オレのもやもやを知ってか知らずか、イルカ先生はのんびりしたものだった。いつものように晩ご飯を作ると目の前に並べる。
「たくさん食べてくださいね」
そう言った口は、自らの口におかずを運ぶのに忙しく、オレがしたキスなんて覚えている素振りもなかった。
無かったのに。
「カカシさん、ご飯が終わったら一緒にお風呂に入りましょうね」
「ぶぶーっっ!」
(な、なんて言った!?フロ!?)
よもやイルカ先生から誘われる日が来るなんて、思ってもみなかったからぶったまげた。
カコーンと桶を使う音が響いて来た。
(うん、だよね。そうだと思った。)
食後、イルカ先生がオレを連れてきたのは銭湯だった。ご飯を綺麗に食べ終え、内心ワクワクしているオレをそっちのけに、イルカ先生は着替えを袋に詰めだした。
「さ、行きましょうか」と言われた時のオレの空しさを想像できるだろうか?
のろのろ服を脱いでいると、イルカ先生はさっさと脱いで湯殿に向かった。
(コラ!前ぐらい隠しなさいよ!)
タオル片手に歩いていくイルカ先生のお尻を睨み付ける。慌てて腰にタオルを巻くと、イルカ先生の後を追った。
「空いてて良かったですね」
掛け湯を済ませるとイルカ先生が湯船に浸かった。隣に並ぶと、顎の下まで湯船に浸かると、にこりと笑う。ふにゃんと緩まった口元は気持ち良さげで、期待したものでは無かったが、銭湯もいいかと体を伸ばした。
だが、フロ好きのイルカ先生には良いが、オレにはちょっと湯が熱い。
「体洗うね」
「はい、俺はもうちょっと浸かってからにします」
ヒタヒタとタイルの上を歩いてシャワーの前にある椅子に座る。いつも通り頭から洗い、体も洗おうとタオルを泡立てた。
ふとイルカ先生を見ると、まだ湯船に浸かっている。
(そろそろイルカ先生も洗ってくれないと、上がるタイミングがずれてしまう…。)
気にはなったが、外で待っていれば良いかと考え直して、声は掛けずにいた。せっかく好きなフロに浸かっているのに、急かすもの悪い。
一通り洗い終えて戻ると、イルカ先生はさっきより赤い顔をして湯船に浸かっていた。
「…イルカ先生、大丈夫?のぼせてない?」
ちょっと心配になってくるような赤さだ。顔を覗き込むと、目を背けて更に深く潜った。
「………」
「ん?」
「……ちました」
「え?なぁに?」
「だからっ、勃ったんです!」
聞こえないような小声でイルカ先生が叫ぶからビックリだ!
「えっ!なんで!?」
「しーっ!おっきい声で言わないでください。カカシさんの背中見てたら、こうなっちゃったんです!」
(なに言ってんの!?この人!!)
嬉しいやら困るやらで、カーッと顔が火照る。一向にイルカ先生が湯船から上がらなかったのは勃起しているからだった。
「……どうしよう?」
最後は涙目で見られて、オレも慌てた。
どうしようったって、こんな所じゃあ抜けやしない。
「あっ!そうだ!猫になったら?猫になったらいいんじゃない?」
「そっそうですね!じゃあ…」
ぱぱぱっと印を結ぶとイルカ先生はクロに変化した。沈まないように、さっと小さな体を支えると、イルカ先生共々、ふーっと安堵のため息を履いた。
「ちょっとお客さん!湯船に猫を入れてもらっちゃあ困るよ!」
「え」
振り返ると、清掃に入った風呂屋のおやじがオレを睨み付けていた。
「えっ、いや、これはちが……」
違わない。今のイルカ先生は確かに猫だった。
「スミマセン、すぐに上がります」
クロを抱えてざばっと立ち上がる。するとおやじは下を見て、こうも言った。
「そういうのも、ここでは困るんですがね」
つられて下を見ると、興奮した中心が濡れたタオルを押し上げていた。