←text top緋に染まる 11
血液が沸騰したみたいに体中が熱くなった。下半身は湯に浸かっているような感覚に包まれて力が入らない。顔を上げた男が頬を染めたまま腕を上げて口元を拭った。目が合うとにっと笑う。その口でイかされたのだと思うと顔が火照った。
そして体の奥も。
男が触れていたところがじんじんする。まだ何かが触れているような感覚が残って、でも何も無くて疼いた。
何かが変だった。イったのに満足してない。
体の変化に戸惑っていると男が手を伸ばして頬に張り付いた髪を剥がした。後ろに撫で付けるように髪を梳いてくれる。
「オレのことも気持ちヨクしてくれる?」
聞かれて、どうすれば?と考えていると、正面に座った男が自分の着物の裾を割った。そこから現れたのは筋肉の付いた綺麗な脚と隆々とそそり勃つ彼の性器だった。
「あ!」
咄嗟に視線を逸らしたが、かあっと耳たぶまで熱くなる。
どうすれば、なんて決まってる。今、自分がされた事と同じことをすればいいのだから。その気持ち良さは身を持って体験済みだ。
視線を戻して男のモノを見つめた。なんだか出来そうな気がする。最初に「舐めて勃たせて――」と言われた時はそんなこと出来ないと思ったけど、今は目の前にある男のモノが愛しく思えた。そんなのが愛しいなんておかしいのは分かっているが、俺を前にして興奮している彼のものを見ていると、シてもいいかという気持ちになった。
ぺたんと手を付いて体を屈めた。頭を下げて、そこに唇を近づける。緊張して心臓がドキドキした。
(ちゃんと出来るだろうか・・?)
あ、と口を開けかけて、だけどそこに到着する前に男の両手が脇の下に入って軽々と俺の体を持ち上げた。
(あ、あれ・・?)
思惑が違って戸惑っているうちに子供にするみたいに俺を膝の上に乗せようとする。互いの勃ち上がったモノが触れそうになって内心あわあわしていると、ひたっと当たった。
「!」
その瞬間、心臓が鼓動を止めた。向かい合うように膝の上に座らされると互いのモノが擦れ合って、ものすごくエッチなことをしてる気がして恥ずかしくなった。
オロオロしているうちに唇が重なる。ちゅっちゅっと角度を変えて口吻けるのは男の方だけど、膝の上にいると俺の方が背が高くなって、下から見上げられると俺からしてるみたいで恥ずかしさが増した。
ぬるりと這入って来た舌に舌を絡め取られて口吻けが深くなる。男の手が着物の下を這いまわり体中を撫ぜた。戯れのように乳首に触れられて体が跳ねると背中を撫ぜていた手が尻に触れた。すぼまりに触れると、指が中に這入り込んだ。
「あっ!あっ、それ・・やだ・・っ」
迷い無く、じんじんと疼いていた所をなぞられて仰け反った。そこから生まれる刺激がぐんと性器を押し上げる。どうしてそこが、とか考える間も無かった。
「アアッ、ふぅっ・・あぁ・・っ」
瞬く間に快楽の中に堕とされて思考を失う。そこを弄られると気持ちの良いことで頭がいっぱいになる。指が生み出す快楽に翻弄されていると、男が片手で俺の体を持ち上げた。
「ちょっと膝立ちになって。うん、そう・・、そのまま腰降ろしてくれる?」
言われるまま膝から力を抜くと男の指がぐっとそこを広げた。空気が触れる違和感に顔を顰める。だけどそれは一瞬で、何か熱いものがそこに触れ、ふたをするみたいに指で広げたところを塞いだ。腰を抱いていた男の手が緩み、体が沈む。
「ぅんっ・・んあっ」
ぬぬぬと滑るように体積と質感のあるものが体の中に這入り込んきた。それは覚えのある感覚で、男のモノが体の中に這入って来ているのだと分かった。さっきまでとは違い淀みなく体の奥へと進む。
「はっ・・はあ・・っ」
体の奥を押し広げられる感覚に耐えていると、男が思いも寄らぬほど深く侵入してきて、怖くなって腰を引いた。
「ぅっ!待って・・」
痛いほど体を抱きしめられる。
「まだ動かないで・・このまま、もう少し・・」
呻いた男の艶やかな声に煽られた。ぐっと押さえ込むように肩を押されて仰け反る。
「あっ、あっ!」
「あともうちょい・・、這入ったー・・」
はあーっと安堵したように男が告げが、俺の方はぎちぎちにそこを広げられて、息も絶え絶えになる。
「ゴメンネ、苦しい・・?」
はあはあ息を吐いて圧迫感を逃していると、男の手が労わる様に頬を撫ぜてくれた。勝手に涙がぽろぽろ零れる。男の唇がそれを吸い上げて、優しい口吻けをくれた。
男は動かずに俺が落ち着くのを待ってくれている。
そうしているうちに体が慣れて圧迫感が楽になった。楽になると違う感覚が生まれてくるような気がした。波の輪が広がるように、甘い何かが――。
「そろそろいーい?動くよ?」
言うと同時にぐんと突き上げられて、男にしがみ付いた。体の奥から抜け出る感覚がして、また突き上げられる。穏やかに始められた行為は次第に動きを早くして、一定のリズムを刻み始めた。狭い腸壁が男に擦られてだんだん熱くなっていく。熱は同時に緩慢な快楽も生み出した。そうされると気持ち良い。されるままとろりとして身を任せていると、男が動きを変えた。俺の腰を持ち上げると中程で探るように腰を動かした。その卑猥な動きに顔を赤らめる。
「アッ!」
ふいに襲った強烈な快楽に手足をばたつかせた。確認するように何度もそこを擦られる。そこはさっき男に指で弄られたところだった。 「やあぁっ・・あっ・・やめっ・・」
「やめなーいよ」
意思を持って、男がそこをぐんと突き上げた。イったような快楽に全身が引き攣るが、イってない。
それは終わりじゃなくて始まりだった。
はっはっと熱い呼気が首筋に当たる。男には余裕があるのか突き上げながらも俺の体に触れた。片手で俺の背中を支えながら、もう片方の手が乳首やわき腹に触れる。だけど性器には触れてくれなくて、行き場を失った熱がうねって出口を求めた。
だらだらと先走りを零した性器が濡れていくのを感じた。硬く勃ち上がったままの性器は熱を開放することなく溜め込んでいく。自分で開放しようにも、男の動きに振り落とされないようにしがみ付くのに必死で手が離せなかった。
「ああっ、ああっ、ああ・・っ」
男の動きが早くなり、飽和しそうな熱に体がばらばらになりそうになった。それでも開放を求めた体は更なる刺激を求めた。
苦しい。これ以上は受け止めきれない。
「ああっ・・、あ・・っ、し・・じゃ・・っ、助けて・・っ」
すがり付くと男の手が性器に触れてた。熱い手に包まれて、それだけでじゅっと腰が溶けた。数回上下に扱かれただけで、瞬く間に駆け上った快楽に熱を吐き出した。射精の衝撃に体が痙攣して、小さく声を漏らした男が体の奥に射精したのを感じた。
しばらくの間は快楽の余韻に浸って身動き出来なかった。柔らかな布団に寝転がり、はあはあ呼吸していると、一足先に復活した男が顔を覗き込んで来た。
「だいじょーぶ・・?」
額や頬に触れる手に幸せがこみ上げる。思わず笑みを浮かべると男が俺を抱きしめた。
幸せでしょうがない。
頬を摺り寄せて抱きしめ返すと強く抱きしめられてまた幸せになった。
それから。
もう一度後ろからしてお風呂に入って寝て、朝目が覚めて今度は正常位でして、また少し寝た。
次に目が覚めた時、陽は高く上っているようだった。閉じた障子に格子の影がくっきりと映っている。布団の中に居たのは俺一人で、男は背を向けて着替えていた。忍服を着込んだ姿に任務があると言っていたのを思い出して、俺も体を起こした。
「あ、起きたの?まだ寝てていーよ。疲れたデショ?」
店の者には言ってあると言われて一抹の不安が生じた。
俺はこの後どうなるのだろう。
男はまたここに戻ってくるのか、それとも戻ってこないのか。今度はいつ会えるのか、俺はどうやって彼に会いに行けばいいのか。
ぐるぐる考えているうちに彼が手甲を嵌めた手を馴染ませる様に握ったり開いたりした。幸せだった気持ちは霧散して不安な気持ちだけが胸を占める。彼は俺が起きてから一度もこっちを見ようとしない。
(どうして何も言ってくれない・・?)
そして、ふと気づいた。
(もしかしたら、ここまでが彼の閨房術じゃないだろうか?)
どきどきと心臓が高鳴り、呼吸が苦しくなった。考えてみれば最初に言われた。彼が欲しいのは人肌の温かさだと。
「じゃあ、行くね」
彼がそう言っても、俺はまだ期待していた。閨房術じゃないと。俺を必要としてくれていると。
彼はそのまま振り向きもせず襖を開けて出て行こうとする。
胸が張り裂けるように痛かった。
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