←text topこんぺいとう 7
(・・・シたくないって・・、シたくないって言った・・)
わあっと込み上げてくるものを必死で堪えた。布団の中でむうっと口角を下げたカカシさんに俺だって口角を下げた。ここで負けるわけにはいかない。気持ちを奮い立たせて口を開いた。
「そんなこと言って!、シたくなった時はどうするんですか!?他でスルんですか?俺がいるのに・・カカシさん・・他の誰かと・・するんですか・・っ」
言いながら、堪えきれず涙が出てきた。だめだ。ぜんぜんすっきりしなかった。はっきりさせるのが怖くて頭の中の遠くに追いやっていたのに、ついに断言されてしまった。やっぱりカカシさんは俺となんかと寝たくない。めちゃくちゃ傷ついて胸が痛くなった。
「もぉっ、イルカ先生は!なんでそっちに反応するかなー・・、オレはデリカシーのない人とはって言ってるデショ!」
「・・・??」
ベッドから降りてきたカカシさんがパジャマの袖で俺の顔を拭う。言われたことを考える間も涙が零れて、はあっとカカシさんが溜息を吐いた。
「イルカ先生って快楽に弱いよね。キモチ良いこと好きデショ」
「なっ、なっに言って・・」
言い当てられて顔が火照る。否定はしない。
(だけどそんなの男だったら誰だってそうじゃないか・・!)
不満に眉間を寄せると、ますますカカシさんから落胆する気配が届いた。
「イルカ先生は本当にオレとシたいの?それともただキモチ良くなりたいだけ?」
あまりの言われように、カッとなって手を振り上げたがあっさり捉まった。
(そんなんじゃない。そんなんじゃないのに・・!)
今度は悔しくて涙が零れる。
「・・もういいです!」
「よくないよ。もっとよく考えて。どうしてオレとシたいの」
「どうしてかなんて、そんなの恋人だからに決まってるでしょう!カカシさん、俺と出来ないと、いずれ俺から離れていくから、・・そんなの・・いやだ・・」
「はぁー・・、なんでそんな風に思うかなー。離れるわけないデショ?ずっと待ってるのに・・」
「え・・?」
「イルカ先生が本当にオレのこと好きになるまで待ってるの!」
「・・なんでそんなこと・・」
訳がわからない。
そう思ったのが顔に出たのかカカシさんがばりばりと頭を掻いた。
「あのね、イルカ先生。あんな簡単に好きなんて言われたって信じられないよ」
「そんなこと――」
「いいから聞いて。オレね、はっきり言ってものすごく傷つきましたよ。てっきり両想いだと思って手を出したらこっぴどく振られて、違うなら出て行こうと思ったら引き止められて。・・イルカ先生が何考えてるのかわからないよ。拒んだくせに抱かせてって言えばあっさり触らせるし。そのくせイルカ先生が受け入れたのは快楽だけで、触れてるオレのことなんかどうでもいいみたいに扱って・・。それでも好きだから傍にいようとしたら逃げられて、黙って見合いして、もう嫌われたのかと思ったら今度は好きって・・。それで浮かれてたら女にも気を持たせてて・・」
「・・・・・・」
(・・・・・・・・酷い)
自分の起こした行動ながら、まとめて聞くとあんまりな話だ。俺ならそんな奴、絶対に好きにならない。そう思うと、すごく不思議になってきた。
「・・・・・・・カカシさん、どうして俺のこと好きなんですか?」
聞いたらカカシさんがぎゅーっとほっぺたを引っ張った。
「いひゃい、いひゃいーっ」
「・・イルカ先生、オレの言うこと全然聞いてないね」
呆れたように言って手を離した。痛みに頬を押さえようとしたら、カカシさんの手が変わりに押さえた。ぐにぐに揉んで痛みを散らすと、手はそのまま耳の後ろに滑った。
「それは前に言ったデショ?優しくされて嬉しかった。触れられたら心も温かくなった。それで好きになっちゃったって・・」
髪を梳いた手が背中に回る。引き寄せられるまま頬を肩口に押し付けると、腕は背中を抱きしめた。腕の中の温かさに体から力が抜ける。カカシさんの背中に手を回すと髪を撫ぜてくれた。そんな風にされるとダメだ。気持ち良過ぎてカカシさんにすべてを委ねてしまいそうになる。
「・・でも、俺・・優しくなんかないです・・」
酷いことをいっぱいした。詫びる気持ちで口にするとカカシさんが額に頬を押し付けた。
「最近はね。でもオレはちゃーんとイルカ先生が優しい人だって知ってます。優しくしてくれたことを覚えてます。触れる手があたたかいことも、オレはちゃーんと知ってます」
「・・カカシさん」
顔を上げると優しい目でカカシさんが俺のことを見ていた。カカシさんの優しさが心の中に染み込んでくる。優しいのは俺じゃなくてカカシさんの方だった。
「カカシさん・・、カカシさん」
ぎゅううとしがみ付くとカカシさんが背中を撫ぜた。
「だからね、焦らなくていいんでーすよ。オレいつまでだって待てるんです」
――酷い事されたって、ずっとアナタを好きでいたでしょう?
苦笑するように、でも優しい声が耳に届いた。堪らない気持ちになって、ますます強くしがみ付いた。
「でも、もう俺、カカシさんのこと好きになってます!待ってたって、この先ずっと、今と変わらないぐらいカカシさんのことすごく好きだから・・だから――」
その後に続くはずの言葉は深く重なった唇に奪われた。角度を変えて重なる唇に翻弄されて、上手く出来ない息継ぎに気をとられていると、ふわりと背に柔らかい布団と、胸に重なるカカシさんの体の重みを感じた。
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