とける
「お帰りなさい」
「ん・・・ ――」
――機嫌悪そう。
口数少ないカカシさんをお風呂へと送り込むとはぁと息を吐いた。
任務で何かあったのかもと思うが俺にはそれを聞く事が出来ない。カカシさんが単独で出る任務といえば極秘なものがほとんどだ。予定より早く帰ってきたから任務自体は上手くいったのだろうと思うが・・・。
今、俺に出来る事と言えば、味噌汁の具に茄子を加えてあげる事ぐらいで。
でも、それがいけなかったらしい。
風呂から上がったカカシさんを卓袱台の前に座らせるとビールを出して「お疲れ様でした」と労った。それからご飯やら味噌汁やらおかずやらを用意し。
疲れ切った様子でもそもそと口に運ぶのを見ていたら、味噌汁に口をつけた瞬間「熱っ」と顔をしかめた。
お風呂に入っている間に、と急いで作ったのでちょっと冷ますのを忘れていたのだ。
「すいません!」
慌てて台所に走ってコップに冷たい水を入れて戻ると、カカシさんが味噌汁のお椀片手にふるふると震えている。
まずい。怒ってる。
「あの・・・カカシさん。お水です・・・」
コップを手渡そうとしたが此方を見ない。
どうしたものかと思っていたら。
「こんな熱いの飲めません!!」
と、お椀を卓袱台にひっくり返す様に叩きつけると、寝室に引っ込んでしまった。
ぴしゃりと締められた襖を呆然と見る。
あんなに怒ったカカシさんを見たのは初めてだったのだ。
はぁぁぁと溜め息を吐くと布巾を取りに立ち上がった。
戻って改めて卓袱台に伏せられたお椀を見た。
「こんなことして・・・」
――後で後悔するくせに。
片付けようと椀に手を伸ばし、止めた。
さすがは上忍と言うべきか。
一口も口をつけていないから並々と汁は残っていたはずなのに、椀の淵やその周辺には一適も零されないまま、ぴったりと台にくっ付いている。つまりは味噌汁はまだ椀の中という事だ。
「あらら・・・」
さて、どう片付けよう。
このまま椀を引っ張れば盛大に零れるから、ボールでも持ってきてスライドさせようか、それとも水遁でなにかいい術はないかな、といろいろ考える。
それにしても。
「ぷっ」
なにもこんな風に伏せなくてもいいのに。
いかん、可笑しくなってきた。
笑い出しそうになるのを我慢して、ひくひく震えながら、結局ボールを使う事にし台所へと取りに行った。
こんな所で力を発揮しなくても良さそうなのに。
堪えきれずくすくす笑いながら卓袱台を拭いて、ふと視線を向けると細く開いた襖の隙間からこちらを覗いていたカカシさんと目が合った。
「ぶっ、くくくくっ」
溜まらず笑い出したら、襖が開いて憮然としたカカシさんが正座していた。
「・・・・何がそんなにおかしいんですか」
「くくっ・・・だって・・・」
笑いながらもちょいちょいと手招きするとふいっとカカシさんが首を逸らした。その唇が拗ねた子供のように尖がっている。
暫く笑いながらその様子を眺めていたが、何時まで経っても来ないので此方から近づいた。
手を伸ばせばビクッと首を竦めるのも構わず抱きしめた。その背を宥めるように摩る。
「・・・・怒ってないんですか?」
「ん――怒ってません」
きっぱりと言えばカカシさんが体の力を抜いてもたれかかってきた。
「良い子、良い子」
思わずポロッと出た言葉に「子供じゃありません」と返された。
「知ってます」
「・・・・・・・・」
知ってます、そんなこと。
アナタが背負うモノの大きさは想像しか出来ないけれど。
それでも人知れず疲れたり、傷ついたり、悩んだり、それらを抱え込んだりしてるのは判るんです。俺に出来ることなんてたいしてなくて。
だから例えそれが鬱積でも俺にぶつけてくれた事がとても嬉しい。
甘えてもらえるのがことがすごく嬉しい。
「さ、お腹空いてるでしょう?」
顔を覗き込めば困ったような顔をして笑っている。
「・・・・ゴメンナサイ」
「もういいんですよ」
再び手を引いてカカシさんを卓袱台に座らせるとおかずを温め直して、程よく醒めた味噌汁を出した。
今度は「おいしいです」とはにかんだ笑顔を浮かべるカカシさんに目を細めた。
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