あなぽこ 2
「カカシさん、味噌汁のおかわりいかがですか?」
恐る恐る声を掛けると、お椀が差し出された。
視線は新聞の方を向いたままで、ちらりともこちらを見ない。
(やばい、怒ってる・・・)
昨夜、自分のした仕打ちを思えばそれも当然なんだが、なにも朝からそんなに怒らなくたっていいじゃないか。
大体、カカシ先生がいけないんだ。
俺に虫歯があるなんて言い出すから。
言いがかりも甚だしい。
言われた時はショックでそうかと思い込んだが、朝もう一度見直して確信する。
これは虫歯じゃない。
ちょっと穴が開いてるだけだ。
いや、これぐらいならまだ穴とも言えないほどの浅いへこみ。
痛みもないのに虫歯な訳ない。
「熱いですよ」
暗にこっち見ろと味噌汁を差し出すと、漸く新聞を畳んで脇に置いた。
「ありがと」
今朝、初めて聞くカカシさんの声。
(ちょっとは機嫌直ったのかな?)
内心ほっと息を吐いていると、いきなり核心に触れてきた。
「今日は、歯医者行っておいでよ。オレが晩飯作っとくからさ」
滅多にない申し出に心が躍りかけたが。
「いえ・・・虫歯じゃないと思うんで・・・痛くないですし・・・」
「そうかもしれないけど、一度見てもらったら安心でしょ?」
「でも・・・」
伸ばされた手が頭を撫ぜた。困ったように笑うカカシさんと目が合って思わず俯く。
「検診は?行ってる?」
なんだ、なんだ。
付き合い始めてから今までそんなこと言い出したことなかったのに。
行ったことないよ。行くわけないよ。
白状すべきかどうか迷ってしどろもどろになってる内に、気づいたら歯医者に行く約束をさせられていた。
はたけカカシ、恐るべし。
「いってらっしゃい」
先に出るカカシさんを玄関まで見送る。
軽く手を上げて背を向けるカカシさんに、昨日の怒りがまだ完全に解けてないのを知る。
(・・・・・・・・・チュウは?)
どんなに時間がない時でもして行くくせに。
今日に限ってなかったのが、存外堪える。
(もしかして歯を治すまでないんだろうか。)
ふと頭の隅を過ぎった考えに立ち尽くした。
時間は流れ、そろそろ俺も出ないといけないのに。
どうしよう。
家から出たくなくて、一歩も前に進めない。