○月×日 イルカがご飯を食べない。
オレが入院している間、イルカは朝昼晩とアカデミーに勤務する傍ら、時間を見つけて来てくれたが、どの時間に来たイルカからも食べ物の匂いがしなかった。
ちゃんと食べたか聞けば、曖昧に頷くか後で食べると口を濁す。
「イルカ、売店で何か食べるもの買って来て」
オレの手を握って腕に頭を乗せるいつもの姿勢でぼんやりしていたイルカがぱっと顔を上げて、眩しいほどの笑顔を見せた。
「カカシさん!ご飯食べられるようになったんですか!?なにが食べたいですか?なんでも言ってください!」
「イルカが好きなのでいーよ」
「はいっ」
喜び勇んで立ち上がったイルカの後ろ姿は一回り小さく見えた。普段からよく食べて、ころころ…とまでは言わないものの健康的だった姿が態を潜めた。最近のイルカは死を待つ弱った動物を連想させてオレを不安にした。
痩せたイルカなんてイヤだ。
オレは食事制限中だから食べられないが、イルカには食べさせるつもりでいた。
戻ってきたイルカは誰がそんなに食べるのかと、問い質したくなるほど大きくなった袋を両手に抱えていた。
「カカシさん、どれがいいですか?おむすびとパンと――」
ガサガサと袋を漁って、嬉しそうに中身を取り出す。
「オレじゃなーいよ。イルカが食べるの」
「え?…俺?」
イルカから笑顔が消えて、無理矢理な笑顔を浮かべた。
「…俺はいりません。カカシさんが食べてください」
「オレは点滴で栄養採ってるからいーの。それよりイルカは最近食べてないデショ?」
「…食べてます」
「うるさい。食べて。オレの目の前で、今すぐ」
そんな嘘が通じるとでも思っているのか。イルカが叱られた子供のようにしょぼんと肩を下ろしたが、許さずにいるとイルカの手が迷い、のろのろとパンを掴んだ。
キツい口調になってしまったが、イルカが食べてくれればそれで良い。
「…げふっ…うっ、げぇ…」
パンに一口齧り付いたイルカが嘔吐いた。口元を抑えて備え付けの洗面台に走ると激しく嘔吐する。
「イルカっ!イルカ…っ!」
震える背中をオレはベッドの中で見ていることしか出来なかった。駆け寄ってやれないのが酷くもどかしく、辛そうなイルカに身が千切れる。
イルカがヤバい。何か悪い病気だろうか?