○月×日 イルカを泣かせてしまった。
イルカは猫で居る時の方が余程素直だった。体を擦りつけて甘えたり、指にじゃれついてオレを笑わせたりする。小さな体でぴょんぴょん跳ねるのは、見ていて可愛かった。にゃあと声を上げるのも可愛い。
「イルカ、そろそろおやすみ」
さっきまで遊んでいたイルカの小さな頭がゆらゆら揺れるのを見て、布団の中へと促した。
「にゃーぁ」
「大丈夫、ずっと傍にいるよ」
小さな耳をぴくんと揺らすのにそう声を掛けると、イルカはもぞもぞと布団の中に入っていった。
何故だろう?ネコで居た方が、イルカの気持ちが良く分かる気がした。ネコだと感情が体表に表れるからだろうか?
手の平の中で体を丸めるのに背中を撫でてやると、ぐんと大きく伸びをした。頭を何度も体の脇に押しつけて、腕をてちてち舐めるが、その動きがだんだんとゆっくりになる。こてんと小さな頭が腕に乗っかりイルカが動かなくなった。腹がゆったり上下するのにイルカが眠ったのを知る。
ほうっと息を吐いて、その柔らかな毛を撫でた。思い出したように、てち、とイルカが腕を舐める。
(いいんだよ、ゆっくりおやすみ)
くすくす笑って頭を撫でてやろうと腕を動かすと、びくっとイルカが四肢を絡ませた。怯えた様に体を震わせ、必死にひがみ付く。
動いてはいけなかった。
「ゴメン、イルカ。どこにも行かないよ」
その必死な様子に胸が痛くなった。同時にここまで求められていることに胸が熱くなる。イルカはすべてをオレに捧げていた。オレが居なくては生きていけないだろう。
オレはイルカを理解した。
イルカはどこまでもオレについてくる。オレが死ねば、死の淵までも。食べないのは、オレに追いつこうとしているからか――。
(……バカな子…)
だけど愛しい。
「イルカ、眠って」
トントンと背中を撫でた。込み上げてくる熱いものを見られたくない。努めて平静に呼吸を繰り返していると、イルカの体から力が抜けた。
今度こそゆっくり寝かせようと身動き一つ取らないようにした。朝までゆっくり寝かせてやりたい。
じっとイルカの背を撫でていると浅かった呼吸が深く変わった。言いようのない愛しさと満足感が胸を満たす。
その時、招かれざる客が訪れた。
「はたけカカシだな」
客は3人。他里の額当てには横線が引かれていた。警護の来る気配は無く、体は動かない。
イルカが、気付かなければいいと思った。