○月×日 明日、イルカと話す。
少し距離を置いた方がいいのかもしれない。
点滴が終わってもイルカは目覚めることなく、深夜になっても眠り続けた。白いベッドの中、イルカの青白い顔を夜の光が浮かび上がらせている。
今日はもう目覚めないのかもしれない。
頬の痩けたイルカの寝顔を見つめながら昼間のことを思い出していた。はち切れんばかりの笑顔で売店へ向かったイルカと、空っぽの胃からまだ何かを吐き出そうと苦しみながら、謝り続けていたイルカを。
汚くしてごめんなさいと、生理的な涙を溢しながら何度も謝っていた。
バカじゃないだろうか。
人の気分を害したと気にするより、自分の体の心配をしろっつーの。誰がそんな姿を見たいものか。
イルカが目覚めたらはっきり言うつもりだった。
――オレの傍に居たいなら、もっとしっかりしろと。
怪我やチャクラ切れぐらいでいちいち倒れられたら困る。今すぐにでも文句を言ってやりたいぐらいだが、イルカが起きない。
――と、イルカの目蓋がぴくぴくと動いた。閉じていた瞼がゆっくり開いて、黒く濡れた瞳が現れる。
「…イルカ」
呼びかけたが、まだ眠りの縁にいるのか気付かなかった。パチパチと瞬きを繰り返し、暗闇の中に目を向けると、はっと飛び起きた。
「カカシさん…っ」
するりとベッドから下りるとどこかへ行こうとする。
「イルカ!」
鋭く呼びかけるとイルカがばっと振り返った。裸足の足をひたひた鳴らしてオレの方へと駆け寄ってくる。
「カカシさん…!カカシさん…!」
迷子の子供が親を見つけたような必死さで、ベッドの中に手を入れると無言でオレの腕にしがみついた。
「大丈夫だよ、イルカ…、イルカ」
しばらく名前を呼び続けると、イルカはオレの腕から力を抜いた。指の痕が付いたんじゃないかと思うぐらい強く握っていた。
「ここ…」
ようやく落ち着いたのか、イルカ先生が現状を把握しようと辺りを見回した。
「病院だよ。イルカ、点滴したらそのまま寝ちゃったの。今日は泊まってって良いって」
「そうですか…」
イルカの強ばっていた顔がほっと緩んだ。嬉しいと思っているのが見て取れた。
オレと一緒に居られるのが嬉しいと。
そんな表情を見せられると、ころっと絆された。厳しく叱ろうとしていた筈が、かろうじて動く指先でイルカの手を握った。
「カカシさん」
甘える声で呼ぶとイルカは何時ものようにイスを引き寄せ傍に座った。ぺたんとオレの胸に頭を乗せると、布団の中からオレの腕を出して自分の頭に乗せる。撫でてやるとイルカはふわりと笑った。見ていると胸が痛くなるような儚い笑顔だった。
指先を動かして頬を撫でるとカサカサに乾いていた。唇も皮が浮いて荒れている。
「…イルカ、ちゃんとご飯食べないとダメだよ?」
頷いたイルカはそっと目を閉じてオレを遮断した。ちゃんと聞いてくれるのか不安だ。