○月×日 イルカ先生が恋人になった。
イルカ先生の作ったご飯はなかなか美味しかった。
誰かと食卓を囲むのも久しぶりで、――昔、おやじと食べた晩ご飯を思い出した。あの時オレは子供で、一生懸命作ってくれたおやじに旨いとは言えなかった。
(…イルカ先生にはちゃんと言おう)
ソファから茶碗を洗うイルカ先生の後ろ姿を盗み見た。頭を動かす度にぴょんぴょん跳ねる毛束が尻尾みたいだった。何故か背中で交わったエプロンの白い紐と蝶蝶結びが可愛く見える。
きゅっと水栓を締める音がして、慌てて足下に落ちていた雑誌を拾った。エプロンで手を拭きながらイルカ先生がこっちに戻って来た。
(ちゃんと言え、美味しかったってイルカ先生に……)
柄にもなく緊張で鼓動が早くなった。誰かに礼を言うのは照れくさい。
「…イルカ先生、………なにやってるの?」
「いえっ、あの……」
いつまでも居間の入り口で佇んでいるイルカ先生に声を掛けた。顔を赤らめもじもじとオレを見ている。
「こっちに来て座りなよ」
「はい!」
オレとしては隣を指したつもりだったが、何故かイルカ先生は足下に座った。凭れるでもなく体を寄せると、振り返ってオレを見上げる。
「…!」
不覚にも、ドキッとしてしまった。上目遣いが可愛かった。どことなくクロを彷彿させて、そのせいだと自分に言い聞かせた。
その日あったことを話すイルカ先生は一生懸命で、首が痛くならないか心配になってくる。
そろっと額に落ちた髪を掬って後ろに撫で付けてやると、イルカ先生がぺたっとオレの腿に頬を乗せた。
(〜〜〜っ!)
甘える猫のような仕草に頭を撫でてやると、幸せそうに目を細める。
(……ちょっとはイイ雰囲気なんじゃない?)
期待して唇に触れようとしたら、イルカ先生がぱちっと目を開けた。
「カカシ先生、今日の子供達はどんなでした?」
自分のことを話していた時やオレが頭を撫でた時よりずっと嬉しそうな顔で聞いてくる。
「え…ああ……」
喜ぶから子供達のことを話してやるが、内心面白くない。ご飯のお礼も言えてなかったことを思い出して、胸の中がもやもやした。
(……面白くない)
なのにイルカ先生はそれから?それから?と聞いてくる。身を乗り出す様に膝の上に手を置かれて落ち着かなくなった。イルカ先生が笑うと腿に振動が伝わる。
「……っ!」
突然立ち上がった。余程安心していたのか、イルカ先生がオレの膝の上にいた時の体制で後ろに転がった。ビックリした目をぱちぱちさせた。