緋に染まる 7





 気持ちはどうであれ、体は簡単に男の手管に堕ちた。
 押さえつけられ身動きできない状態で、体の中で最も弱い所を責められる。激しく扱かれて性器が張り詰めた。
「アッ」
 駆け抜けた快楽に甘ったるい声が上がる。それを恥じて唇を噛み締めれば、べろっと唇を舐められた。
「口開けて」
 それは命令として響いて、朦朧とした頭に顎の力を抜くように言い聞かせた。開いた唇を男が貪る。
「ふぅっ・・うぅ・・ん・・」
 くちゅくちゅと淫らな音が聞こえる。それは口の中よりも遠いところから聞こえてきた。男の手の中で性器が滑る。
「あ・・っ、あふっ・・んっ・・」
 込み上げる射精感に背中が仰け反った。腰を突き出すような姿勢になると男の手が追い立てるように早く動いた。
「んーっ!んーっっ!!」
 与えられる刺激の強さに、瞬く間に臨界点を越えた。男に掴まれた性器の中を強烈な快楽が突き抜けて溢れ出す。ぱたぱたと腹の上に熱い液体が滴るのを感じて体を振るわせた。男に口を塞がれていなかったら大きな声を上げていたかもしれない。それぐらい我を忘れるような快楽が全身を包んで意識が遠のいた。体が燃え立つように熱い。皮膚はふやけた様に感覚を失くして、それでいて空気の動きすら敏感に拾った。
 痺れる様な熱が引くに従って体の感覚が戻り始める。その過程で、今まで感じたことの無い動きを体の奥で感じて視線を落とした。
「あ・・?」
 大きく開いた足の間で男の手が動いている。萎えた性器や白濁の散った腹を晒していることよりもそのことにショックを感じて泣きそうになった。だけど一度快楽に緩んだ体はそれを拒むことが出来ない。
「だいじょーぶだよ」
 俺の表情に気づいた男が優しく言う。手をそこに置いたまま覆いかぶさると額を合わせた。
「見ると怖いデショ?感覚だけ追いかけてて」
 ちゅっと眉間に口吻けられる。いつの間にか開放されていた両手を男の背中へと導かれて、抱きつくように肩口に顔を埋めた。男の唇が首筋に触れる。気を紛らわせることも出来ずに、指の動く気持ち悪さに耐えた。一本の指が体の奥を探り腸壁を撫ぜる。それが抜き差しするような動きに変わると、指が増えた。ぐっと入り口が広げられ、無理やり中に入り込んでくる。
「い、痛いっ!」
 恐怖を感じて背中に縋れば、顔を上げた男が宥めるように唇を重ねた。
「力抜いて。絶対に傷つけないから。深呼吸して」
 すう、はあ、と呼吸を促してくる男の表情が思いのほか穏やかで僅かに体から力が抜ける。
「ん!」
 途端に指が体の奥へと入り込んだが不思議と怖いという気持ちは薄れた。状況に慣れたのか、なんとかという犯罪心理作用が働いているのか自分では判断が付かない。
 男が顔を伏せて胸元に顔を埋めてくると、その頭を抱えてしまった。銀色の髪に指を滑らせて梳く。視線だけ上げた男の目が撓んだ。すぐに伏せるとちゅっと鎖骨に口吻ける。啄ばむような擽ったいキスに震えると、すっと唇が降りて乳首を含んだ。小さな粒に生暖かな舌が這い回る。そうされるとざわりと浮き立つような感覚が湧き上がって腰が疼いた。
 こんな感覚がそんなところから沸き立つなんて知らなかった。
 ぴんと立ち上がった粒を舌先で弾くと、徐に離れて隣へと移った。もう片方も同じように含まれる。軽く歯を立てられて仰け反ると、空いた方の乳首を指が捻った。さっきまで弄られていたそこは唾液に塗れながら舌とは違った感覚を与えてくれる。掴もうとしてぬるぬる滑って逃げる粒を指と戻ってきた舌が襲った。
「ひゃっ、あっ、あっ、ああっ」
 未知の快楽に煽られて、触れてもいない前が勝手に勃ち上がる。駆け上りそうで上らないもどかしさに身を捩れば、男の手が性器を包んだ。今度は穏やかに、緩やかに扱かれる。俺の体は男の手を覚えて簡単に陥落した。イかせない絶妙な加減で快楽を煽られて身悶えた。気持ちよくて何も考えられない。
「・・そろそろいいかな・・」
 男がそう言った時、俺はぼんやりとした視線を向けただけだった。体の奥から指が引き抜かれる。広げた足を抱えあげられて男が体を割り込ませてもまだぼうっとしていた。
 熱い物が尻の間に触れる。男がぐっと体を倒すようにすると、尻の間も押された。
「・・・?」
(・・なんだろ?)
 おぼろげに思っていると何かが体の中に這入りこんでくる。ぬぬっと入り口を広げようとしていたものが、ぐっと押された拍子に一息に中に這入ってきた。
「あっ・・!」
 途端に張り裂けそうなほど体の中を押し広げられる。
「ぁ・・、や・・っ、あ・・」
 無理やり腹を満たされる苦しさに息が詰まった。
「息して・・、力抜いて」
「やだぁ・・抜いて・・抜いてぇ・・」
 首を振って辛さを訴える。
「イルカ、息して」
 名を呼ばれて目を開けると、動きを止めた男が俺を見下ろしていた。少しだけ苦しそうに、でも笑みを浮かべて。
「いいコだから息して?」
 男が温かく笑う。それだけでさっきまでの苦しさが遠のいた。はあはあと大きく息を吸って深呼吸を繰り返す。こんなカンジでいいのか男を見上げると、にこっと笑った。
「そのまま少しだけ我慢してて」
 頷くと、男が抽挿を始めた。少しだけ下を見れば、男のモノが俺の体に這入り込んでいた。でもすべてでは無く、半分くらいしか這入ってなかった。男は浅く出し入れを繰り返す。浅くても押し込まれると苦しくて意識が遠のいていった。
(早く・・・)
 早く終わって欲しい。
 途切れそうな意識の下、それだけを願って、はっ、はっと短い息を吐いて眉を寄せる男の顔を眺めていた。




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