絶対言わない 13


今頃カカシはどうしてるだろう・・。

木漏れ日の下で弁当を広げながら考えるのはカカシのことばかりだった。

ちゃんとお弁当食べてくれたかな・・。

ぶんぶんと頭を振って、その考えを追い払った。
そんなこと俺が心配しなくたって、きっと彼女が傍で世話してくれるのだから。
朝の様子をまた思い出して胸が塞いだ。
箸を持ったままぼんやりしていると犬が手を舐める。

「あ、食べるか?」

お腹が空いてるのかと思って玉子焼きを差し出した。
犬はあれからずっと俺の傍にいて、どこへ行くにも着いて来た。
そんな姿に親しみが沸いてそうしたが、犬は黙って俺を見上げるだけだった。

「・・・いらない?」

口を開こうとしない姿に寂しくなって玉子を引っ込める。
親しくなったと思ったのは俺だけだったか。
それに考えてみればこれがおいしいなんて保障はどこにもなかった。

不味そうなのかな・・。

玉子焼きを自分の口に入れて租借する。
カカシは美味しいって言ってくれたけど、自分で作る料理はさほど美味く感じない。

「お世辞だったのかな・・」

これからは彼女の作った料理を食べるのだろうと思うと食べる気が失せて箸を置いた。

「どうした、うみの」

顔を上げたら先輩教師がいた。
たしか俺を指導してくれてる先生の同期で、名前はなんと言ったか・・。

「元気ないみたいだけど悩み事か?」
「いえ・・、そんなんじゃないです・・」
「そうか・・?ならいいが。・・隣、いいか?」
「あっ、すいません」

ベンチの真ん中を陣取っていたから慌てて端に寄ろうとすると肩を押された。
恐らく俺が食べてる途中だったか気にしなくていいって意味なんだろうけど、そんな状態で隣に座られると狭くて体がくっつきそうになる。
居心地が悪くてそれとなく離れようとすると犬が立ち上がって間に割り込んだ。

「どうしたんだ、お前」

わしわしと犬の頭を撫ぜながら横にずれる。
出来た隙間に犬が前足を乗せて、はっ、はっと息を吐いた。
助かった。
なんとなくこの人苦手だ。
感謝の気持ちで犬に触れていると反対側から手が伸びてきた。
触れられるのを嫌うように犬が口を開けてその手を追い払う。
先輩はそれをじゃれてると受け取ったようだった。

「・・可愛いな、うみのの忍犬か?」
「いえ、違います」

続かない会話が気詰まりで、弁当をしまう。
本当は一人で居たかったし、カカシのことを考えていたかった。
それを誰かにかき乱されるのは嫌だ。

「次の授業の準備があるんでもう行きます」

立ち上がると犬も立ち上がった。
足踏みするようにくるっと俺の周りを歩くと着いて来る様子を見せる。
そのことにほっとして職員室へ戻ろうとすると腕を掴まれた。

「待てよ、そんな逃げなくても――」
「離して――」

ガウガウガウガウ!!

急にけたたましく吠え出した犬に二人して驚いた。
腕を掴んだ手がぱっと離れて距離を開ける。
犬は俺の前で四足を踏ん張った。
姿勢を低くし、鋭い牙を剥き出しにする。
今にも飛び掛りそうな勢いで吼える姿に吃驚して呟いた。

「鳴くんだ・・」

それまでの穏やかな姿とは掛け離れた様子にただただ驚く。

「お、おいっ!その犬どうにかしろ!」
「あ」

言われて、でも言うこと聞くかな?と困っていると先輩がホルダーに手を伸ばすのが見えた。
これ以上は危険だ。

「コラ、駄目だよ」

案の定、鳴き止まない。
方法が見つからなくて犬の口を上下から両手で押さえ込むと先輩が慌てた声を上げた。

「おいっ、危ないじゃないか!噛まれたらどうする!」
「え・・、噛みませんよ・・」
「噛むだろう、普通。忍犬なんだから」

ふと任務中に駆け回る忍犬たちの姿が思い浮かんだ。
勇敢で獰猛に敵に喰らいつく姿が。
だけど俺は噛まれるなんて考えたこと無かった。
カカシの犬が俺を噛むはず無い。
現に口を押さえられた犬は哀しげに俺を見上げるだけだった。

「あ、ごめん」

守ってくれたんだよな。

わかってるよ、と頭を撫ぜると「わふっ」と犬が鳴いた。
嬉しくて、可愛くて何度も頭を撫ぜていると、ちっと舌打ちの音を残して先輩が消えた。

「ありがとな」

その存在が愛しくて頬擦りする。
そうしていると寂しさが紛れて、なんだか心強かった。




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