←text topこんぺいとう 6
てっきり帰ったらセックスするんだと思ってた。
だってもう両想いだし、見合いも断ったし、前に襲われそうになったし。なのに家に帰り着いたカカシさんがしたのは切れた唇にちょちょっと薬を塗るのと、晩御飯の用意だった。
「今日はイルカ先生口の中切れてて味がわかんないでしょうから座ってていーですよ」
「はあ・・」
拍子抜けしながらコタツに入って、支度するカカシさんの後姿を眺める。
(・・・カカシさん、お腹空いてるのかな・・)
だったら食べた後かな・・と食事を済ませ、そのあと風呂の用意をするカカシさんに、(あ、そっか、風呂がまだだった)と体を磨き、ほくほくにあったまってベッドに入って、――何故かそのまま寝てしまった。カカシさんが。
(・・・・・きっと、疲れてたんだな)
そう自分を納得させて目を閉じるがなかなか眠りは来ない。胸の中にもやもやが広がって眠りを遠ざけた。
そして、瞬く間に一週間が過ぎた。
(一週間だ、一週間!)
まともな成人男性なら隣に恋人が寝てたら一回ぐらいシたくなったっていい日数だ。なのに何も無い。
(なんでだ!?)
あの日生まれたもやもやは、黒雲となって心に重く圧し掛かる。
その間、俺だって何もしなかったわけじゃない。
布団の中ではいつもくっついて寝たし(でもこれは付き合う前からくっ付いて寝てたので効果は無かった)、炬燵でも並んで座ったし(でもこれも以下略)、挙句の果てにはベッドで大の字になって、召し上がれ状態でカカシさんを迎えたりもしたのに、寝るところが無いと小さく折り畳まれて隅に追いやられてしまった。
(・・・なんでだ。)
考えるまでもなく、答えは知っている。
(カカシさん、前に俺に萎えた)
あの時、男が男に興奮する訳ないと思ったのは俺だ。ついでにもう二度とカカシさんがそんなこと言い出さないと確信したのも俺だ。
「・・・・・・・・・」
だけどあの時と今とでは関係が違う。
(・・俺、恋人だもん)
しょげ始めた気持ちを温めるために顎の下まで湯船に浸かる。それでも足りなくて、目の下まで浸かってぷくぷく泡を吐き出していると、浴室のドアに影が映った。
「ゴメン、イルカ先生。オレも入っていい?」
「ひゃ、はいっ!」
裏返った声を誤魔化すために咳払いする。心臓がどきどきして、お湯よりも熱く体温が上がった気がした。
(もしかして初エッチはお風呂で!?)
緊張してじっとしていると裸になったカカシさんが入ってきた。
「ゴメンね、泥かぶっちゃったから・・」
「いえ・・、おかえりなさい」
「ただーいま」
目が会うとにこっと笑う。どくっと心臓が高鳴って俯いた。だけど視線の先にはカカシさんの裸体があって、慌てて横を向いた。オロオロしてる間に泥の付いたカカシさんの手が蛇口を捻って、立ったまま頭からシャワーを浴び始めた。
背を向けたカカシさんが俺の視線が気付かないのをいいことに、カカシさんの体を見回した。
(・・すごい)
カカシさんは見事としかいいようのないほどきれいな体をしていた。どこを探しても無駄な脂肪や筋肉が付いて無い。肌は白く、その下で筋肉がなめらかに動いた。その動きは人よりも野生の動物を思わせる。
(豹みたい・・・)
「イルカセンセ?」
はっと気付くと首だけ振り返ったカカシさんが俺を見ていた。じっと見ていたことに気付かれて羞恥が湧き上がる。
「オレも浸かっていい?」
「は、はいっ、どうぞ」
慌てて湯船から出るとカカシさんと入れ違いに洗い場に立つ。が、あまりの心許なさに風呂イスに座り込んだ。
恥ずかしい。
とてもじゃないが見せられるような体をしていない。背中にだって肉は付いているし、
(はっ!)
座ったことによって腹の肉はますます弛んでいた。急いで石鹸を泡立てて体を隠す。そのまま髪を洗っていると、「洗いましょーか?」と声が掛かった。
「い、いいです!もう終わりますから」
とんでもないとシャワーを頭から浴びて泡を流した。心臓がバクバクしてどうにかなりそうだ。このままではのぼせる気がして、きゅっと髪から水気を絞って纏めると立ち上がった。
「先に上がりますね」
「あ・・うん・・」
いそいそとドアに向かい外に出ながらちらりとカカシさんを振り返る。するとカカシさんは俺のことなんてまるで興味ないみたいに、目を閉じて湯船に頭を凭れ掛けていた。
悩むのはあまり好きじゃない。
(ダメならダメってそう言ってもらったほうがすっきりする。)
そんな考えで、ベッドに潜り込もうとするカカシさんに聞いてみた。
「セックスしないんですか?」
ぐっと言葉に詰まったカカシさんが、一呼吸置いて迷惑そうな顔で振り返った。
「なんでいきなりそんな話するんですか」
「いきなりじゃありません。俺たち付き合いだして一週間になるのにぜんぜんシてないじゃないですか。カカシさんは溜まったりしないんですか」
俯いてもごもご言うと、はーっと溜息が聞こえてくる。
「・・デリカシーのない人とはシたくありません」
カカシさんが布団を被りながら言った言葉に頭の中が真っ白になった。
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