こんぺいとう 8





 くちゅんと濡れた音が口の中から耳へと抜けた。

 普段聞くことの無い音に耳を塞がれ、思考が遠退いていく。カカシさんが髪を掻き混ぜ、角度を変えながらキスを繰り返す。舌が入って来た時は「わあっ」とたじろいだけど、イヤじゃなかった。
 柔らかに触れる舌は気持ちいい。
 擦り合わさられるとヘンな刺激が走り抜けて体が震えた。一気に指の先まで体が熱くなって、そうなると些細な刺激でも体が反応した。カカシさんの手が脇腹に置かれただけで体が跳ねる。
(さっき快楽に弱いと指摘されたばかりだ・・)
 必死になって体が震えるのを堪えていると、カカシさんが唇を離した。濡れた唇に目が釘付けになる。カカシさんンが離れたことでほっと体から力を抜くとカカシさんの表情が翳った。
「・・嫌?」
 不安げに聞かれて首を横に振る。
「キス嫌い・・?オレのこと気持ち悪い?」
 違う違うと首を振った。声に出さなかったのは上擦って興奮しているのがバレてしまいそうだったからだ。顔が火照って熱い。気持ち良かったなんて言えっこなかった。
 カカシさんがじっと俺を見ている。俺の真意を探るように。そんな風にされるとすべてを暴かれそうで話の矛先をカカシさんに向けた。
「・・カカシさんは・・どうなんですか?イヤじゃないですか・・?」
「イヤじゃないよ」
「でも・・」
 俺に勃たなかったことを思い出す。
(こればっかりはどうにもならないよな・・。最終的には触りっことかして、それでカカシさんがイけたらいいかな・・)
 案外好きな人が自分に欲情してくれないのは哀しい。しょぼんとするとカカシさんがもう一度、「イヤじゃないよ」と繰り返した。
(・・ホントかな?)
 疑い深くカカシさんを窺がっているとカカシさんが俺の上で身じろいだ。頬を薄桃色に染め、おもむろに重ねていた体をずらす。

 すると、何かが太股に当たった。硬くて、棒みたいな何か・・。

「あ!」
 それが何なのかすぐに気付いたけど、確かめようと身を捩るとカカシさんが目を塞いだ。
「・・そんなことしたら恥ずかしいデショ」
 甘く責められてかあっと顔が熱くなる。甘えるように額を寄せてくるカカシさんの潤んだ瞳に落ち着きかけていた鼓動がまた早くなった。
 ちょっと心構えが足りなかったかもしれない。
 自分から話を振ったもののカカシさんが俺に欲情すると思って無かったから、どこか夢の向こうのことのように思っていた。それが現実になろうとしている。
「シて、いいんですよね?」
 きゅっと閉じ込められた腕の中で体温が上がる。内心緊張して体が震えた。そんな俺の心境も知らず、カカシさんがぎこちなく擦り寄ってくる。
「イルカ、せんせ・・」
 すりすりと頬を寄せられて気が緩んだ。
(・・可愛いな)
 嬉しげに頬を染めるカカシさんを見ていたら、なんだか気負いすぎていたような気がしてきた。嬉しい、嬉しいとぎゅうぎゅうしがみ付いてくるカカシさんに絆されて、
(カカシさんの好きなようにさせてあげよう・・)
 主導権を譲るために体から力を抜いた。


 が、それは大きな間違いだった。

「ふあっ・・あっ・・やぁ・・っ」
 忙しない呼吸に嗚咽が混じる。急所を掴んだカカシさんの手を引っかいた。
「はなし・・てっ・・、も・・イク・・イクぅ・・」
「ダメだよ。さっき一回イったデショ?これ以上イクとイルカ先生が辛くなるから、もうちょっと待って?」
「やっ!やぁっ・・ああっ、あぁ・・」
 狭い穴から入った指が体の奥を探る。カカシさんが入る準備をしているのはわかったが、それが気持ち良かった頃はとうに過ぎて、今はもう辛い。堪えられる限界なんてとっくに超えていた。射精を塞き止められて喘いでいるのか呻いているのか判別の付かない声が口から漏れる。
「ヒッ!ソコやぁ・・アァ!いやぁ・・あっ!やめ・・っ」
 指の腹で前立腺を擦られてわっと涙が溢れ出た。中を広げる最中に時々そこに指が当たって強烈な快楽を生んだ。堪った熱が出口に向かって駆け上がり、逆流する。
「・・っ!・・くぅ・・もう・・苦し・・」
 なんでもいから、早く。
 それだけで頭の中がいっぱいになって後の事はどうでもよくなる。開放される瞬間だけを望んで口走った。
「カカシさん・・、はやく・・はやく・・」
「ダメ、イルカ先生煽らないで・・」
 苦しげなカカシさんの声が聞こえる。
「やっ、もういい・・いれて・・挿れてぇ・・」
「イルカセンセ、・・っ」
 その瞬間、中にあった指が引き抜かれた。
「ゴメン、我慢できない・・」
 痛いほど両足を開かされ、潤んだ熱が後口に当てられた。太股を掴んだ手は指が食い込んで痛かったけど、その後の衝撃に痛みは吹き飛んだ。ぐっとソコに体重が掛かり、ゆっくりと中を押し広げながらカカシさんが入ってくる。それは熱くて硬くて、ぎちぎちと俺の中を満たしていった。
「あ、あ、あっ・・」
 痛みは思ったより少ない。それよりも圧迫感がすごくて息が苦しくなる。
 お尻にカカシさんの腰が当たって、すべてが挿入ったのを知った。
「痛くない?切れたりしてない・・?」
 ふうっと息を吐いたカカシさんが顔を覗きこんでくる。だけどいっぱいいっぱいで答えられない。どうにか開放して欲しくて懇願する。強請るように体が揺れるのを堪えられなかった。
「カカ・・さん、・・カカシ、さぁん・・」
「うん、待ってね」
 まだ待つのかと涙が零れたが、カカシさんがしたのは膝裏を押し上げることだった。腰が浮き上がりうしろを差し出す。
「あっ!」
 ぬるっと引いたそれで奥を穿たれた。
「あっ!あっ!あっ!」
 最初から早い動きで腸壁を擦られる。摩擦して熱くなっていくそこからじわんと溶ける様な快楽が湧き上がった。
「アアッ・・アッ、・・アぁっ」
 硬く屹立した自身から先走りが零れた。もう今にも弾けそうなのに、足りない。どうにかして欲しいのに、カカシさんはそのことに気付いてなかった。カカシさんの視線は下を向き、見ているのは結合しているところだった。忙しなく腰を穿ちながら熱心にソコを見ている。
「カカシ、さん・・っ」
 なんとかしてくれと目で訴えると、はっとしたようにカカシさんが俺を見て、それからはしっと性器を掴んだ。心得たように動き出す手に身を任せ、導かれるまま開放へと駈け上がる。快楽の波が押し寄せ身悶えると、立て続けに最奥を穿たれ目の前が白く弾けた。
「あっ、やっ、ああっ、ああーっ」
 射精の瞬間意識が遠のき、痙攣する体がきゅうきゅうカカシさんを締め付けた。一際強く腰を押し付けられ、中が濡れていくのを遠くで感じる。カカシさんの射精は長く続き、堪えるように眉を寄せたカカシさんの表情を滲んだ視界の中でも見ることが出来た。
「・・イルカせんせ・・・」
 はっはっと熱い息を吐くカカシさんが力抜けたように覆いかぶさってきた。うっすら汗を纏った体を受け止める。あまりの開放感にそうするのでやっとだった。近づいたカカシさんが顔中にキスしてくる。それがなんだか犬に顔を舐められてるみたいでくすくす笑っていると、その内中のカカシさんが力を取り戻して、今度は味わうように深く体を重ねた。







 晴れて身も心も恋人同士になって、翌日ちゃんと三代目の所にカカシさんを連れて恋人が出来たことを報告に行った。突然のことに目を白黒させる三代目に、「言われたとおり暖かな家庭が作れるかどうかわからないけど、そうなるように頑張ります」と宣言すると、カカシさんが「オレ達なら大丈夫」と太鼓判を押してくれた。








 恋人になったからといって特別変わったことはなかったけど、ひとつだけ大きく変わったことがあった。苦手だと思っていたことが大好きになった。

「イルカ先生、熱いお茶どーぞ」
 炬燵に置かれた湯気の立つ湯飲みに目を細めた。当然のように隣に入ってくるカカシさんに場所を開けて並んで座る。
「ありがとうございます」
「いーえ」
 にこーっと首を傾げるカカシさんに顔を寄せてキスする。その瞬間がたまらなく幸せで、一番好きな時間だった。ちょんっと触れただけでも嬉しくなる。キスってすごくいい。
「あと少しで終わりますから、もうちょっとだけ待っててくださいね」
 赤鉛筆を握ったまま強請るとカカシさんが「いいよ」と頷いた。
「でも膝枕して?」
 返事を待たずに炬燵へ潜っていくカカシさんに膝を提供して置かれた頭をくしゅくしゅと撫ぜる。見下ろすと甘えた表情でカカシさんがこっちを見ていた。
 可愛い。
 そんな表情を見ていると、一緒に住み始めた頃のことを思い出す。あの時は付き合ってなかったけど、炬燵から顔を出して俺を見上げるカカシさんを見るのが好きだった。上目遣いで見上げられると胸がきゅんとして可愛いなあなんて思っていた。
 それはてっきり動物を見る可愛さだと思っていたけど――。
「ねぇ、イルカ先生、オレのことスキ?」
 日に何度聞かれる質問に答える。
「好きですよー。大好き」
 体を丸めてぎゅーっと頭を抱え込むとカカシさんがくすぐったそうに笑う。
「じゃあね、いつからオレのことスキ?」
 これもよく聞かれるけど、
「さあ?いつからでしょーね」
 笑ってはぐらかすとぷうっと頬を膨らました。
(ああ・・ホント可愛い・・)
 そんなんだから気付けなかった。俺は全然悪くない。カワイ子ぶってたカカシさんがいけない。いやでも本当に可愛いんだけど・・。

 でも、と思う。

 そろそろホントのことを教えてあげてもいいかもしれない。その瞬間のカカシさんの顔が見てみたい気もした。だから言ってみる。

「カカシさん、俺はね、好きな人じゃないとキス出来ないんです」

 ぽかんとしたカカシさんがしばらくしてから「あれ?」と言った。
「でも、だって・・・・、あれ?」
 思い出すように眉間に皺を寄せながらもみるみる赤くなっていくカカシさんが可笑しくて、吹き出しそうになるのを必死に堪えた。



end
text top
top