○月×日 最近どうも分が悪い。
「すぐ終わりますから、待っててくださいね」
言いながら、買った物を袋に詰め込むイルカ先生は必死だ。
前にほったらかしにしてから、イルカ先生はオレといる時一人でスーパーに入らなくなってしまった。入り口に来ると哀しそうな顔でもじもじするから、仕方なくオレもついていく。中に入ってからも片手でカートを押しながら、もう片方の手でオレの袖を掴む始末だ。
今も、手を離しているからオレがどっか行ってしまうと心配している。
「カカシさん、もうすぐです!あとちょっとで詰め終わりますから」
それを聞いた隣の主婦がくすっと笑った。そう言えば、さっき連れた子供に同じようなことを言っていた。
(オレは子供じゃないっつーの!)
恥ずかしくなって離れようとすると、イルカ先生が泣き出しそうな顔をした。
「カカシさんっ!」
「分かってるって」
(……ったく、子供なのはどっちだよ)
イルカ先生がカートを戻しに行く間、荷物の入った袋を手に取る。
「あっ!俺持ちます」
「いーよ」
小走りで戻ってきたイルカ先生を腕にぶら下げて外に出た。
「あ、良い匂いがする」
買い物を済ませてホッとしたのか明るい顔でイルカ先生が鼻をうごめかす。視線を追うと鯛焼きの屋台が出ていた。
「買ってくる?」
「もうすぐ晩ご飯なんで止めときます」
首を横に振るイルカ先生に、それぐらい良いじゃないかと思った。一個ぐらいなら、差し障りないだろうと判断して、イルカ先生をぶら下げたまま屋台に近づいた。
「すみません、一個ください」
「はいよ!」
紙に包まれた焼きたての鯛焼きを受け取る。
「ん」
「え?」
歩きながら鯛焼きを差し出すと、イルカ先生の口がほかんと開いた。
「食べたかったんデショ?」
じわり、とその顔に笑顔が広がった。鯛焼きを両手で受け取り、ぱあっと笑う。
「やったー!ご主人さまに鯛焼き買って貰った!!俺、一生大事にします!!!」
「なに言ってんの。バカ言ってないで、さっさと食べな」
あまりの喜び様に照れくさくなった。喜ぶ顔がやけに可愛い。
鯛焼きぐらい、いつでも買ってやる。そう言ってやると、頬に鯛焼きを押し当てていたイルカ先生が包みの紙を開いた。はくっと大きな口を開けて鯛焼きの頭にかぶりつくと、にまーっと頬を緩める。
「…おいしい」
「…!」
「カカシさんも一口食べますか?」
はい、と差し出されて、我慢できなくなった。イルカ先生を路地に連れ込むと、頭を押さえて深く口吻けた。口の中を掻き回し、甘い舌を吸い上げる。甘い物は嫌いだが、イルカ先生の舌は気にならなかった。
唇を離すと、とろんとしたイルカ先生がオレを見上げた。
「どうしたんですか…?」
目をぱちぱちさせるイルカ先生に、今の衝動を感じたのはオレだけだったのかと寂しくなった。
ふと、疑問がわき上がる。
「ねぇ、イルカ先生は人としてオレが好きなの?それとも猫として?」
問いかけると、イルカ先生は深く首を傾げた。
ちょっと待って。それって悩むとこなの?