○月×日 イルカ先生に元気が無くて心配だ。
目を開けたら白い天井が見えた。
(…またココか……)
チャクラ切れを起こしたらしい。慣れた倦怠感が全身を覆う。
僅かに目を動かせば、点滴がぽたぽたと水滴を垂らし管を通って右腕に繋がっていた。左目は包帯がしてあるらしく暗く、ずんと重い鐘が響くように頭の芯へと鈍痛をもたらしていた。
溜息を吐いて体に力を探れば脇腹と大腿に斬られた痛みが走り、――動かない左腕におや?と思った。傷を受けた記憶がない。
動かない頭を持ち上げて左腕を見れば黒い頭が見えた。てっぺんで纏めた髪が勢いよく広がっている。これほど近くにいたのに、感知出来なかったのはチャクラ切れの為かそれだけ気を許しているからなのか…。
「……イルカセンセ」
名を呼べば、イルカ先生が伏せていた顔を上げた。眠っていただろう目は落ち窪み、頬が痩けている。
「イ、イルカセンセ!?どこか具合悪いの?」
思わずそう聞けば、目を見開いていたイルカ先生がにこっと笑った。
「…いえ、違います。カカシさん良かった。気が付いたんですね」
イルカ先生の様子に、またおや?と思ったが、その違和感が形を表す前にイルカ先生が動き出した。
「お医者様を呼んできます」
止める間も無く病室を出て行ったイルカ先生に枕元を探った。呼ぶのならナースコールを押せば済むことなのに。
程なく医者を伴って戻ってきたイルカ先生はすぐに病室を出た。診察の間どこにいるのか姿を見せない。ようやく戻ってきたイルカ先生は腕に花を抱えていた。
「しばらく入院になるそうなので、あった方がいいかなと思って」
やはりイルカ先生がどこかおかしい。
「そんなのいいよ。近くに座って」
かろうじて動く左手の指先で、こっちと手招きすると椅子に座る。
「カカシさん…」
指先に絡んだ指は水を触っていたからか冷たく、小さく震えていた。
「イルカ、寒いの?もっとこっち来ていーよ。布団の中に手を入れな。オレ、温かいから」
うんと頷いたイルカがオレの手ごと布団の中に腕を突っ込んだ。椅子をガタガタ鳴らして出来るだけ近づくと、右腕の頭を乗せる。
イルカの震えはなかなか止まらなくて、頭を撫でてやれないのがもどかしかった。