あなぽこ 5





「お風呂空いたよ。そのままだと体辛くなるから入っておいでよ」

薄暗い寝室で、明かりに背を向けるように蹲ったイルカ先生の背中に声を掛ける。
ベッドに腰掛け、汗に湿った髪を掬うように撫ぜたら、バシッと手を叩かれた。
それでも撫ぜようとすると、バシバシと。
丸まったイルカ先生の背中から無言の叫びが聞こえてくるようだ。

触るなっ!と。

完全に拗ねている。

どうしたものかと見ていれば、むくっと起き上がったイルカ先生がわざとオレの居ないほうからベッドを降りて、避けるように遠回りして風呂場に向かう。
風呂場から聞こえる水音に鼻を啜る音が混じって、やりすぎたかと天井を仰いだ。



キスはしないと宣言してもヤることはヤる。

身体の中に熱を穿って思う様突き上げると、イルカ先生がキスを強請った。
縋るように手を伸ばし、首に腕を捲きつけると顔を上げた。
それはイルカ先生の無意識の仕草。
極まって、意識が混濁してる時にだけ見せるイルカ先生の艶態。
近づいてくるイルカ先生にいつもだったら貪るようなキスをあげるけど、今日はふいっと避けて頬にキスした。
はっとイルカ先生の動きが止まる。
目を合わせると今にも泣きそうに口の端が下がった。
酷く傷ついた顔。
急速にイルカ先生の中から熱が引いていくのを感じたが、いくとこまできていたので、そのまま追い上げた。

「イ・・ヤだっ」

久しぶりに聞く拒絶の言葉。

深いとこまで突き上げると、声も無くイルカ先生が射精した。



(イルカ先生がいけないんだよ)

胡坐の上に肘を突いて、イルカ先生が風呂から上がるのを待つ。
泣かせてしまった罪悪感やどうやって歯医者に行かせようかと考えると吐く息が重くなる。

しつこく言うにはそれなりの訳がある。

オレの左側の奥歯はンプラントが填まってる。
それは虫歯が原因ではなく、昔、暗部に入隊した時に既存の歯に代わり埋め込まれた。
オレのチャクラか意思に寄って発動する起爆歯。
これを埋め込んだ医者が言った。

「敵に捕まるようなことがあれば、すぐに発動させろ」

そんなこと言われなくても、と思ったが、その本当の意味を身を持って体感した。
歯を抜いたついでとばかりに神経を触られた。
その、すべてを凌駕する痛み。
思考を焼き切り、肉体を硬直させる。
あの痛みの前では人としての尊厳も無く、ただ痛みから逃れたいがだけの物になる。
思い出すだけでも忌々しい。
あの後、正気を失ったオレが医者を殺しかけて他の暗部に押さえられたことはここだけの話だ。

(ま、虫歯でそこまで痛くなることはないけどね)

大げさなのは分かってる。

でも、イルカ先生が痛い思いをするもはイヤだ。
イルカ先生の痛みを想像すると、それはオレにとって恐怖に変わる 。
ほんとうにイヤだ。

(あー・・オレ、イルカ先生を人質に取られるようなことがあったら、ホントダメになるな。)

改めて当たり前のことを再確認していると、イルカ先生が風呂から上がった。
頭からタオルを被り、泣いた素振りは一切見せない。
こんな時泣いててくれた方が話しやすいのだが、オレに弱みを見せたがらないイルカ先生はまた遠回りして布団に潜った。

「イルカ先生」

頭から布団を被るイルカ先生から返事は無い。
布団を剥ごうとすれば中から抵抗された。

「・・・・・・・」

早く行かないと虫歯が大きくなるよ。
痛くなるよ。
ちっちゃいから今行けばすぐ治るよ。

どれもオレが言わなくても、イルカ先生も分かってることだろう。
結局掛ける言葉も見つからぬまま、隣に滑り込むと布団の塊を抱きしめた。

オレってホント不甲斐ない。



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