こんぺいとう 2





(・・・なんか思ってたのと違うかも)


 カカシさんと暮らし始めて一ヶ月、上手くいってる方だと思うが、最近首を傾げる事が多くなってきた。
 なんだか違和感を感じる。気のせいか、カカシさんの俺を見る目が熱い気がする。他にもくっついてくるとなかなか離れない。やたら触りたがる。飲みに行くと口にはしないが不機嫌になる。帰りが遅い時は寝ないで待っている。総じて束縛されているように感じる。そうされる理由がないので、たぶん俺の勘違いだと思う。きっとお互い初めての同居で距離感が掴めていないのだろうと言い聞かせた。それ以外ではとても居心地のいい人だったから、余計なことして今の関係を壊したくなかったのだ。


 だが、事件は起きた。
 ・・・なんていうか、信じられないことに手を出された。いつものようにコタツでカカシさんとじゃれてたら、むくっと出ててきたカカシさんに押し倒された。遊びの延長だと思っていた俺は見上げた蛍光灯の眩しさに目を細めたが、影を作ったカカシさんの唇が迫ってくるのに至って、ようやく危険に気付いた。
「ぎゃ」
 唇が触れる寸前で、ぐぃーっとカカシさんの顔を押しのける。
「な、な、な、なにするんですか!」
 下から這い出て睨みつければ、唖然としたカカシさんがそこに居た。
「なにって、キス・・」
「なんだってそんなことするんですかっ?」
「だって、だって・・、オレたち付き合ってるんデショ?」
「はあ???」
 なんの冗談だ。この人夕食の時、そんなにお酒飲んだっけ?
 そんなことを考えてたら、うりゅっとカカシさんの瞳に涙が盛り上がった。呆然自失といったカンジで口をパクパクさせ、それから「ウソ・・」と呟いた。
「だって一緒に住もうって・・」
「それは部屋をシェアするって意味合いで・・」
「でも!くっついたり、いちゃいちゃしても何も言わなかったじゃない!」
「じゃれてるのかなーって・・」
「信じられない!オレ、アンタの足だって舐めたのに・・っ!それで気があるとか、惚れてるとか分かりそうなもんなのに、アンタ止めなかったじゃない!!」
「・・・うっ、」
 次第に感情を昂ぶらせるカカシさんにたじたじになる。でも、だからってカカシさんの言うことには同意できなかった。俺にそんなつもりはなかった。だたカカシさんが猫みたいな人だったから、それで・・・。
「・・・・、・・・・、・・・カカシさんってそっちの人だったんですか・・?」
 言葉を選んで聞いた。だったらカカシさんがそう思うのも理解出来る。傷つけないように、そうっと聞いたつもりだったが、カカシさんの双眸から涙が零れた。
「・・優しくされて嬉しかった。触れられたら心も温かくなった。そんな人が傍に居たら好きになっちゃうよ・・。一緒に暮らそうって言われて、すごく嬉しかったのに・・」
 ぐしゅぐしゅ泣かれて心底困った。何度も言うが俺にそんなつもりはない。人に親切にするのなんて当たり前だし、その相手が男では恋なんて芽生えようが無い。
「・・すいませんでした。そんなつもりなかったんです」
「・・そんなつもりって、じゃあどんなつもりだったんですか。男に、・・オレに体を触れさせて、アンタ一体どういうつもりだったんですか!」
 再び激昂するカカシさんに縮こまる。ここで本当のことなんて――猫だと思っていたなんて言えばどうなることやら。
「すいませんでした」
 潔く、土下座して謝るとカカシさんが立ち上がった。
「・・どこ行くんですか?」
「出て行きます。もう来ません」
「えっ、そんなの困ります!」
 吃驚した顔でカカシさんが振り返った。
「アンタ、なに言ってるの?オレの言ったこと分かってる?スキだって言ったんだよ、性的な意味合いも含めて」
 身も蓋もない言い方にたじたじになるが、それとこれとは別だ。居なくなられるのは困る。だって胸が痛い。カカシさんはもうすでに俺の胸の深いところにいるから、居なくなったら大きな痛みをもたらすのが想像できた。だけど、それは恋じゃない。恋するなら女とに決まってる。いずれ嫁さんだって欲しい。
 困った、本当に困った。
(なんでこんなことになったんだろう・・。今までの関係が居心地良かったのに・・。)
「・・・出て行かれるのは嫌です。・・・・・・・どうしたらいいですか・・?」
 散々悩んだ末、聞いたのは俺なりの譲歩だった。一応身勝手なことを言ってる自覚もある。
「だったら抱かせて。アンタが好きなんです。抱かせて」
 カカシさんの提案に頭を抱えたくなる。
「・・・俺は好きじゃないのに?」
「それでもいいです・・」
「うーーーん・・・」
 本音を言うとそんなのごめんだ。他に引き止める手立てがないかと考える。
「抱かせてくれないなら、もう二度と会わないよ」
 カカシさんが見透かしたように追い討ちをかけた。さっきより条件がきつくなっている。
「うーん・・、あー・・」
 うだうだ考える間にカカシさんが身を寄せた。
「絶対痛くしないから。気持ちイイことしかしないから」
 そう言われてしぶしぶ頷いた。でも念を押すのを忘れない。
「・・・・・・・・・・一回だけにしてくださいね」




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