絶対言わない 15


ただ会いたい一心でカカシの元へと走った。
階段を一足飛びで駆け上がり病室のドアを開ける。

「カカシ!」

ベッドの上で体を起こしたカカシを見た瞬間、走ったことで乾いていた涙がまた溢れた。

すごく、すごく、会いたかった。
カカシに会えなくて寂しかった。

そんな想いが溢れて目の前を見えなくする。
零れた涙を拭いながら、とぼとぼとカカシに近づく。
あと2,3歩残したところで、俺を見ていたカカシがふいっと顔を背けた。

「カカシ・・?」

呼んでも答えてくれない。
拒絶されてるみたいでそれ以上近づけなくなった。
とても『会いたい』と言ってくれた様には見えなくて、手紙を貰った時の勢いはみるみる萎んでいく。
てっきり歓迎されると思っていたから、思惑が違ってしょんぼり立ち尽くした。

カカシが怒っている。

「カカ――」
「イルカって冷たいよね」
「え・・」
「忙しいのは分かるケド、顔も見せないなんて酷いよ」
「ちが・・」
「違わない。動けないの知ってるくせにほったらかしにするし」
「違う!」
「違わないデショ。オレ何度もイルカに面倒みてって言ったのに・・。イルカはオレの事なんてどうでもいいんだね」
「違う!違う!違う!!」

責められて絶叫した。
どうでもいいなんて一度だって思ったこと無い。

「カカシ・・、こんな酷いこと言うために俺を呼び出したの・・?」

心が千切れそうになって涙が止まらなかった。
想いが通じないとかフラれるとか、そんな想像はいくらでもした。
だけど心の根底にあるような、当たり前の感情すら否定されるとは思ってもみなかった。
哀しい。
せめて俺の胸の内だけは知っていて欲しい。

だから伝えた。

「・・どうでも良くなんてない。カカシのことが大事だよ。・・カカシ、俺・・、カカシのことが好きなんだ」
「・・好きって、なに?」

俺の命がけの、精一杯の告白をカカシは理解出来ないようだった。

無理も無い。
幼馴染にそんなこと言われて戸惑うだけだろう。
おまけに男だし。

やっぱりなぁと言う想いが胸を占めて、ぼろぼろと何かが崩れていくのを感じた。

伝わらない。
カカシには何も――。

「イルカ。イルカの好きってなに?どうしたいの」
「・・傍にいたい。カカシの傍に――」
「それならいつもいるでしょ?何が違うの」
「違う、そういうんじゃなくて・・」

問い掛けられれば問い掛けられるほど、カカシとの心の距離が広がっていく。
それを俺はどうすることも出来なかった。
無力感に襲われる。

――もう諦めよう。

そう思ったとき、ドアが開いた。

「カカシ先輩?」

聞こえた声に全身を引き攣らせた。

ああ、どうして忘れていたのだろう。

彼女がカカシの傍にいることを。

遠慮がちに入ってきたあの人が俺の横を通り過ぎた。
甘い香りが漂い、白い花が目の端に映る。
コトンと硬い音がして、ベッドの傍の机に花瓶が置かれた。

「あの・・、どうかしたんですか?」

カカシの傍らに立った彼女が戸惑うように俺とカカシを交互に見た。
見たくもないのに並んでいる二人の姿から目が放せない。
こうしてみると、二人はとてもお似合いだった。

俺は諦めなくちゃいけない。

「カカシ先輩?」

答えずにいたら、彼女はカカシに答えを求めて手を伸ばした。
その指先がカカシの肩に触れそうになる。
その瞬間、意識するより早く目の前が赤く爆ぜた。

いやだ、いやだ、いやだ!

足元から火に炙られるように肌がざわつく。

「カカシに触るな!!」
「きゃっ!」

彼女の肘を掴むとカカシから遠ざけた。
そのまま乱暴に突き飛ばすと、彼女は壁にぶつかってか弱い悲鳴を上げた。

「イルカ!!」

がっと腕を掴まれる。
強い力に引き寄せられて、何もかも諦めた。

どうか叩きのめして欲しい。
カカシの大切な人に手を上げた俺を。
もう二度とカカシを好きだなんて思わないように。
俺の恋心を、跡形も残らないほど叩き潰して欲しい。

ベッドに押さえつけられて来るべき衝撃に目を閉じた。
だけどそれはなかなかやってこない。
代わりにカカシの重みと唇に温かさを感じて瞼を開けた。

あ、あれ・・?

目の前いっぱいに広がるカカシの顔に混乱する。
なぜ?どうして?と考えていると、ぽふんと煙の上がる音がした。
視線をやると彼女が消える。

「え・・!?」

影分身!?

どうなってるんだ!???

俺の混乱を他所にカカシの口吻けは続いた。

「やっと一緒になった・・。遅いよ・・」
「カカシ・・?」

独り言のように囁いた言葉を意味を知りたいと思った。
だけど意識は初めて触れるカカシの唇に奪われていく。
それは薄いけど柔らかくて、ふわふわと俺の唇に触れた。

「カカシ・・」

キスしているのが信じられなくて何時までも目を開けてカカシの顔を見ていると、少しだけ唇を離したカカシが甘く優しく微笑んだ。

「イルカ」

囁くように名前を呼ばれてかあっと顔が火照る。
一体何が起こったのか、俺は全然理解できなかった。




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