あなぽこ 3
「これ食べてみてよ、結構おいしく出来てるよ」
なんでもなく聞こえるように言って食事を促す。
イルカ先生の取り皿におかずを装い、ホラと勧めるが一向に箸は進まない。
もそもそと食み、やや俯き加減な様子に今日も歯医者に行かなかったのかと予測はついたが、それと食事とは別。
ご飯ぐらい食べればいい。
約束した手前、行ってないのにオレの飯を食うのが後ろめたいのだろう。
それと、彼はちゃんと分かっているのだろう。
歯医者に行かないといけないことを。
それでも行けないからジレンマに陥って食が細くなる。
まったく。
悩むぐらいならさっさと行ってくればいいものを。
こんなことさえ無ければ楽しい食事になっただろうに。
「あんまりおいしくなかった?」
しょぼんと言ってやれば、ハッとなって慌てて口を動かす。
(そうそう、ちゃんと食べて)
「あ・・・おいしいです」
やっとイルカ先生の口元が綻んだ。
「ホント?良かった、いっぱい食べてね」
まだご飯の残るイルカ先生のお茶碗におかわりをこんもり盛った。
さて、どうしたものか。
タイルを叩く水音を聞きながら策を練るがいい案が浮かばない。
ストレートに言えば昨日の遣り取りを繰り返しそうだし、自発を待てばいつになるのやら。
怖がってるのは分かるが、痛くなってからでは遅いのだ。
「・・・・・・・・」
考え始めるとどうにもイライラしてくる。
「・・・・・・カカシさん」
いつの間に風呂から上がったのかイルカ先生が所在なさげに立っていた。
元より外には出していない苛立ちを更に隠し、
「こっち、座って?」
ぽんぽんと布団を叩いて隣に誘う。
手をとって、(びくっとしたのは気づかぬフリで)隣に座らせると肩に掛けてあったタオルで髪を拭った。
ごしごし水気をとってやると気持ちよかったのか次第に強張りが溶けていく。
重くなった体を受け止め、腕の中に囲う。
半乾きの髪に指を通して、くしゃくしゃっとかき混ぜると、俯いていた顔を上げさせて口吻けた。
とろんと身体から力が抜けるのに合わせてベッドに押し倒す。
見上げてくる潤んだ瞳とシーツの上に広がった髪。
かぁっと下腹に熱が溜まる。
「イルカ、センセ・・・・」
わき腹を撫ぜながら、深く口吻けた。
いつもの癖で歯列をなぞっていると、舌先にイルカ先生の舌が触れる。
(あれ、珍しい・・・)
気を良くしてイルカ先生の舌を絡めとろうとするが、ぴくりとも動かない。
強く押せば、負けじと押し返してくる。
「・・・・なにしてるの?」
「・・・・・べつに」
しれっと視線を逸らすのにぴんと来た。
虫歯を隠してる。
むかっ。
「アンタ!そんなことするぐらいだったらさっさと歯医者行ったらどうなんですか!」
「なっ、なんで行かないといけないんですか!虫歯じゃないって言ってるじゃないですかっ」
「穴が開いてる――」
「ワー!ワー!ワー!!」
「アンタは子供か!!」
耳を塞いで喚くのに、下肢から服を剥ぎ取ってひぃひぃ言わせてやった。
歯医者に行くと言うまでイカせないようにしたら、最後は泣きながら、「行く、行く」言った。
脳がそれを倒錯して受け取って、いつもより興奮してしまったことは言うまでもない。
なにプレイだよ、まったく。
ぐったりしたイルカ先生を綺麗にして寝かせ、シャワーを浴びた。
濡れた体をさっと拭い、歯を磨こうと洗面台を見ば新しい歯磨き粉。
ラベルを見れば『歯を再石灰化』。
「はぁっ・・・」
どこまで往生際が悪いんだ。