世界は二人の為に 3
家に帰ってからケーキの箱を開けた。中には直径十センチほどケーキが入っていて、カシさんはほとんど食べないから、一人で食べるにはちょうど良いサイズだった。
ケーキは苺のケーキでシンプルだが飴細工で飾ってあり、とても綺麗だ。
ロウソクに火を灯して部屋の明かりを消した。飴にロウソクの火が反射してキラキラ光ってた。
「願い事した?」
「はい」
カカシさんに聞かれて頷いたが、何を願ったかは秘密だ。ふーっと息を吹いてロウソクを消すと、カカシさんが手を叩いた。
「イルカ先生、おめでとう」
「ありがとうございます!」
昨日から何度祝って貰っただろう。カカシさんの誕生日にもたくさんおめでとうを言おうと決めた。そしたら生まれて来てくれて嬉しいって気持ちがたくさん伝わるだろう。
(…あ、そっか)
きっとカカシさんも同じ様に思ってくれている。
カカシさんが明かりを点け、切り分けないままのケーキを俺の前に寄せた。
「どうぞ召し上がれ」
「はい!」
フォークで生クリームを掬い、口に運んだ。ほどよい甘さが口の中に広がる。料亭でたくさん食べたばかりだけど、これなら何個でも食べられそうだった。
「おいし?」
「とっても!」
苺をフォークで刺してカカシさんの口許に持って行った。少し生クリームが付いていたが、これぐらいならカカシさんも食べられる。あーんと開いた口の中に苺を入れた。
「ン、美味しーネ」
「はい」
もうちょっとと思ったけど、カカシさんが眉尻を下げた。欲しく無いようだ。カカシさんがケーキを食べないのは毎年のことだけど、俺ばっかり食べるのは悪い気がした。
「カカシさん、さっきのお酒飲みますか?」
「ううん。あれはイルカ先生のだから、後はイルカ先生が飲んで」
「じゃあ、一緒の時に飲みますね」
そしたらカカシさんも一緒に飲める。
「ウン」
ふわりと笑ったカカシさんが俺の頬に手を伸ばした。キスだと思ったら、口の端に突いた生クリームを掬って手を引いた。
「付いてたよ」
「あ、すみません」
カカシさんが指に付いた生クリームをペロリと舐めた。
(俺が掬ったのはいらないって顔したくせに)
拗ねた。機嫌が悪くなるってほどではないが面白く無い。
「カカシさん、もっとケーキ食べませんか?」
「ううん、オレはもういらない。イルカ先生食べて」
「そうですか…」
自分でも何故面白く無い気持ちになったのか分からなかった。ただ、一人でケーキを食べても楽しく無いに決まってる。
「…残りは明日にします」
「そう。じゃあお風呂に入る?」
(お風呂…!)
「はい!」
ケーキを箱に戻して冷蔵庫に入れた。使ったお皿とフォークを洗う。その間にカカシさんがお風呂の準備をしてくれた。
「イルカ先生、そろそろお風呂が溜まるよ〜」
「はーい」
着替えを脱衣所に運んだ。カカシさんの分も運んで一緒に入りたいとアピールした。口ぶりからカカシさんもそのつもりなんだと信じて疑わなかったけど、
「お湯、いつもより熱いかもしれないから気をつけて」
そう言って、カカシさんは脱衣所から出てしまった。
(あれ…。何処行くんだ?)
カカシさんの後を追い掛けた。
「カカシさん。カカシさんはお風呂に入らないんですか?」
「入るけど…、一緒に入りたいの?」
(はっ!)
顔から火を噴きそうになった。
「い、いえ違います!カカシさんはいつ入るのかなぁと思って」
「イルカ先生の後に入るよ」
「そうでしたか」
当たり前の顔で言うから、急いで回れ右した。
恥ずかしい。一人でその気になっていた。
脱衣所に逃げ込み服を脱ぐ。上着を脱いだ所で腑に落ちなくなった。
(なんか違う)
昨日はあんなにベタベタしていたのに、今日はどうしてあっさりなんだ。平日は嫌だと言ったから、距離を置かれているのだろうか?だけど今日は誕生日だし、もっと構ってくれてもいいじゃないか。
(………誘いに行こうかな…)
「わー!!!」
(何考えてんだ、俺!)
自分から言うのは恥ずかしかった。それに誕生日を理由にするには、すでにいろいろ貰っていた。
「イルカ先生、どーしたのー?」
「なんでもありません!」
居間から聞こえて来た声に慌てて返事をして風呂に飛び込んだ。
しょぼん。
鼻の下まで湯船に沈む。今日は一緒に入りたかった。
(エッチもしないのかなぁ)
昨日平日はしないと言ったばかりだ。もしかしたら、カカシさんは俺を気遣っているのかもしれない。
(昨日が今日だったら良かったのに)
でもあんな中途半端なエッチは嫌だ。
(どうすれば良かったんだろう…)
悶々と考え込んだ。
したいと言えばしてくれるかもしれないが、その気もないのにして貰うのは嫌だ。だけど立場をひっくり返して考えれば、いつもしたいと言うのはカカシさんだ。その気のない俺を抱くのはどんな気持ちだっただろう。
(俺って、すごく失礼なんじゃ…)
でもカカシさんは時々加減を知らないから、断らないと身が持たない。
「あ」
ふいに、日付が変わるまでが誕生日だと言われたのを思い出した。だったら、少々の我が儘は許されるんじゃないだろうか。
(それにカカシさんだって…)
エッチ以外に何があるんだ。ケーキは食べたし、プレゼントだって貰った。後はイチャイチャするだけだろう?
うんと甘く抱いて欲しかった。無茶しない程度に。なにも言わなくても、そうしてくれると思っていた。
(昨日だって、前と後を同時にしてくれて気持ち良かった…)
思い出すと、湯の中でふわーっと性器が勃ち上がった。
(わわ…)
ぎゅっと手で下に押さえつけた。こんな所で欲情してどうする。
(もう上がろ)
体を洗うために立ち上がる。
「イルカ先生、そろそろ上がる?オレも入って良い?」
突然話し掛けられて心臓が飛び出そうになった。
「あっ!まだ…」
風呂の扉にカカシさんの影が映り、すでに服を脱ぎ始めていた。
(はわ!はわわわっ)
ドアに手が掛かり、みっともなく勃ち上がった性器を隠したくて、しゃがんで膝を抱えた。裸になったカカシさんが風呂に入って来て、きょとんと俺を見た。
「あれ、イルカ先生まだ洗ってないの?」
「すみません、すぐ洗います」
「いーよ、ゆっくりで。狭くなるけどガマンしてネ」
「は、はい、あ、いえ」
こんな状態で長湯したくない。掛け湯して湯船に入って来るカカシさんに、背を向けて外に出た。素早くイスに座り膝にタオルを掛ける。
(よし)
とりあえず隠れた。シャンプーを手に取り頭を洗った。ちらりと見るとカカシさんは浴槽の淵に頭を凭れさせて目を閉じていた。
(ちぇ)
俺への興味なんて、薄れてしまったのだろうか。今日でまた一つ年を取ったし、俺なんかおじさんだ。
(どうせ俺なんか…)
ふて腐れてシャワーを頭から被り、リンスを付けた。ネトネトするのは嫌いだから、すぐに流して髪をゴムで纏めた。それからスポンジに石けんを付けて体を擦る。
「イルカ先生、背中擦ってあげるよ」
「本当ですか!」
すぐにスポンジを渡して背中を向けた。クルクルゴシゴシ擦られて気持ち良い。
(カカシさんが俺に興味を無くすなんて、やっぱり思い違いだったんだ)
背中を洗い終わり、シャワーを掛けられた。
「髪にも泡が付いてるから目を閉じて」
ぎゅっとすると、髪を纏めていたゴムを取ってくしゃくしゃ髪を掻き混ぜられた。すっごく気持ち良い。楽しい気分になって、くすくす笑いが込み上げた。
「はい、もういーよ」
「交代!今度は俺がカカシさんを洗います!」
カカシさんの手を引いて立ち上がった。すると膝に掛けていたタオルが落ちて性器に引っ掛かり、重力に従って勃っていた性器を押し下げた。それが外れて床に落ちると、性器はバネが弾んだようにぴょんと上を向いた。互いの視線の間でゆらゆら揺れる。
「わあぁああっ!」
慌てて股間を手で隠した。恥ずかしくて死んでしまいそうだった。
「イルカ先生、気持ち良くなってたの?」
「ち、ち、ち、ちがっ!」
たったあれだけで、と思っているだろうか。本当はカカシさんが入って来る前から勃っていたのだが、それを説明する訳にもいかなかった。
(もう消えてしまいたい…)
黙って俯いていると、カカシさんが俺の手を引いた。
「や、やだっ」
こんな姿を見られたくなかった。
「こっちおいで」
優しい声に恐る恐る顔を上げると、カカシさんが穏やかな笑みを浮かべていた。
「そのままじゃあ辛いデショ?」
「カカシさん…」
腕を引く手に力が入って、恐る恐る腰を上げた。浴槽を跨ぎ、淵に座るように促されて腰を下ろした。
しゃがんだカカシさんがすいーとお湯を掻き分けて近づいて来る。膝に手が触れ、足を割られそうになって力を込めた。
カカシさんが視線を上げて俺を見た。その目に嘲る色はどこにも無かった。
膝から力を抜き、身を任せた。カカシさんは俺の膝を開いて、間に身を滑り込ませた。股間を隠していた手を取られ、勃起した性器をカカシさんの目の前に晒す。
風呂場の電気が明るくて恥ずかしかったが、カカシさんは俺のを愛しそうに見ながら顔を傾けた。竿にちゅっと唇が触れる。
「あっ!」
敏感に反応して膝が跳ねた。体が揺れ、後ろにひっくり返ってしまうんじゃないかと怖くなった。タイル張りの床は背中から落ちれば痛いだろう。
強ばった俺に気付いたカカシさんが指を絡めて両手を握った。こうしていれば、落ちそうになってもカカシさんが助けてくれるだろう。
ホッとして体から力を抜くと、カカシさんが舌を出して性器を舐めた。赤い舌が動く度に、ひちゃひちゃと水音が響いた。
上から見下ろすその姿は扇情的で、いつもより興奮した。
カカシさんは手を使えない代わりに頭を使った。強い刺激を与えようとする時は顔を押し付けてくる。
「あっ…だめっ…」
先走りを溢れさせた性器がカカシさんの顔を汚した。手を外してカカシさんの頭を退けようとしたけど、より強く握られて外せなかった。
「カ、カカシさん…っ」
「ぅん?」
返事をしたカカシさんがこっちを見上げて視線が合う。刹那、カァと全身が熱くなり、先端からドクリと先走りが溢れ出た。カカシさんが伸び上がり、それを舌先でチロチロ掬った。
「ひっ…あっ…んぁ…っ」
敏感な鈴口を柔らかな舌先で擽られて堪らなくなる。
「あっ…もう…っ」
イキそうだと思った時、口を開いたカカシさんが先端から性器を飲み込んだ。ぬーっと唇と舌で擦られて射精感が高まる。
「ヒァッ!あっ…!」
次の瞬間、カカシさんがジュプジュプと音を立てて性器を扱いた。柔らかくて熱い口腔に包まれて、溶けそうなほど気持ち良くなる。
「あ、あ、あ、あっ」
カカシさんの口から引き出された性器が唾液に濡れて光っていた。カカシさんが綺麗な顔を歪めて奉仕してくれる姿が気持ち良さに拍車を掛けた。
「あっ…カカシさんっ…でぅっ…」
「ひーお」
カカシさんがくぐもった声を上げて、強く性器を吸った。
「あぁっ」
尿道がきゅっと狭まり、管の中の精液を吸い上げられた。それが呼び水となってカカシさんの口の中に射精してしまった。
「あーっ…あぅっ」
ちゅうちゅう吸われ、快楽が足の裏にまで走った。足の甲がきゅうと丸まり、繋いだ手を強く握り返していた。
快楽が引くと体から力が抜けて、カカシさんに腰を引かれるまま浴槽の中に沈んだ。萎えた性器がズルリと口から抜け出て、コクンとカカシさんの喉が動いた。
「飲んじゃったんですか…?」
「ウン」
「もう…、すぐ出せたのに…」
カカシさんの首に手を回して抱き付いた。首筋に頬を寄せて息を整える。心臓がドキドキしていた。カカシさんの首筋から伝わる鼓動も早い。
「イルカ先生、コレ…」
水中に下ろされた手がカカシさんの股間に触れた。そこには勃ち上がり、息づくモノがある。握って緩く扱けば硬くなる。体の奥でまた火が点くのを感じた。
「どこでいい?ココ?それともベッド行く?」
「ベッド…」
これ以上湯の中にいると逆上せそうだった。
「りょーかい」
ザバーッと水しぶきを上げて、力の抜けた体を抱き上げられた。脱衣所でさっと濡れた体を拭い、タオルを被ったままベッドに直行した。
二人して、ぼふりと音を立ててベッドに沈んだ。俺の上に乗ったカカシさんが体に残った水滴を吸い上げながら腰の方へ下がって行った。
(焦らされたくない)
そんな思いが込み上げるが、カカシさんも同じだったようですぐに足を開かれた。膝裏が押されて腰が浮き、ふっと温かい息がお尻に触れた。
「あっ…カカシさん、だめっ」
ひちゃと窄まった所に舌が触れた。びくぅと足が引き攣るように痺れた。
「だめっ…だめっ…」
「どうして?今日はお風呂に入ったばかりだーよ?」
例えそうでも不衛生な所だ。イヤイヤと首を横に振ったが、カカシさんは舌を這わせ続けた。ソコはすごく敏感で舌がちょっと触れただけでも体が跳ねてしまう。
「あぁっ…やっ…んんーっ」
散々舐められた後に指で後口を開かれ、舌を差し入れられた。そのままうねうねと動かされて身悶えた。駄目だと思っても、慣れた体はその気持ち良さを知っている。カカシさんが全然嫌だと思って無いことも。
差し込んだ舌の間から唾液を注ぎ込まれる。指も一緒に入ってきて、唾液を奥へと押し込んだ。
「あっ!アァッ…あ…っ」
硬い指と柔らかい舌で体の奥を解される。時折袋や性器も舐められて快楽でドロドロに溶けた。ヒッと息が詰まったとき、前から白濁を飛び散らせていた。強い快感が全身を貫く。
「はーっ、はーっ、あっ…まだ…まっ…ぇ」
俺が射精したのはカカシさんに見えてた筈なのに、大きく足を開いて腰を押し付けられた。カカシさんの熱が体の奥に這入って来る。
「あーっ、あーっ」
みっしり腸壁を押し広げる熱に我を忘れた。ビクビクと体が跳ね、胸が痛くなってくる。またイキそうになって大きく喘いだ。涙がボロボロ溢れ出す。
カカシさんの腰がピタッと重なり、熱が最奥まで届いた。これで動かれたら死ぬと思ったが、カカシさんは動きを止めて俺の頬を撫でた。
「ゴメン、イルカ先生。ガマン出来なかった」
濡れた目元を拭われる。
「も…っと、ゆっくり…」
「ウン」
しゃくり上げながら言うと、カカシさんがちゅっと音を立てて涙を吸った。髪を撫で、俺が落ち着くのを待ってくれる。
腹の奥でカカシさんがドクドクと息づいていた。これ以上無いほど押し広げられ、ぴたりとくっついている。
一つになった気がするこの瞬間が好きだ。
「…カカシ、さ…」
「うん?」
なんとなく名前を呼んでしまった。耳を傾けていたカカシさんは俺が何も言わないでいると、ちゅっと頬を啄んだ。髪を掬い上げ、露わになった耳を口に含む。ぴちゃっと舐めて、耳朶に軽く歯を当てる。痛くはなかったけど首筋がジンと痺れた。
ちゅうっと甲高い音を立てて耳朶から離れ、首筋をきつく吸い上げた。
「あ…っ」
指先が乳首を捏ねる。
「あっ、あっ」
カカシさんがゆっくり動き出した。くっついていたところが離れて、クチャと粘着質な音を立てた。
「ぅんっ…あぁっ…」
押しては引いて、押しては引いてを繰り返された。腸壁がカカシさんの熱で捏ねられる。
下半身に集中していたら、チキと胸に痛みが走った。乳首の上から爪を立てられている。それを小刻みに揺らされて仰け反った。痛みではなく快楽が閃く。
「アァーっ、あーっ…」
嬌声を上げた俺にカカシさんの動きが強くなった。ずんずん抉る様に腰を突き上げられる。性器の先が前立腺に当たって気持ち良かった。涙を零して悦んだ。
「カカシ、さんっ…あぁっ…」
リズミカルに律動されて、カカシさんにしがみ付いた。はっはっと熱い息が首筋に当たった。
「イルカセンセ…」
滅多に聞くことのない苦しげな声で名前を呼ばれて体中の血が沸騰する。
「すきっ、カカシさ…、すきぃ」
「オレも」
唇が重なり、舌を絡め合った。呼吸が苦しくなったがキスは止められなかった。カカシさんが激しく動き出して、ぷはっと唇が離れた。
「あっ!あっ、あっ、あっ…」
いつの間にか二回も吐き出したのに性器が勃ち上がっていた。カカシさんが突き上げる度にふるふる揺れて、互いの腹に当たった。また先走りを零している。
(触って欲しい)
「ひぁっ…あっ、あっ…」
自分でも声音が変わるのが分かった。気付いたカカシさんが俺の性器を手で包んだ。擦られたらすぐにイってしまいそうだったから、握るだけだった。それでもカカシさんの手の中にあるだけで気持ち良い。
「あ…んっ…アッ…はぁっ…あぁっ…」
あとは最果てに向かって駆け上がるだけだった。カカシさんも集中して突き上げてくる。俺の中で快楽の波が大きく膨らんでいった。
最後に短くだが乱暴に突き散らされて瞼の裏に星が散った。小さな呻り声を上げてカカシさんが射精する。腹の奥が濡れるのと同時に前を扱かれて俺もイった。前だけじゃなく、体の奥も痙攣していた。
「…っぅ…食い千切られそう…」
歯を食いしばりながらカカシさんが言った。いっそう強く腰を押し付けて、俺を抱き締めた。
大きな波が去った後も余韻が残り、ひくっひくっと体が震えた。
抱いたまま体を起こされて、目尻に堪っていた涙がぽろりと落ちた。繋がったままカカシさんの膝上に座わる。
「はぁー気持ちヨカッタァ…。ネ?」
カカシさんの肩に顎を載せたまま頷いた。すごく満足だ。体がふわふわして、どこにも力が入らない。
濡れた顔をカカシさんの肩に擦りつける。カカシさんの肌もしっとり汗に濡れていた。
パチッと目が醒めて、余りに外が明るくて飛び起きそうになったが、がっちりカカシさんの胸に抱き込まれて動けなかった。時計に目を走らせると、針は起きる時間の一時間前を指していた。
(ああ、そうか…。夜明けが早くなっていたのか…)
ほーっと体から力を抜く。カカシさんはぐっすり眠っていて、目を覚まさなかった。
ゴロゴロと喉の鳴りそうな甘えた気持ちが込み上げる。すりっと胸に頬を擦りつけてじっとした。
昨日は良い誕生日だった。心が幸せでいっぱいになっていた。体もすっきりしている。
(…ゴム付けなかったな。それどころじゃなかったけど)
そこまで考えて、体が清められ、パジャマを着ていたのに気付いた。
(カカシさんがしてくれたんだ…)
思った程体は疲れていなかった。関節もさほど痛くない。きっと加減してくれた。最中にカカシさんがガマンと言ったのを覚えていた。ほこほこと胸が温かくなる。
「カカシさん、すきー」
小さく囁いたつもりが、ぎゅううと抱き締められた。いつの間にか起きていたカカシさんに驚いた。
「オレもスキだーよ」
カカシさんが寝起きの掠れた声で言った。ふわわーとなって、カカシさんの背中に腕を回して、押し付けた顔をぐりぐりした。
「あははっ、イルカ先生くすぐったーいよ」
「カカシさん、昨日はありがとうございました。素敵な誕生日になりました」
「そう言って貰えてヨカッタ」
カカシさんは片手を突いて体を起こし、腕を伸ばして封筒を手にした。
「ハイ」
「なんですか?」
「開けてみて」
何も書かれていない封筒は封をされておらず、すぐに開いた。中から温泉旅行のチケットが二枚出て来た。
「カカシさん…!」
「今年最後の誕生日プレゼント。イルカ先生の都合の良いときに行こーネ」
「ありがとうございます!!」
嬉しくてカカシさんに懐いた。温泉は大好きだ。カカシさんと一緒に行けると思うとますます嬉しい。
「夏休みになったら行きましょうね」
そしたら俺もカカシさんの休みに合わせやすい。
「ウン」
カカシさんがふわりと笑って俺を引き寄せた。額にクスクス笑う胸の振動が伝わってくる。
カカシさんは今年最後のプレゼントだと言ったけど、楽しみは終りじゃなかった。温泉に行ける夏が今から待ち遠しいし、夏の後にはカカシさんの誕生日もやってくる。カカシさんと居れば、俺は年中楽しかった。
←2 end