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料亭から連れて来られた所は、何にも無い部屋だった。たぶん、ここも寮なんだと思うけど、広い部屋にはテレビもラジオも無い。
静かな部屋に一人ぽつんと残されて、手持ち無沙汰に部屋の中を歩き回って、カカシさんが普段どんな生活を送っているのか不思議になった。
だって、冷蔵庫すら無いのだ。
高ランクの任務ばかり請け負っていたから、家に居ることが少ないのかもしれない。
(あまり一緒にいられないかもな……)
そう思うと、少しばかり寂しくなった。早く帰ってきて欲しい。
「すぐに戻って来るから」と言い置いてカカシさんが出掛けてから、それほど経っていない。寂しく感じるのは、想像のせいだけじゃない気がして頬が熱くなった。
こんな風に恋するなんて。
昨日までの俺には想像出来なかったことだ。幸福が待っているんだよ、と緊張して眠れなかった自分に言ってやりたい。
ほうっと溜め息を吐いて胸を押さえた。苦しいぐらいに幸せで胸がいっぱいだった。
(早く、カカシさんに会いたい)
もう帰って来るんじゃないかと、窓辺に寄って下の通りを眺めた。
(……カカシさん、いない……)
寂しくなってカーテンを閉めた。すぐ傍にあったベッドに腰掛けて膝を見つめる。もの凄くカカシさんに会いたくなって困った。
幸せになったり、寂しくなったり。今までに感じた事のない激しい感情の揺れに途惑う。どちらもコントロール出来なくて、流されるまま嬉しくなったり、哀しくなったりした。
そのどちらの感情の根底にあるのは、カカシさんを好きって気持ちだ。
これが人を好きになることかと思うと、不思議な心境になった。他の事が考えられないぐらい、頭の中がカカシさんでいっぱいになる。
(カカシさん、カカシさん、カカシさん……)
こてん、と横たわると、布団からカカシさんの匂いがする気がした。掛け布団の影からちらりと覗く枕に目が釘付けになる。
(…カカシさんの枕……)
起き上がると、枕の方へにじり寄った。好きにして良いと言われたが、勝手に枕を使うのは嫌がられるかもしれない。
でも、カカシさんが恋しかった。
(……少しだけ。…ちょっと、寝てみるだけ……)
そう言い訳して、カカシさんの枕に頭を乗せた。
思いの外柔らかい枕はふわりと俺の頭を受け止めた。
(……カカシさん)
目を閉じて、鼻先を枕に埋めた。くんと息を吸い込むと、カカシさんの匂いがして、とろりと意識が緩んだ。
(カカシさんに会いたい……)
うつらとして瞼を閉じると、昨日からの疲れがまだ残っていたのか、吸い込まれるように眠ってしまった。
さらっと頬に掛かった髪を掻き上げる指先に、意識が浮上した。目を開けるとカカシさんが居た。途端に嬉しくなって、笑みを浮かべた。
「おはよ、イルカ。よく眠れた? ……家に帰ったら静かだったから、居ないのかと思っちゃった。でもベッドで眠るイルカを見つけて、スゴク幸せな気持ちになったよ。イルカ、待っててくれてありがとう」
大きく冷たい手が頭を撫でた。大きな喜びと愛しさで胸がいっぱいになる。枕を使ったことも怒られなかった。許されているのを感じて、また幸せになった。
顔を近づけるカカシさんに、瞼を閉じると唇が重なった。最初触れるだけで離れたそれは、次にくっついた時は唇を吸い上げ、ジンと甘い痺れを残した。舌が這入り込んで、自ら舌を触れ合わせると絡め取られて、ちゅ、くちゅと濡れた水音が立った。
「……ふ、…ん…、……んっ……ぁっ……」
角度を変えて深くなる口吻けに、昨夜の出来事を思い出す。服の下に手が滑り込んで背中を撫で上げると、肌を重ねた時の感覚が舞い戻って、甘く喉を鳴らした。すると、カカシさんが、ちゅっと音を立てて唇を離した。
「はぁ…ヤバイ。今日もシたら、イルカが壊れちゃう。まだ慣れて無いもんね。ゆっくりしないと」
カカシさんのその言葉が、何を指しているのか気付いて頬を赤らめた。カカシさんが言うとおり、まだ腰が重かった。きっと今日シたら、明日も仕事に行けなくなってしまう。……だけど、さっきのキスで腰が熱を持ってしまった。
昨日あんなにいっぱいシたのに、と思うと、自分の体の貪欲さが恥ずかしかった。カカシさんに気付かれないように膝を曲げて体を丸めると、頬に軽く口吻けたカカシさんが立ち上がった。
「イルカ、お腹空いてない? 何か頼もうか。嫌いなモノある?」
首を横に振ると、カカシさんは歩いて部屋を出て行った。背中が見えなくなると、途端に寂しくなって体を起こした。だけど、熱を持つ腰に、すぐにカカシさんを追い掛けて行けなかった。
(早く落ち着け…!)
こんな状態をカカシさんに見られたくない。そして、こんな状態になるのは俺だけなんだと思うと、また寂しくなった。
出前を頼んだのかな、と思っていたけど、カカシさんが頼んだのは料亭の仕出し弁当だった。黒光りする漆のお重の中には、食べきれないほどの見目美しい料理が鎮座していた。
「さ、食べよ」
促されて席に着くが、慣れないシチュエーションに緊張した。
(それにこれ、幾ら掛かったのだろう…?)
昨日も奢って貰ったというのに、今日もと言うのは気が引けた。
(俺が作ったって良かったのに……)
でも口に合うだろうかと不安が過ぎる。いつもこんな料理を食べていたら、俺の作ったご飯なんて美味くないだろう。でも毎日こんな贅沢だと付き合っていけない。
階級の違いがぐっと胸を重くした。俺なんかがカカシさんと付き合っていけるのだろうか?
「イルカ? 何か嫌いなモノ入ってた?」
沈んだ気持ちで料理を眺めていると、カカシさんが首を傾げた。慌てて首を振って箸を伸ばすと、にこっとカカシさんが笑った。その笑顔に胸がほわっと温かくなる。
不安はあっても、カカシさんを好きな気持ちに変わりない。
(俺がカカシさんに追いつけばいいんだ)
隣に並ぶのに相応しい人間になろうと心に決めた。
食事が終わると風呂を進められたが、家に帰ろうと思って断った。明日はアカデミーに行くから、準備をしなければならない。
「えぇっ!? イルカ、帰っちゃうの?」
思ってもみなかったと驚くカカシさんに、ぶわぁっと嬉しくなった。
「泊まっていってよ。明日の朝、帰ればいいデショ?」
「…ごめんなさい。授業の準備があるんです」
「そうなの?……でもまだいいよね? もうちょっと一緒にいよう?」
甘える様に強請るカカシさんに、頬がぽっぽと熱くなった。うん、と頷くと、カカシさんの腕が背中に回る。
「あ〜、離したくない」
惜しむように言われて、胸がきゅんと疼いた。
(俺だって、カカシさんと一緒に居たい)
カカシさんの背中に腕を回すと、強く抱き返されて、体から力が抜けた。
「カカシさん……」
自分の喉から漏れる甘えた声に耳まで熱くなる。冷たいカカシさんの頬が火照った耳に触れて冷やしてくれる。それを心地良いと思っていたら、ふっと離れたカカシさんが耳を啄んだ。
「ひゃっ」
「イルカの耳、スゴク熱くなってる…」
息を吹き込むように囁かれて、背筋がぞくぞくした。
カカシさんの舌が耳の淵を舐める。びくっ震えた体が恥ずかしくて、カカシさんの視線から顔を背けると、俺の頬に手を当てたカカシさんが唇を塞いだ。
上唇と下唇を一緒に吸い上げると、舌先でつーっと舐める。か細い刺激に唇が痺れて、薄く開くと舌が潜り込んだ。歯の隙間も通り過ぎて、舌先を触れ合わせると絡み取るように纏わり付く。
舌の表面のざらりとした感覚が微電流となって背中を駆け下りた。体中が火照って立っていることが難しくなる。
「あっ…あ…んっ…んんっ…」
じゅっと舌を吸い上げられて、膝から力が抜けた。カカシさんが俺の体を支え、歩き始める。
口吻けをしたまま移動させられて、気付いたらベッドに腰掛けていた。カカシさんの口吻けは止まず、俺も夢中で口吻けを返していた。
気持ち良くて止められない。
そのうちカカシさんの手が服の下に潜り込んできて、素肌を撫でた。火照った肌の上を冷たい手が滑る。乳首に触れられると、びくっと大きく体が刎ねた。そこは皮が一枚剥けたみたいに、酷く敏感になっていた。
「あっ! …カカシさん…っ…」
「大丈夫。最後までシないから」
その言葉にハッと我に返った。帰ると言った癖に、俺は最後まで繋がることを考えていた。
『今日もシたら、イルカが壊れちゃう』
カカシさんはそう言ってくれたのに、貪欲な俺の体は快楽を望んでいた。こんなにも自分が快楽に弱いなんて知らなかった。昨日初めてこの行為を知ったばかりなのに、求め続ける自分が怖くなる。
「イルカ、カンジてる…?」
それでもカカシさんに熱い瞳で見つめられると、こくんと頷いた。
(止めて欲しくない。もっと、俺に触れて欲しい…)
自分からもカカシさんの唇に唇を重ねると、カカシさんの腕に熱が籠もった。夕方にしてくれたみたいに背中を撫でられる。気持ち良くて背を仰け反らせると、もう片方の手で突き出した胸の先端を弾かれた。ピン!っと下から上へと強く弾いた指先が。くりくりと乳首を押し潰す。
「あっ…あぁっ…あっ…」
じゅくじゅくと腰に熱が溜まって、窮屈なズボンを押し上げた。口吻けは深くなって、口の周りを濡らした。
(やだ、もっと…、もっと……っ)
体が更なる刺激を求める。
背中を這い回っていた手が腰に降りて、前に回った。ズボンの上から昂ぶりをぎゅっと押さえつけられて、腰が浮き上がった。
「あぁっ…!」
「もう、こんなになってる」
揶揄する声にじわりと涙が滲んだ。
(やっぱり俺、おかしいんだ…)
「や…っ」
腰を引きかけると、カカシさんが俺の手を掴んで自分の股間に導いた。
「オレも一緒。ネ? わかるデショ?」
掌に触れる昂ぶりに、本当にそうなのかと指を這わした。包み込む様に指を回すと、ぎゅっと握って硬さを確かめる。
「…っ、…コラ、そんなにすると出ちゃうデショ」
きゅっと眉を寄せたカカシさんの顔が表情に欲情を見て、安心した。
(俺だけじゃないんだ…)
「ネ、触ってくれる?」
強請られて、こくんと頷くと、カカシさんがズボンの前を寛げた。心臓をドキドキさせて見ていると、パンツを下ろして、勃ち上がった性器を取り出した。隆隆と勃ち上がる剛直に目を奪われていると、カカシさんが俺の手を取って触れさせた。
掌に触れるカカシさんの熱に、俺の体まで熱くなる。恐る恐る握り込んだ手を上下に動かすと、カカシさんが気持ち良さげな溜め息を吐いた。もっと感じて欲しくて、夢中で手を動かしていると、カカシさんが俺のズボンに手をかけて、熱を外に出した。
俺のはもう先が濡れていて恥ずかしくなる。だけど今度は、カカシさんは笑ったりせずに、濡れた先端で指を滑らせると、俺を感じさせた。
「ひぁっ…あっ…あっ……」
「イルカ、可愛い」
それがどこを指しているのだろうと気にするより早く、カカシさんが口吻けを再開して、頭がぼうっとなった。
気持ち良いことで頭がいっぱいになる。
「ん…っ、はぁ…っ、あっ…ぁあっ…」
駆け上がりそうになると、カカシさんが俺を押し倒した。柔らかい布団の上で横倒しになると、カカシさんが腰を重ねて熱を合わせた。
「アッ!」
触れたカカシさんの熱が自分の熱より熱く感じて、火傷したみたいに体を刎ねさせると、カカシさんが俺達のを纏めて握って扱きだした。
カカシさんの手の上下する動きと、剛直に押し潰されて、喚きそうになるほど気持ち良くなる。
「アァッ…アァ…アッ…アッ…」
「イルカ、一緒に握って」
いつの間にかシーツを握りしめていた手を、互いの上へと導かれる。ぬるぬると滑るソレを掌で包み込むとぎゅっと握った。互いの柔らかな先端が触れ合って、得も言われぬ快楽が湧き上がる。
「アッ…アッ…やぁ…っ、もうだめぇ…っ」
「ウン、一緒にイこう」
囁く声に必死で頷くと、カカシさんが追い上げるように素早く扱いて射精を促した。
「…ッ! アーッ!」
体を貫く快楽に大きく仰け反ると前が爆ぜた。体がバラバラになりそうな衝撃を受けて頭の中が白く焼ける。
「…っ…くぅ…」
小さく呻くカカシさんの声が聞こえて、手の中に熱が迸るのを感じた。ビクビクとカカシさんのが震えて、また気持ち良くなる。
はぁはぁと息を吐いて、快楽が過ぎ去るのを待った。その間もカカシさんが頬や瞼を啄んだ。
「イルカ、へーき?」
カカシさんが頬を上気させて聞いた。その顔は、どこか冷ややかさを感じさせるいつものカカシさんと違って、少年みたいに無邪気だ。
頷くと、「キモチ良かったね」と、くすぐったそうに笑うから、俺もつられて一緒に笑った。
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