苺ミルク 1
ピ〜ンポ〜ンとチャイムが鳴って、玄関に向かった。その間にもドアの外の主は待ちきれないように、ピンポン、ピンポンと繰り返しチャイムを鳴らす。
「はいはーい!」
急かされてドアを開けると、ちょんとカカシ先生が立っていた。夕日を背負い、口布で隠れて僅かにしか見えない白い頬を紅潮させて。
「あ、のっ、イルカ先生、今日は、お、おま…、おまねき頂き…」
(わかったから)
一生懸命なカカシ先生が可愛い。くすっと笑うとドアを大きく開けた。今日カカシ先生が来たのは、俺ンちにお泊まりする為だ。
「カカシ先生いらっしゃい。どうぞ上がって下さい」
棒のように突っ立っているカカシ先生の腕を引くと、カカシ先生はつんのめるようにして1歩俺の家へと足を踏み入れた。余程緊張しているのか、引いた右腕と右足が一緒に出ていた。
「ははっ!カカシ先生、そんなに緊張しないでくださいよ」
「あはっ、そうだね」
俺が笑うとカカシ先生も笑って、後ろに隠し持っていた箱を差し出した。
「イルカ先生、コレ」
「なんですか?」
「紀の国のお酒。美味しいから一緒に飲もうと思って」
「わぁ、ありがとうございます!」
酒は嬉しかったが、それよりもカカシ先生の方が気になった。初めて肌を重ねた朝、カカシ先生は式に呼ばれて急な里外任務に出てしまったから、会うのは3日ぶりだ。それとなく全身をチェックするが、どこにも怪我してないようだった。
「カカシ先生、おかえりなさい」
続けて任務のことを聞こうとして言葉が出なかった。いつの間にか口布を下ろしたカカシ先生が、あまりにも嬉しそうな笑顔を浮かべたから。
「ただいま、イルカセンセ」
甘えた声で言われて、カッと頬が熱くなった。体中の血が逆流してくる。
「あ、ぅ、うん!とにかく上がってください」
「ウン」
熱くなった顔を隠すために、くるっと背を向けると居間に逃げた。何故かおかしなほど心臓がドキドキした。さっきまで平気だったのに緊張してくる。カカシ先生が可愛く笑ったりするからだ。カカシ先生は、俺が付き合ってきた中で一番格好いい。とびっきりの男前だ。そんな人から笑顔を向けられたら、誰だって緊張して舞い上がってしまうだろう。
「イルカセンセ」
すぐ後ろから声を掛けられて台所に逃げた。
「お茶入れますから座っててください。……あ!ベストはそこのハンガー使って下さいね!」
「ハーイ」
気持ちを静めようと、水屋の中から一番良いお茶っ葉を出すと急須に入れた。ポットのお湯をたばたば注ぎながら、ちらっと盗み見ると視線が合って、カカシ先生がニコッと笑った。
俺の鼓動はますます早くなる。困った。だけど嫌な困惑じゃなかった。カカシ先生が来てくれて嬉しい。
カカシ先生が任務に出る前にお泊まりの約束をしたけど、正直期待はしていなかった。すっぽかされるのも予想していた。これまでの付き合いの中でそうした事は度々あったから。一夜限りの相手だっていた。
(…カカシ先生は、俺のだらしなさを知ったらどうだろう?)
急に胸の中に暗雲が立ち込めた。
これまでにも多少の噂なり耳に入る機会はあっただろうが。
(潔癖なカカシ先生は、俺を嫌いになったりしないだろうか…?)
思考が悪い方へ転がっていく。急に弱気になっていく心に、ぶんっと頭を振ると思考を打ち消した。そんな心配しても、過去が消せる訳でもない。
(俺らしくないよな!嫌われたら嫌われた時だ)
元々俺は快楽主義者だ。今が良ければそれでいい。
気を取り直してお茶を注ぐと卓袱台に運んだ。コトンとカカシ先生の前に置くと、カカシ先生が首を傾げた。
「イルカ先生のは?」
「俺はあっちで晩ご飯作りますから…」
「じゃあ、俺もあっちに行ってい?イルカ先生の傍に居たい。ご飯作ってるトコ見てていーい?」
「…ぅっ」
カカシ先生のストレートな言葉が心臓を直撃した。収まりかけていた鼓動がまた激しくなる。同時にホッと安心もした。
(ほら、大丈夫だ。カカシ先生は俺に惚れてる)
「そ、それじゃあ、あっちに行きますか」
「ウン」
卓袱台に置いたばかりのお茶をお盆に乗せて台所に運んだ。改めてテーブルに置いてイスを勧めると、カカシ先生がやっと腰を落ち着かせた。
「美味しい…」
ふーっと息を吐くカカシ先生の息遣いが耳に届く。
「良かった。じゃあ俺、ご飯作ってますからゆっくりしてください」
「ウン」
じゃーっと鍋に水を注いで煮干しを落とした。火に掛けて沸騰を待つ間に、別の鍋にも湯を沸かす。
「………」
じりじりと背中にカカシ先生の視線を感じるようで落ち着かなかった。振り返るとやっぱり見ている。
カカシ先生の嬉しさや気恥ずかしさ、それから甘い期待を多分に含んだ視線に足の裏がもぞもぞした。かぁっと頬が熱くなる。柄にもなく照れている自分にむず痒くなる。なんだこの甘酸っぱさは。
(…らしくない!)
「………あーもうっ」
突然声を上げた俺に驚くカカシ先生の唇に噛みついた。
「ぅむっ…イぅカせ…」
何か言おうと開いた唇に舌を差し込み深く合わせる。くちゅくちゅと音を立てて舌を絡めると、カカシ先生の体から力が抜けた。縋るように背中に腕が回って、ぎゅっと俺を抱き締めた。カカシ先生の胸に手を当てると激しく鼓動を打っていた。唇を離そうとすると、カカシ先生の唇が追い掛けて来た。
「イルカセンセ、もっと…」
熱に潤んだ目で俺を見ている。良し!と心の中で声を上げた。こっちの方が慣れている。
「…今は駄目です。美味しいご飯作りますね。今日の献立はアサリの酒蒸しと、菜の花の辛子和え、それから焼き魚です。嫌いなモノはありますか?」
ぽぅっとしたまま首を横に振るカカシ先生の唇をもう一度啄んだ。薄い唇がもどかしそうに開く。イイコだからと頬を撫でると、カカシ先生がふわりと笑った。
「オレ、イイコになる」
まったくもって、カカシ先生は可愛い。今のでズキュンッと胸を打ち抜かれた。
手伝いを申し出たカカシ先生と一緒にご飯を作って卓袱台に並べた。我ながら美味しく出来た。カカシ先生が持って来てくれた酒も旨く、飲みながらの食事は会話も弾んで、すぐにほろ酔い気分になった。
酔うとカカシ先生の頬はますます赤く染まった。肌が白い分赤味を帯びるとすぐに目立つ。
それを見ていると、むくむくとやらしい気持ちになる。カカシ先生と寝たくなった。あの真っ赤に染まった頬を舐め回したい。服の下がどんなにエロっちい色をしているのか、俺は知ってる。
(ピンクだぞ、ピンク!)
あのつぶらな乳首の色を思い出した。それからもっと下の所も…。
「……カカシ先生、お腹いっぱいになりましたか?」
「あ、ウン!美味しかったです」
「じゃあ、お風呂に入ってきて貰えませんか?俺、カカシ先生とシたいです」
唐突だったが、断られるなんて微塵も思って無かった。さっきキスした時だって、『もっと』と言った。案の定、カカシ先生は真っ赤になって、こくこく頷いた。リラックスしていたのに、ゼンマイ仕掛けの人形のようにぎこちなく立ち上がる。
「お風呂こっちです。着替えだしておきますね」
「ハ、ハイ…!」
風呂場に案内すると、使い方を説明して脱衣所の扉を閉めた。シャワーを使う音に、うきうきと心が弾んだ。
(今日はどんな風にしてカカシ先生を抱こう…?)
まだまだ試していない体位はたくさんある。
(でも、手綱はちゃんと掴んでないとな!)
前回好き勝手されたことを思いだして決意する。同じ失敗は繰り返さないつもりだ。
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