漆黒に染まる 9





 大変な事を言ってしまった。
 振り返りもしなかったカカシさんの背中に、わっと涙が零れた。
(なんであんなこと言っちゃったんだろう)
 後悔しても、口から出た言葉は戻らない。
(謝らなくちゃ…)
 そう思っても、根が生えたように足が動かなかった。カカシさんは凄く怒ってた。追い掛けていって、もっと嫌われたらどうしよう。はっきりと、「別れる」と言われてしまうかもしれない。
 そう思うと、どっと涙が溢れた。
(嫌だ、絶対に別れたくない!)
 でも、俺はカカシさんを引き留める術を何も持っていなかった。
 容姿は悪い。実力もない。お金も持ってない。
 カカシさんと違って、人が羨むものを何も持っていなかった。
 努力はしている。身なりはきちんと整えているし、隠れて修行だってしている。貯金だって…、貯金はカカシさんの食費が増えたから、あまり出来てないけど、ボーナスは全部貯金するつもりだ。
 だけど、そんな些細なことでは駄目なのだ。もっと劇的に変わらなければ、カカシさんに追いつけない。
 ………劇的になんて、変われないのだけど。
 だったら、俺はカカシさんに相応しくないと言う結論に達してしまう。
「ひーっ…ひっ…ぇっ…えーん…ぇぐっごほげほごほっ」
 泣きすぎて咽せた。
 こんな時、俺がちょっと咳き込んだりすると、カカシさんが優しく背中を撫ぜてくれた。「大丈夫? イルカ」って言ってくれるのに、その手が無いことが寂しかった。
(カカシさん、どこに行ったんだろう……?)
 怒りが覚めたら、戻って来てくれるだろうか? それとも、俺の所には帰って来たくなくて、どこか違う所へ…
(……もしかして、本当に女の人の所へ行ってたらどうしよう!!)
 ひら、と畳に張り付いていた足が剥がれた。玄関に向かって駆け出すと、カカシさんを探しに行った。アパートを出て、右に行くか左に行くか悩む。カンで左!と走り出したが、カカシさんは見つからなかった。
(どこ行っちゃったんだろう…っ)
 カカシさんが女の人に触れる姿が目に浮かんで、わぁっと誰彼構わず当たり散らしたい心境になった。
(そんなの絶対に嫌だ!!!)
 じっとしていると、足の裏から焦げ付きそうなほどの焦燥感が、じりじりと湧き上がる。
(カカシさんが行きそうなところ……)
 前に彼女は居ないって言ってた。
(……遊郭だ!)
 初めて出会った料亭に向かった。
 土埃を立てて店の前に着くと、長い暖簾を潜って店の中に入ろうとした。すると、すぐに人が飛んできて、俺の前に立ち塞がった。。
「失礼ですが、ご予約のお客様でしょうか?」
「違います。ここにカカシさんが…、はたけ上忍が来ているでしょう? 会わせて下さい」
「申し訳ございませんが、そのようなお客様はいらしておりません。お引き取り願えますでしょうか?」
「嘘だっ! 部屋を見せて下さいっ」
「困ります! おいっ」
「へい」
 店の者が中に声を掛けると、人相の悪い二人組が出てきた。用心棒だろうか。俺の腕を掴むと外へ引き摺り出す。抗って、足を踏ん張ると揉み合いになった。
「離してくださいっ! 中に、カカシさんが…! はたけカカシって人がいるでしょう?」
 次の瞬間、いきなり拘束が解けた。え? と辺りを見ると、男達は転がり、それを見下ろすようにカカシさんが立っていた。
(やっぱり来た!)
 カカシさんがどこを通ってきたのか、追い抜いてしまったらしい。後から姿を現したカカシさんに、わあっと感情が入り乱れた。
「嫌です! 女の人なんて抱かないで下さい!」
 どっと涙が溢れて前が見えなくなった。絶対に阻止しようと、カカシさんの体をぐいぐい押して、料亭から遠ざかろうとした。だけどカカシさんはビクとも動かない。
(ごめんなさい、カカシさん…ごめんなさい…っ)
 どうか俺と一緒に家へ帰って欲しい。
 カカシさんの体を押しながら、胸に顔を押し付けてわんわん泣いていると、カカシさんの両腕が体に回った。
(カカシさん……?)
 ぐずりと鼻を鳴らしながら顔を上げると、カカシさんが男達を追い払い、俺を連れて店の中へと入っていった。
 覚えのある部屋に通されて、カカシさんと二人っきりになった。
「カ、カカヒひゃん、……ご、ごめっ…ぐずっ…ごめ…な、さいっ…えっ…、ごめんな、さい…っ」
 静かな部屋に俺の泣き声が響く。カカシさんは足を止めずに、奥への襖を開けると、俺に足掛けした。
「ひやっ」
 緋色の布団の上に転がされて天井を見上げた。すぐにカカシさんが覆い被さってきて、唇が塞がった。
「ふぐっ」
 泣いて鼻が詰まっていたから、カカシさんに唇を塞がれて苦しかった。だけどキスされたことが嬉しくて、息苦しいのは我慢した。でも暫くしたら我慢の限界が来て、無理矢理鼻で息をしたら、ぷぅっと鼻提灯が出来た。
「ぶふっ!」
 カカシさんが盛大に吹き出して、腹を抱えて笑う。
「カ、カカシさんが、口を塞いだからじゃないですか!」
 恥ずかしくて文句を言うと、カカシさんは目に涙を浮かべながら、枕元のティッシュケースから紙を数枚引き抜いた。
「ゴメン、…くくっ、はい、チーンして」
 転がったまま鼻に紙を当てられて、思いっきり息を吐き出した。汚いと思わないのか、カカシさんは紙を返すと、もう一度「チーン」と言った。新しいティッシュで鼻の周りを拭うと、ゴミを屑籠に投げ入れて、俺の隣に寝転がった。
 突いた腕に頭を乗せて、楽しげに俺を見る。もう怒ってないのかと窺うと、
「イルカ先生は飽きないね」
 と、笑った。
「……もう、怒ってないんですか?」
「それは怒ってます」
 ショックを受けて、またぽろりと涙が落ちる。
「女の所へ行けなんて、恋人に言う言葉じゃないデショ」
 怒られて、ふぇっと顔が歪んだ。
「…えっ…えっ……ごめんなさいっ! もう言いません!…ごめんなさいっ…ひっく…」
 二度と言わないから許して欲しい。カカシさんが誰かの所へ行ってしまうかもと、思った時の恐怖を二度と忘れない。
「えーんっ」
「反省してる?」
 頷くと、「しょうがないなぁ」とカカシさんが言った。
「じゃあ許してあげるから、イルカからキスして」
 ずぴっと鼻を啜りながら、カカシさんを見た。
 そんなことで本当に許して貰えるのか。
 濡れた頬を拭って、恐る恐る顔を近づけると、唇をカカシさんの唇に触れ合わせた。これでいいかとカカシさんを見ると、
「……もっと、」
 ちゃんとしてと言われて、さっきより唇をくっつけた。薄いけど柔らかい唇の形が変わって、薄く開いた。舌を絡めてくれるのかと思ったけど、カカシさんからは何もせず、俺はそっと口を開くと舌をカカシさんの口の中に潜らせた。
 ざらっとした歯先に舌が触れてびくっとした。それでも奥へと進むと、カカシさんの舌先が触れた。つるつるするソコに、俺の舌を滑らせる。体を寄せて口吻けを深くすると、舌を絡め合わせた。表面のざらざらした所を何度も重ね合わせて擦りつける。
「んっ…ふぅ…っ」
 やっぱり息が苦しくなったけど、夢中で口吻けた。
「カカシさん……、カカシさん……っ」
 譫言のように繰り返すと、角度を変えてカカシさんの唇を貪った。かぁっと体が熱くなって、ようやく動き出したカカシさんの舌を吸い上げると、ぐるんと体の向きが変わって、カカシさんにのし掛かられた。
 キスの主導権が変わって、激しく口吻けられる。
「はっ…はぁっ…」
 カカシさんの手が服の下に入り、肌を撫ぜる。でも服が邪魔になって、引っ張り上げようとするカカシさんに、俺もカカシさんの服を引き上げた。だけど転がったままでは上手く脱げない。焦れたカカシさんが、さっと起き上がると自分の服を脱いだ。
 俺も体を起こして服を脱ぐと、カカシさんに押し倒された。激しく唇を合わせながら、互いの肌をまさぐる。カカシさんが俺の胸に触れて、乳首をきゅっと捻り上げた。
「あっ!」
 鋭い痛みが走るが、それはすぐに痺れに変わる。押し潰して揺らされると、甘い電流が走って腰が浮き上がる。
「あ…っ、んふっ…、あっ…」
 くちゅっと音を立てて唇を離すと、カカシさんが首筋の付け根を強く吸った。カリッと歯を立てられて悲鳴を上げる。
「痛っ」
「コレはオレのって証拠なの。分かった?」
 言い聞かせるように強く見据えられる。
(俺はカカシさんの)
 所有される喜びに、痕を気にするのを止めようと思った。誰かに見られる不安より、こっちの方がずっと良い。
 頷くと、カカシさんは鎖骨も吸い上げた。赤く散った花びらに大事そうに舌を這わすと、移動して次の痕を残す。その唇が徐々に胸に近づいて来ると、期待に心臓が高鳴った。
 乳首を舐めて欲しい。
 はしたないその願いを、口に出す事は出来なかったけど、カカシさんはちゃんと叶えてくれた。
 乳輪が隠れるぐらい吸い付くと、口の中で乳首を転がした。
「あっ…あぁっ……アッ……」
 甘噛みして歯先で扱かれると、ビクビク腰が震えた。前が勃ち上がって、ズボンを押し上げた。カカシさんは乳首をびちゃびちゃに濡らすと、もう片方にも同じようにした。
「ひぁっ…あっ…あ…、あぁっ…やぁ…っ、あ…っ」
 空いた方は指で押し潰されて、両方同時の刺激に嬌声を上げた。勃ち上がった前が苦しくて、勝手に腰が揺れる。その強請るような仕草にカカシさんが気付いて、俺の前に触れた。
「もう硬くなってる」
 揶揄されてカッと頬が火照るが、手の平に包まれると動きが止められなくなる。
「あっ、あっ、あっ…」
 もっと強い刺激を強請って、妄りがましい声が漏れる。
「やぁっ…」
 その時、

『舐めて勃たせて勝手に突っ込んで』

 いつか、カカシさんが言った言葉が頭に浮かんだ。
 カカシさんを見ると、俺を感じさせようとエッチな顔で俺の下肢を見ている。
(……俺だって…!)
 決心すると、前を扱いていたカカシさんの手を外して、体を起こした。
「イルカ?」
 不思議そうに俺を見る、カカシさんに口吻ける。ちゅっちゅと繰り返すと、カカシさんの体から力が抜けて、そっと肩を押すと、布団に押し付けた。




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