこちそうだよ」
「くっついたら大丈夫」
「でもっ、人が来たら恥ずかしい・・」
「じゃあ、カギ閉めておいで。それならいいデショ?」

さも当然のように言われて頷いた。
腕を掴んだカカシの体温や懇願する瞳に正常な判断力を失っていた。
ベッドから降りて、とことこと歩いてドアのカギを締めるとカカシの元へと戻る。
だけどそうやって、もう一度ベッドに上がることが死ぬほど恥ずかしいことだと、その瞬間になってやっと気付いた。

「あ・・」
「どうしたの?おいでよ」
「う、うん・・」

行きたい、でも恥ずかしい。

もたもたしていると体を起こしたカカシに腕を引かれた。
少し強引にベッドの中へと引き込んでもらう。
でもサンダルは自分から脱いだから、こうしたいと思ったことはバレバレだろう。
狭いベッドの真ん中でカカシにくっついて横たわる。
頭を撫ぜられて、あまりの照れくささにカカシの胸に顔をくっつけた。
だってついさっきまで幼馴染だったのに、今は――、今は・・。

「あの、カカシ?」
「ん?」
「俺のこと、好きか?」
「・・何を今更。そんなの当たり前デショ」
「そ、そっか・・!」

喜びにかあっと頬が火照る。

なんだ、今更なんだ。今更・・。

嬉しくてカカシの言葉を繰り返すが、――ふと疑問が沸いた。

今更・・?

「今更ってなんだ?カカシって俺のこと好きだったのか!?」
「そーだよ」
「そーだよって、そんなのいつ!?さっきだって冷たかったのに!どうして言ってくれなかったんだ!俺、すごく悩んだのに・・っ!」

起き上がってカカシを詰めよると、甘い空気は吹き飛んでカカシも眉間に皺を寄せた。

「・・・なに言ってるの。言ったって気付かなかったでしょ」
「そんなことない!言ってくれたらちゃんと分かった」
「わからなーいよ。イルカっておこちゃまなんだもん」
「おこちゃまってなんだよ!それぐらいちゃんと分かるよ!」
「じゃあ聞くけど!オレが一番最初に花束渡したとき、イルカ何て言ったか覚えてる?」
「えっ・・、最初・・?」

最初って・・・、病院で貰った時?
あの時はいろいろ考え事してたから・・・。
えっと・・。

なに言ったんだろう、俺・・・。

「言っとくけど、今回入院してからじゃないよ」

俺の考えを見透かすようにカカシに言われて動揺した。

それ以前・・!?
それより前に俺・・、カカシから花を貰った記憶が無い・・・・・。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

いくら頭の中を掻き回してみても、それらしい記憶は全く無く、次第に項垂れるとカカシが溜息を吐いた。

「責めてるんじゃなーいよ。後からオレも早すぎたと思ったし・・」
「いつ・・・?いつ、花をくれた・・?」

聞いてもカカシは曖昧に、そして寂しそうに笑うばかりでそれがいつだったのか教えてくれなかった。

「いいじゃない。オレは今、イルカがオレのこと好きでいてくれるならそれでいいよ」
「・・・でも。俺、すごく苦しかったんだ・・。カカシが遠くに行っちゃいそうで・・。怖くて、不安で・・」
「行くわけないのに・・」
「でもあの人が・・、彼女、カカシのこと好きだろう・・・?だからカカシのこと盗られると思って・・。・・カカシ、さっきの彼女、影分身だったけど・・、あれってどういうこと?今まで見かけたのも、影分身だったのか・・?」
「ううん、違うよ。さっきのだけ。さっきのだけ、オレが作った。イルカがはっきりしないから。イルカの気持ちが知りたくて。・・・オレのことキライになった?」
「・・ならない」

首を横に振るとほっとしたようにカカシが俺を引き寄せた。
そんなことでカカシの事を嫌いになったりしない。
むしろ関係を進めることが出来て良かったと思っている。
だけど彼女の存在が気になって胸を塞いだ。

カカシは彼女の事をどうするつもりなんだろう・・。

気になって仕方ないのに、それをカカシに聞くことが出来なかった。




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