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とける(カカシside)





 思いっきり八つ当たりをした。
 イルカ先生は何にも悪くないのに、イライラしててつい当たってしまった。
 さらに悪い事に、すぐ謝れば良かったのだが、イルカ先生の顔を見るのが怖くて寝室に逃げてしまった。
 あんなことするつもりなかったのに。
 いくらそんな事思ってみても後の祭りで、自分の感情もコントロール出来ず何が上忍だと自己嫌悪に息が詰まった。
「・・・くっ」
 押し殺した声が襖の向こうから聞こえて、泣いてると思った。すぐにでも出て行って謝って慰めたいのに、怖くてそこから動けない。拒絶されたら、と思うと襖を開けることが出来ない。そう思っていたのに。
「くくくくっ・・・」
 笑っている?
 まさか、と思って僅かに襖を開けてみると、ちょうどオレがひっくり返した椀を片付けているところだった。ゴシゴシと台を拭きながら、その横顔に見覚えのある表情を浮かべていた。
 ――アカデミーで悪戯をした子供を叱った後よく浮かべている表情。
 何故だかオレは許されていた。
 しょうがないなぁ、みたいな顔して笑ってるのを見て、ほっとした途端、イルカ先生と目が合って、彼が盛大に噴出した。あんまり笑うからばつが悪くなって、襖を開けたものの其処から動けないでいたら抱きしめられた。思いっきり。
 背中を摩る手が気持ち良くて目を閉じる。
「・・・・怒ってないんですか?」
 聞けば、ちょっと考える振りして、
「ん――怒ってません」
 ときっぱり言うから、体の力が抜けた。
 されるがまま抱きしめられる。そうしていると彼の持つ温かさや優しさがぶわっと流れ込んで来て、溜まっていた澱みが洗い流されていくのを感じた。それでますます力が抜ける。底なしの愛情にとっぷりと頭から浸からされて、手も足も溶けたみたいに力が入らなくなる。
 まさに骨抜き状態。
 こうなるとオレはアホだから、ずっとくっついていたくなる。離れたくなくなる。そして立ち上がりたくなくなる。
 でもそれはだめ。そんなの情けなさ過ぎる。
 でももうちょっとだけ・・・。
 やばいなぁと思いつつもされるがままになっていると、
「良い子、良い子」
 イルカ先生が子どもにするみたいに甘やかした。
「子供じゃありません」
 自分への牽制も込めて言えば、
「知ってます」
 と摩る手は優しいまま、真剣な目で返された。
「・・・・・・・・」
 びっくりした。十分子供じみたことをした自覚はある。だから子供扱いしているのかと思っていた。でも違ってた。イルカ先生はただオレを受け止めてくれようとしているだけだった。
 うれしいかった。うれしくて、愛しくて、堪らない気持ちになった。
 もうずっとこうしていたい。
 そう思ったら絶妙なタイミングでイルカ先生が体を離した。余りのタイミングの良さに心の内を見透かされてるような気がしてくる。
「さ、お腹すいてるでしょう?」
 これは・・・・・気付いてない。たぶん。
 イルカ先生は無意識に調節する。オレに必要な愛情の量を。
 敵わないなと思う。でもそれもいいかと思った。
 どちらにしてもイルカ先生の手の中は気持ちいいのだから。