こんぺいとう 1





 俺はそれを雪の中で見つけた。道の端でこんもり盛り上がった雪の山の下で揺らぐ銀色の毛の塊。
 遠くで見たときは猫が蹲っているのかと思った。
 だけど近くへ寄ってみるとそれは人の頭で、――そこに横たわっていたのは、はたけカカシと呼ばれる上忍師だった。
「カカシ先生!」
 抱き起こした体の冷たさに死んでいるのかと一瞬思ったが、ひくりと閉じた瞼が動いた。首筋に手を当てれば脈を感じる。体に降り積もった雪を払えば下から赤く染まった雪が現れた。傷口をきつく布で縛って背中に担ぐと木の葉病院へ急いだ。


 飛び込んだ病院で、もぎ取られるようにして医療忍に治療室に運ばれたカカシ先生だったが、治療が終わってみると意識があったことと最低限動けるということで病院から追い出されてしまった。
(酷い!死にかけてたのに・・!)
 抗議しようと憤った俺を宥めたのはカカシ先生でよくあることだと言う。それでも納得できずに傷を庇いながら歩くカカシ先生を自宅へとひっぱってきた。こんな傷を抱えて一人で過ごすのはあんまりだと思ったのだ。


「狭いところですが・・」
「いえ、お構いなく」
 物珍しそうにカカシ先生が部屋を見回す。こんなことになるなら普段から綺麗にして置けばよかったが、今更言っても始まらない。なるべく物の無い道筋を選んで寝室へとカカシ先生を導いた。
「すいません、お連れしておいてなんなんですが・・、布団が無いので今日は俺のベッドで我慢してください。明日になったら布団用意しますから・・」
「ううん、いいよ。ゴメンネ、迷惑掛けちゃって・・。布団はいいよ、すぐに出て行くから・・」
 寝かせるとカカシ先生が申し訳なさそうに首を振る。その青ざめた顔と弱弱しい姿に保護欲が沸いて、布団をぽんぽんと叩いた。
「そんなこと言わないでください。治るまでいてくださっていいんです」
 にっこり笑って見せると安心したようにカカシ先生が笑う。その笑顔に胸がきゅんと痛んだ。
(・・同じだ)
 誰もが持っている寂しさをカカシ先生ほどの忍びの中にも見つけた気がして親近感が沸いた。
「アリガト、イルカ先生・・」
 疲れていたのか眠りに落ちながら言われた言葉に胸がぽっと温かくなって、寝息を立て始めたカカシ先生の顔をしばらく眺めていた。



 元気になったカカシ先生を引き止めたのはまたしても俺だった。看病してる間に気付いたのだが、一緒にいて居心地の良い人だったから二人でやって行けそうな気がして。
 忍びなら良くあることだ。皆が皆ではないが、怪我をして帰ってきて次の日に死んでいたなんてことにならないように誰かと部屋をシェアする。
「一緒に暮らしませんか?」
 そう提案した時、断られるかと思ったがカカシ先生はあっさり頷いた。認められたような気がして嬉しかったし、それに短い間だったが一緒に暮らすうちに情が沸いていたので断られなかったことにほっとした。
 大抵はある程度部屋数のある所でルームシェアという形を取るが、カカシ先生がこの部屋のままでいいと言ったので引越しはしなかった。
 持って来たカカシ先生の荷物は少なく、なによりカカシ先生自身が猫みたいな人で、狭い部屋に二人でいてもあまり気にならなかった。



 カカシさんといると何度もユキを思い出した。ユキは子猫の時に弱っていることろを拾って少しの間世話をした猫だった。貰われていくまで俺に良く懐いて、ヒマさえあればじゃれついてきた。そのユキ様に体まですっぽりコタツの中に入ったカカシさんが足にじゃれついてくる。くすぐったくてぶんぶんと振り払うと余計ムキになる。
「ははっ、くすぐったいです」
 足を引っ込めると、足を伝ってカカシさんが這い上がってきた。むくっと盛り上がったコタツ布団を捲ると頬を真っ赤に染めたカカシさんが出てきた。
「熱かったですか?」
 ぼさぼさになった髪をくしゅくしゅ掻き混ぜると気持ち良さ気に目を細める。
「カカシさんってユキみたい」
「ユキ・・?」
 首を傾げたカカシさんにユキの説明をしようとするが、興味なかったのかぽふっと腹に顔を埋めると強くしがみ付いてきた。よくよく考えてみると上忍を猫に例えるなんて失礼だったかもしれない。
「眠いんですか?」
 髪を撫で付けるようにして聞けばカカシさんが頷いた。
「イルカ先生、まだ仕事終わらないの?」
「ええ、俺のことは気にせずカカシさん先に寝てください」
「・・・寒いからヤダ」
「じゃあ、あと少しで終わるので待っててください」
「うん」
 寝床は最初俺はコタツで寝ていたが、快気祝いに祝杯を挙げたときに酔っ払って一緒のベッドで眠ってしまってからは互いにまあいいかということになって、一つのベッドをそのまま使っている。しかし寒がりなカカシさんに掛け布団だけでも新調しなければと思った。



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