←text topこんぺいとう 3
数10分後。
寝室にすすり泣く声が響いた。切れ切れの息で、おっぴろげた俺の足の間に蹲ったカカシさんが泣く。
さっきとは違った意味で頭を抱えたくなる。そんなことをすればますます泣き止まなくなるのが分かっていたのでじっと耐えたが。
(俺は悪くない。)
手を引かれて覚悟を決めた。服を脱がされても抵抗しなかった。倒されて体中弄られた時は腹を括った。
(なるようになれ)
そんな気持ちで挑んだのに、2回吐精して後ろを解され、いざ挿入となったところで命拾いした。役に立たなかったのだ。カカシさんのが。つまりは、カカシさんが勃起しなかったので挿入出来なかったのだ。
なんとかしようと焦れば焦るほどカカシさんのモノは項垂れ、――ついにカカシさんが泣きだした。あまりの哀れさに掛ける言葉が見つからない。同じ男としてその情けなさは痛いほど分かったが、いい加減寒かった。開いた足の間で泣き続けるカカシさんに断って服を着た。
なんていうか、これで分かったんじゃないかと思う。恋じゃないって。大体、男が男のアソコ見て興奮するわけない。
なんにせよ、もう二度とこんなことは言い出さないだろうと確信する。とにかく俺はカカシさんの申し出には応えた。後はカカシさんから確約が貰えれば言うことない。
それで泣き止むのを待つこと30分。
「あの、・・・とりあえず今まで通りってことでいいですか?」
いつまでも泣き続けるカカシさんに待ちくたびれて聞いた。
「とりあえずって何ですか・・。オレはの気持ちは真剣なのに・・っ。アンタみたいな酷い人みたことないよ。優しくしてその気にさせといて・・」
ぐしゅぐしゅ泣いて答えをくれないカカシさんに痺れを切らす。
「すみません。でももう夜も遅いですし・・続きは明日にしましょう?ね?」
落ちていた服を着せ、髪を撫ぜながら優しく言い聞かせた。
「ふ、ふ、ふぇ・・っ、イぅカ、セン・・セ・・ッ」
(あ。)
ぶり返したように激しく泣きだしたカカシさんに弱りながらも辛抱強く頭を撫ぜた。手の中に納まる小さな頭に憐憫の情が沸く。
別に嫌いって訳じゃないんだ。
(・・・かわいそうだなぁ。)
なんで俺なんかを好きだと思い込んでしまったんだろう。カカシさん、人懐っこいし顔もいいから女にモテただろうに。早く目を醒まして、勘違いに気付いてくれたらいいのに・・。
「・・カカシさん、もう寝ましょう?」
「・・・・・」
「はい?」
小さく動いた唇を覗き込んだ。
「・・キス、して・・」
弱弱しく言って、瞬いた睫から大粒の涙が落ちた。キスはあまり好きじゃないからさっきは避けた。でも泣いているカカシさんを見ていると、それぐらいいいかという気持ちになって、俯いた顔の下に入ると軽く唇を触れ合わせた。
「そんなんじゃなくて・・もっと、ちゃんと・・」
眉間に皺が寄ったものの、離れた唇をもう一度付けてちうと吸い上げる。こんなもんでいいかと思っていたら、おずおずとカカシさんの唇が開いた。
(それはムリ!)
顔を離そうとしたら襟元を掴まれ、舌が滑り込んでくる。
「んんっ、もう終わり!」
慌てて顔を引き剥がして、何も出来ないように頭を抱え込む。そのまま強引に横たわってふさふさの髪に鼻を突っ込むと体を丸めた。寝ると意思表示すると当然のように抱きついてくる体に眠気が襲う。これからの対策を考えないといけなかったはずなのに、温かくてあっという間に眠てしまった。
だが、キスをしたのは拙かった。
調子付いたのかカカシさんが何かと言えばキスを強請る。断ると拗ねる。束縛はますます激しくなって、まるで我慢の利かない子供のようになってしまった。じとりと恨みがましい目で見つめられる日々に神経が擦り減らされる。
離れて冷却期間を設けた方がいい。
そう思っても、中忍の俺がカカシさんから逃れられるはずもなく、ことごとく捕まってはぐしぐしと責められた。
(一体どこの古女房だよ!)
堪らず向かった先は、三代目の所だった。執務室のドアをノックし、返事も待ち遠しく飛び込めば机の下の足元に逃げ込んだ。
「こりゃイルカ、どうしたのじゃ?」
「お願いです!匿って下さい!!」
声を出すのも憚られ、息を潜めると同時にバンッとドアが開いて小さく飛び上がった。
「なんじゃカカシ、ノックもしないで」
「スイマセン、・・ここにイルカ先生来ましたよね?」
「イルカなら来ておらん」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
ピリピリした空気が張り詰める。先に沈黙を破ったのは三代目だった。
「・・丁度良かった。お主に任務依頼が来ておった。至急、出立せよ」
抽斗が開いて閉まる。しゅるっと巻物を開く音がして、やがてカカシさんの気配が消えた。
どうやら行ったらしい。ほっとしたものの、途端に気まずさが込み上げて膝を抱えた。
「・・イルカ、出てこんか。カカシはもう行きおったぞ」
自分のしていることが情けなくて出て行けない。膝に顔を押し付けていると、温かな手が頭を撫ぜた。よしよしと撫ぜてくれる。俺はその手が好きだった。いつだって俺を許してくれる。三代目が大好きだ。
「・・・じっちゃん、ごめん」
顔を上げると、良いと笑ってくれる。
「どれ・・、お茶を入れてくれるかのォ。そろそろ小腹が空いたわい」
出るきっかけまで貰って、赤面しながら机の下から這い出た。食べていけと言われて自分の分のお茶も入れる。おやつは大好物の三河屋の豆大福で、口いっぱいに頬張っていると、じっちゃん・・もとい三代目が抽斗から色紙みないなものを出した。
「イルカよ・・、お主そろそろ見合いでもしてみんか」
「・・ぐふっ!・・んぐっ、・・おっ、お見合いって・・。俺まだそんな年じゃないです」
詰まらせた餅に涙目になりながら答えると、やれやれといった風に三代目が首を振った。
「なにを言うか。ワシがお主ぐらいの年にはもう子がおったわい」
「で、でも・・、俺・・、まだ結婚とかは考えられない・・」
「なぁに、すぐにせいと言うとる訳じゃない。会ってみるだけでいいんじゃ。後のことはそれからじゃ」
「でも・・」
「イルカよ」
突然の話に尻込みしていると諭すように名を呼ばれた。
「家庭はいいもんじゃぞ。暖かく迎えてくれる誰かがいるだけで心が強くなる。・・それともまだ怖いか?両親を失った痛みは、まだ消え――」
「そんなことないです!そんなこと・・・」
すっと胸の奥に入り込まれて動揺した。考えが乱れ、思い出しかけた何かが消えていく。
「あの・・分かりました。会ってみます」
「うんうん、それが良い」
三代目が穏やかに笑う。だけどその笑顔を見ても心は晴れなくて、不安ともやもやでいっぱいになった。
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