言わせたい 25
隊に戻ってからのオレは、以前のオレとは違っていた。仕事だけじゃなく、なにをするにも張り合いが出て、毎日が充実した。
「はぁ〜、早く次の休みにならないかな〜」
これが最近のオレの口癖で、イルカを想って溜息が出た。
「なんだ、上手くいってるみたいだな」
隊長がにやにや笑ってオレを見た。
「まぁね」
ホントは何一つ進展していないけど、それで構わなかった。
(オレはイルカがスキだ!)
この気持ち一つで世界が輝いて見えた。
だけど人を好きになる気持ちは、同時に不安も生んだ。
(イルカを別の誰かにとられたらどうしよう…)
今は離れている時間の方が多い。
「ねぇ、スキな相手とずっと一緒にいるにはどうしたらいいの?」
「ぶはっ」
オレの突然の質問に、隊長は飲みかけていたコーヒーを吹き出した。
「なんだ…お前、そんなに惚れ込んでいたのか? でもカカシ、よく考えろ。お前はまだ若い。これからもっといろんな相手に出会うんだぞ」
「そんな誰かのことじゃなくて、イルカとの事が聞きたいの!」
「ふぅーん。イルカちゃんって言うんだ…」
ハッとした。オレとしたことが、イルカの名前を漏らしてしまった。
「イルカに手を出したら殺すよ」
本気の殺気が漏れて、隊長がポリポリと頬を掻いた。
「出さねぇって」
「それから、ちゃん付けもやめて」
オレだって呼んでないのに。あんまり軽々しく呼ばれると、イルカの名が汚れる気がした。それになんか悔しい。
「はいはい。まあ、そうだなぁ…。惚れた相手とずっと一緒にいるには、結婚するのが一番だ」
「どうやったらいいの!?」
「婚姻届けを出せば良いんだが…。カカシにはまだ無理だ」
「どうして!」
「男は十八歳にならないと結婚出来ない」
目の前が暗くなった。まだあと二年もある。イルカに至っては六年も。余りの歳月に涙が出そうになった。
「その間に、イルカが別の人をスキになったらどうするの?」
「その時は縁がなかったと思って諦めろ」
ポン、と頭の上に手を置いてから、隊長は去った。
(……そんなこと出来ないよ)
イルカ以上にオレを受け止めてくれる人はいない。
イルカ以上にスキになれる人はいない。
イルカはオレのすべてだ。
オレは出来る限りの努力をした。
任務に行く先々でイルカへのお土産を買った。身につけて欲しかったから髪紐が主だったけど、時々綺麗な装飾品を見つけて買い求めた。氷の国へ行った時は、クリスタルで出来た雪の結晶を見つけて即買いした。
(キレイ…、イルカは喜ぶかな?)
任務中、何度も取りだしてイルカに思いを馳せた。
そして帰還日が近づくと、お菓子などの生ものを買った。イルカは甘い物が好きだ。
オレはそれらを持ってイルカに逢いに行った。イルカはお菓子を一番に喜んだ。それから髪紐。最後に装飾品。装飾品はあまり興味を示してくれなかった。
「ねぇ、イルカ。一緒にご飯食べに行こ?」
里に戻ると必ずイルカをご飯に連れ出した。イルカにおいしい物を食べて欲しいのが理由だったけど、それ以上にイルカの時間を独り占めしたかった。
(イルカがスキ)
傍に居ると、この気持ちは強くなった。時間が経てば経つほど強くなる。
始めてキスした時からイルカには手を出していなかった。だってイルカはまだ子供だし、大人になるまでの我慢だ。
思い返せば、あれがオレのファーストキスだと気付いて有頂天になった。
(…イルカもそうかな?)
それを考えると、すごく不安になった。オレがいない間に、だれかイルカに手を出したりしないだろうか? イルカは可愛いから変な輩に目を付けられるかもしれない。それに、イルカがオレ以外のヤツをスキになったら…。
「イ、イ、イ、イルカ! イルカは誰かスキな子いるの?」
「いないよ」
「そう」
嬉しいのと哀しいのが同時に来た。嬉しいのは、イルカにスキな子がいないことで、哀しいのはスキな子の中にオレが入っていないことだ。
(イルカ、オレをスキになって…)
願うけど、難しいかもしれない。イルカもオレも男だから。
でもオレは、スキなだけで満足出来る人間じゃなかった。こっそり想い続けるなんて出来ない。スキになったらスキって言って欲しいし、イルカにスキって言われたい。それにやっぱりイルカと結婚したい。
(それにエッチなことだって…)
「ウガーッ!」
頭を抱えて叫んだ。まだ十二歳のイルカに欲情するオレは変態だった。でもオレは十六歳で、性に目覚めすぎるほど目覚めていた。男だったら誰でもそうだ。むしろオレは遅いぐらいだ。
「カカシ、大丈夫か? 疲れてんじゃないのか?」
突然叫びだしたオレに、イルカが吃驚していた。
「…ウン、疲れてる」
そう言うことにしておくと、イルカが気を使って誘ってくれた。
「だったら、今晩うちに来る?」
「えっ、いいの?」
「うん」
「行く!」
久しぶりに訪れたイルカの家で布団を引いて貰った。
「カカシ、ベッドを使う?」
「ウウン、オレ布団がいい」
イルカの使ってるベッドで眠ったりしたら大変だ。体の一部が大興奮するのが目に見えていた。
「おやすみ」
「オヤスミ」
明かりを消した部屋で、そっと耳を澄ます。もそっとイルカが寝返りを打つ気配がして、ベッドの縁から顔を覗かせた。その顔が可愛くて、ドキドキしてしまう。
「ど、どうしたの? イルカ」
「カカシ、なんか話してよ」
「なにかって、なに?」
「なんでもいいから」
「えっと、じゃあねぇ…」
任務の事には触れずに、他里の話をした。イルカがまだ行ったこと無い所や見たことない物の話を。イルカが熱心に聞いてくれるから、オレは夢中で話した。
でもやがてイルカの瞼がうつらうつらと重たくなって、やがてぱたりと閉じた。
すーっと寝息を立てるイルカの寝顔を見つめた。可愛くって、可愛くってたまらなかった。
起き上がって、イルカの肩まで布団を被せた。そっと頭も撫でてみた。
イルカは起きない。
「……(ごくっ)」
静かに顔を近づけていった。イルカの呼気が唇に触れる。
(イルカ…)
「ん…カカシ……」
名前を呼ばれて、ドッキーンと心臓が跳ねた。思わず息を止めてイルカから離れると、トイレに駆け込んだ。俯けば、体の一部が自己主張していた。
(男って情けない……)
でもスキな人を前に、こうなるのは当たり前だ。
パンツを下ろして、痛いほど勃ち上がったモノの処理をした。
「はっ…イルカ……」
(イルカの家で、こんなコトをしているなんて知られたら、絶対に嫌われる…)
そう思っても、最後まで止められなかった。
手を洗って布団に戻ると、イルカが寝返りを打って布団からはみ出ていた。とてもよく眠っているようだ。
「……」
反省はどこへやら、オレはイルカの布団に潜り込んで、イルカの体を抱きしめた。
こんな風に一つの布団で寝るなんていつ振りだろう。
イルカの匂いを思いっきり吸い込む。処理した後だったから、体に一部は大人しかった。何時まで持つか分からないケド。
(イルカ、だぁーいスキ)
イルカからはお日さまの匂いがした。子供の頃、一緒に遊んだ日々を思い出す。
イルカはオレの楽しい思い出の全てが詰まっていた。
翌朝、スパーンとイルカに頭を叩かれて目が覚めた。
「なんで俺のベッドの中にいるんだよ!」
「…ン、寝ぼけた」
ボリボリ頭を掻きながら誤魔化した。真っ赤な顔で怒るイルカが可愛かった。