○月×日 イルカ先生は少しヘンだ。
忍犬達にイルカ先生を紹介した。…もとい、イルカ先生を忍犬達に紹介した。
一応恋人だと紹介するとイルカ先生は照れくさそうに鼻の傷を掻いた。しゃがんで犬達と目線を合わせると自己紹介する。
「うみのイルカです。よろしくお願いします、先輩!」
(((((((((…せ、先輩?)))))))))
オレ+忍犬八匹は首を傾げたが、ニコニコしているイルカ先生に黙殺した。オレを見る、物言いたげな忍犬達の視線も黙殺だ。
訓練と遊びを兼ねてボールを投げると犬達が走り出した。一番にボールを咥えたものがしっぽを振りながら戻ってくる。
「よし!偉いぞ!」
わっしわしと背中を撫でてやると千切れんばかりに尻尾を振る。
「わぁ!すごいすごい!」
ぱちぱちと手を叩いて喜ぶイルカ先生にオレの鼻も高くなった。誉められた忍犬達も活気付いて、ワンワン吠え立ててボールをせがんだ。
「そらっ、行ってこい!」
ついつい夢中になって犬達と遊んでいると、戻ってきたパックンがオレの手の平にボールを返して言った。
「ご主人、イルカが泣いておるぞ」
「えっ!なんで!?」
隣を見れば膝を抱えたイルカ先生が確かに泣いている。さっきまで笑っていたのに両目からぽろぽろと涙を溢して静かに泣いていた。
「なに?どうしたの?」
イルカ先生の泣き方は静かでわかりにくい。この前みたいに声を上げて泣くのは希なことだった。
「……俺も、ご主人さまに可愛がられたい……」
言っている内に更に哀しくなったのか大粒の涙を溢した。
「俺にもボール投げてください……」
はっきり言ってイルカ先生はバカだ。
仮にも恋人だと紹介したのに。
「そんな必要ないでしょう」
哀しそうな顔でオレを見上げるイルカ先生の尻尾を引っ張った。
身を屈めて、上を向いた顔に顔を近づける。
いつものことながら、しょっぱい唇に顔を顰めた。
「さっさと鼻拭きなさいよ」
「は、はいっ!」
――泣いたカラスがもう笑った。
そんな言葉をイルカ先生の笑顔に思い出して、ボールをめいっぱい遠くへ投げると犬達を追い立てた。