○月×日 イルカは思いの外頑固だ。
オレの存在がイルカを追い詰めている。
次の日、病室に来たイルカの顔色は幾分良くなっていた。昨日点滴を打って貰ったのと眠ったのが良かったのだろう。
「カカシさん、俺、明日休みなんで今日も泊まって行きますね」
嬉しそうに告げるとイスを引き寄せた。それがいいかもしれない。イルカはオレの傍なら眠れる。昨日もベッドをくっつけて隣に並べるとイルカは素直に眠った。時折目を開けてオレを探すこともあったが、手を強く握ってやると安心して目を閉じた。
「イルカ、今日はご飯食べた?」
「た、食べました…」
「…………」
イルカは嘘が吐けない。おどおど俯くイルカに、これは食べてないなと思いながら、何も言えないでいた。今はイルカの表情が明るい。哀しい顔を見たくなかった。後で頃合いを見て兵糧丸を飲ませよう。
「…イルカ」
ベッドの中で指を動かすと、イルカがオレの手を引き抜いて自分の頬に当てた。撫でてやるとうっとりと目を細める。
(あ、また…)
イルカが儚い顔で笑っていた。何もかも諦めたような、見ていて胸が痛くなる笑顔だ。
「……イルカ、オレは死ぬワケじゃないよ」
死と言う言葉にイルカの体が強ばった。
「あ、当たり前じゃないですか!どうしてそんなこと言うんですかっ?どうして――」
混乱したイルカがオレを強く揺さぶり、縫合した脇腹を刺激した。
「痛っ!」
「あっ、ごめんなさい…っ、ごめんなさい………」
怯えた顔したイルカがさっとオレから離れ、踵を返した。
「イルカ!!」
ドアに向かって走ったイルカを呼び止めた。
「どこにも行かないで。今出て行かれたらオレは追いかけられないから、辛くてもココに居て」
背を向けたイルカの肩が激しく上下していた。ひっひっと短い呼吸を繰り返し、手を強く握る。
「……イルカ、こっちに来て」
優しく呼びかけると、イルカはおずおずと振り返った。泣いているのかと思ったが涙は出ておらず、奇妙な表情を浮かべている。
「イルカ?」
「ごめんなさい、カカシさん」
「ん。もう痛くなーいよ。だからこっち来て」
もどかしくなるくらいの速度でとぼとぼ歩くイルカに手を広げてみせると、そうっと手が重ねられた。逃げられないように強く握ってイスに座るように促す。さっきまでの明るい表情は消えて目が虚ろに曇っていた。
まったくどうしていいか分からない。