○月×日 イルカにちょっかいをかけるヤツ等がいる。
気を付けないと。
ここの警備をイルカに回せないだろうか?
後でテンゾウに相談しよう。
痩せこけていたイルカが頬は膨らみを取り戻して、ツヤツヤしていた。それは食事を取れるようになったのもあるが、一番の原因は『差し入れ』にあった。
今もイルカはゼリーに埋もれた大きな苺を取り出し、嬉しそうに頬張っている。もぐもぐと口を動かし、「おいしー」と頬を蕩けさせてご満悦だ。
送り主は暗部の連中。アイツ等オレには見舞いも寄越さないくせに、イルカにだけは差し入れをした。なんでも刺客が現れた時のイルカの強さが口コミで広がり、憧れの的だとか。秘かにファンクラブが設置され、手合わせをしたいと願う連中が後を絶たないらしい。
オレはその話を、差し入れを託されたテンゾウから聞いて腑が煮えくりかえった。
人のものに手を出そうとは良い度胸だ。自ら持参すれば、その場で切り刻んでやったものを。
…とは言え、最初多種多様だった差し入れは、イルカが甘い物が好きだと知れると菓子や果物に変わった。ゼリーなど消化の良い物を送ってくれることを考えると、ヤツ等もイルカのことを考えてくれてるのだろうが、嬉しそうに食べるイルカを見ていると他のヤツに餌付けされてるような気がして面白くなかった。
じっと見ていると、視線に気付いたイルカが申し訳なさそうな顔をして、いそいそと苺を堀り出した。
「カカシさん、あーん」
あーんと苺の乗ったスプーンを差し出されて困った。
(甘いのは嫌いだって言ってるのに…)
「アーン」
イルカに向かって大きく口を開けると、よく冷えた苺が舌の上に転がり込んできた。
「おいしいですか?」
「…ウン」
よかったぁと笑うイルカに複雑になる。
「カカシさん、もう一口」
「ん、もういいよ」
「…そうですか?」
寂しそうな顔したけど、ゼリーを口に運ぶとイルカの顔はニコニコになった。この顔をさせているのが他人だっと思うとムカムカする。
ついこの前までは、オレの病院食を手ずから分けてやっていたのに。雛のように口を開けるイルカがいかに可愛かったか筆舌しがたい。レンゲを「あん」と咥えると、オレが引き抜くのを待ってから口を動かしていたのだ。こくんと喉を動かすと、ふわっと安心したように笑った。
『…おいしいです』
オレはこの声を聞いた時、どれほど嬉しかったことか!!
「おいしかったぁ」
オレの回想を掻き消し、苺ゼリーのカップを空にしたイルカがほんわかと言った。
「次はどれにしよっかな♪」
最近オレは、イルカがおやつを食べに病室に来ているように思えてならない。どう見てもオレよりおやつに気を取られている。
むかっ。
「テンゾウいる?」
不機嫌に呼びかけると、テンゾウが瞬身で現れた。
「どうしました?センパイ」
「なんか甘いもん買って来て」
「は?」
「いいから買って来て!」
テンゾウの気が明らかに抜けていった。面をしているから顔は見られないが呆れているのだろう。オレの声音から有事を想像したに違いないが、構うもんか。
「あの、カカシさん…、甘い物ならたくさんありますよ?」
おずおずと誰かが買って来た箱を見せられて苛立ちが募った。そんな物より、オレが買った物を食べさせてやる。
「テンゾウ、早く行って!」
「…ハイハイ。何がいいですか?北村屋のこんころでいいですか?」
「いーよ」
「こんころ…?」
と首を傾げていたイルカが突然立ち上がった。
「あの!俺行ってきます。ちゃんと場所教えて貰えたら行けます」
「えっ!?何言ってんの。イルカはいいよ、来たばっかりじゃない」
「でもっ」
「あー…、イルカさん、僕が行きますから、センパイのことお願いします」
(イルカさん!?)
馴れ馴れしい呼び方にむっとしたものの、テンゾウが部屋を出て二人きりになると機嫌を直した。