眠れない夜 5




「アレ…?」
 カカシさんが手の中の変化に気付いて、ぎゅ、ぎゅと強めに扱き上げた。
「んっ、あ・・っ」
 そんな場合じゃないのに正気に返った頭の中に甘く靄が掛かった。
 ちゃんと答えなければ気付かれてしまう。俺が未だかつてコンドームすら着けたことがないことを。
「あ、あります」
 万が一、聞かれることがあったらこう答えようと決めていた。でも嘘は吐いてない。それに俺も男で、26歳だから別に「ある」って言ってもへんじゃないと思っていた。
 だけどカカシさんは、「え?」と訝しんで、今まで動いていた手を止めた。頬に視線が突き刺さる。
「どうして?ホントに?」
 聞き返されて頬がかーっと火照る。疑われたのと追求されないと思っていたことを追求されて焦った。ぶわっと全身からヘンな汗が噴出した。
「ど、どうしてそんなこと聞くんですか。別に、どっちだっていいじゃないですか、そんなの」
「よくないよ。だってイルカ先生、こういうことするのオレが初めてって言ったじゃない 」
 あっ!と頭の中で大きな声を上げた。本当だ。着けたことがあるという事は、セックスするような場面に出くわしたことがあると言うことだ。
 経験の無い俺が一体いつ、どこで!?
 体裁を整えることに必死でそんな当たり前のことに考えが及ばなかった自分のアホさ加減に目の前がぐるぐる回る。
 どうしよう・・。誤魔化しきれない。
 もう逃げたい。
 真相を問い詰められる前に。カカシさんに呆れられる前に。
 だけど、カカシさんの追及は止まらない。
「それともあれは嘘?オレ以外にイルカ先生のココ知ってる人がいるの?」
「あっ」
 ココ、と強く握られて体が竦んだ。痛みはない。ただカカシさんの雰囲気が哀しげに変わった。そのことが胸に突き刺さる。
「嘘じゃありません。カカシさんだけです」
「じゃあ着けたことがあるって言うのが嘘?」
「嘘なんか言ってません・・」
 不安げなカカシさんに覚悟を決めた。
「あるじゃないですか……カカシさんに…」
「あ、そっか」
 真相をバラすとぱああぁっとカカシさんが笑った。変わりに俺のプライドはぺしゃっと潰れたが。
「そうだよね、イルカ先生が着けてくれたもんね!じゃあイルカ先生は?無いよね?無いデショ?」
 とほほ・・。そんなに何度も確認しなくったって…。
「…………はい」
 泣く泣く認めると心底嬉しそうにカカシさんが笑った。カカシさんは俺にそういう経験がないのは嬉しいらしい。だけど俺は余計な見栄を張った分、手放しで喜ばれて少し複雑だ。俺だって男なのに。
「じゃ、オレが初めてだ」
「はい?」
 なにが?
 密かにむくれつつも、疑問に思って振り返るとカカシさんが口に挟んでいたコンドームの袋をぺりっと破いた 。中からゴムの輪っかを取り出すと目元にゼリーがぴんと跳ねた。
 なんで今出すんだろ・・?カカシさん服着てるのに。
 疑問はすぐに解けた。
「イルカセンセイにはオレが着けてあげる」


!!!!!


「い、い、い、いりません!なんで俺が・・」
 今度こそ逃げようと腰を浮かしかけると体にカカシさんの腕が巻きついた。
 両膝の下にカカシさんの足が滑り込み、カカシさんが足を立てると俺の足もつられて膝を立てた。両足を大きく広げて。
「わーっ、わーっ、なにするんですかっ!はなしてっ、はなせっ!」
「しー・・。じっとして・・」
 しーじゃない!こんなひっくり返ったカエルみたいな格好でじっとなんか出来るかっ!
 べしべしカカシさんの足を叩いて外そうとするが、頑丈に絡まった足は外れない。
 コンドームを持つカカシさんの手が下肢に近づく。
「やだっ!やだやだやだっ!」
 めちゃくちゃ恥ずかしかった。それはゴムを着けたことがないのがバレたことなんか比べものにならないぐらい。どれくらい恥ずかしいのか強いて言うならば、初めて中忍服に袖を通して三代目に見せに行った時の様な、ひとつ大人になったような気恥ずかしさ・・、いや、あの時はもっと静粛な気持ちだったが――。
 とにかく照れくさくて今更そんなことしたくない。腕を押して抵抗するが、カカシさんは構わず手を動かし続ける。湧き上がった甘い痺れに手の力が抜 けていく。
「ぅんっ・・やだ・・っ」
「大丈夫だから」
 宥めるように頬に唇を押し付けられてぎゅっと目を閉じた。逃れらない。最後の抵抗とばかりに身を捩ると、性器の先端に冷たいものが被さった。
「あくっ・・」
 冷たさに体を竦めると一瞬カカシさんの動きが止まる。だけどすぐに再開して、するするとゴムを下ろしていった。ひたりと性器が薄い膜に包まれる。卵の薄皮が指にくっ付いたときのような感覚。根元まで下ろすと、きゅ、きゅっと全体を握ってゴムを馴染ませ完全に装着してしまった。



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