○月×日 テンゾウにイルカの自慢をする。

「でさー、イルカったら木の下で寝ながら泣いてるんだよ?ホント、イルカってしょーがないよねぇ」
 晴れた日の昼下がり、オレはテンゾウ相手にイルカの話をしていた。テンゾウはオレの護衛に付いて、ずっと天井裏にいるのもヒマだろうから話し相手になってやっていた。
 オレの方も体の回復が進み、ベッドから出られないものの上半身を起こせるようになり退屈だった。だけどイルカの話をしている時は時間の進み具合が違う。あっと言う間に時が過ぎて、イルカが来てくれる時間になるからいい。
「…センパイ、その話何度目ですか」
「アレ?前にしたっけ?ま、いいじゃない。お前も退屈デショ?」
「センパイって、かなり失礼ですよね。…でも、珍しいですね。センパイが誰かに固執するなんて」
「べ、別に固執とか、そんなんじゃなーいよ。だって、イルカってバカなんだもん。だからオレがいなくちゃダメなーの」
「何言ってるんですか。センパイ、バカは切り捨てじゃないですか。お陰でセンパイと組んで副隊長してる時、どれほど部下に泣き付かれたと思ってるんですか」
「そうだっけ?もう忘れた」
「大体、馬鹿ってそんなに鼻の下伸ばして言う言葉ですか」
「伸びてないよ」
「伸びてますよ。伸び伸びですよ」
「うっさいなぁ。…はぁー、早くイルカ来ないかな。あ、テンゾウもういいよ。そろそろイルカが来るからどっか行って」
 イルカの気配を感じてテンゾウを追い払おうとしたけど、イルカ方が一足早かった。元気よくドアが開いて、イルカがぱあっと笑顔を浮かべる。その笑顔が、テンゾウを見てビキッと固まった。暗部に驚いたのかと思ったが、そうじゃないらしい。
「…白猫」
 ぽつりと呟くと、ジリ、ジリとテンゾウから距離を取りながらオレの方にやって来た。イルカの全身から警戒色が溢れ出ていた。猫の姿なら毛が逆立っていただろう。オレに背を向け、テンゾウとの間に立ちはだかると宣言した。
「カカシさんは黒い猫の方が好きです!カカシさんは俺のです!」
「頼まれたっていりません」
「そうですか。あの、うみのイルカって言います。カカシさんがいつもお世話になってます」
「ええ、まったく」
 握手を交わすとテンゾウは「それじゃあ」と瞬身した。
 ちょっと待て、今の会話おかしく無かったか?
 ツッコミたかったが、イルカは気にせず、ふわりと胸に飛び込んできたから疑問はどっかへ行った。
「カカシさん、ただいまです」
「ウン、おかえり」
 くしゃっと頭を撫でてやると、イルカから笑みが零れた。最近のイルカは本当に可愛い。陰りが消えて輝いて見えた。イルカが美しくなった。それは面の皮一枚の事じゃなくて、内面から溢れ出す光がイルカを美しくみせた。そんなイルカがオレは眩しくて堪らない。
「イルカ、キスして」
「ん…」
 イルカが頬を淡く染めながら、尖らせた唇をちゅっとくっつけた。それだけで天にも昇る心地になった。


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