○月×日 イルカが可愛い。
◎警護を再度要請すること。
朝、オレの病室から出勤したイルカは、昼に弁当を持参して、夕方になるとまた病室へ戻って来る。その時のイルカは、どちらかの家で風呂を済ませてくるのか石けんの香りをさせて、とても良い匂いだ。
そして夜、持参した弁当で夕飯を済ませると、イルカはカバンをベッドの下に隠す。それから印を結んで猫に変化すると、オレにじゃれついたり、膝の上で一緒にテレビを見たりした。
今日は見たいテレビが無いのか、オレの肩まで上がると頬に顔を擦りつけたり、てちてち首筋を舐めたりする。
「ははっ、くすぐったいっ」
頭を手の平で押しのけると、「にゃー」と可愛い声を上げた。頭から顎の下へと手を滑らせて撫でてやると、気持ち良さげに目を細める。ゴロゴロ、ゴロゴロ喉を鳴らしていたイルカが、急にぴくっとヒゲを跳ねさせて、布団の中に潜り込んだ。そのままじっと動かない。
「ん?どした?」
布団を捲ろうとして、外に人の気配を感じて止めた。猫の方が感覚が鋭いのか、イルカはオレより人の気配に敏感だ。
「はたけさーん、そろそろ消灯になります」
「わかりました」
ドアを開けて入ってきた看護師の手が壁のスイッチに触れる。
「どうぞ、消してください」
「………」
看護師の目が布団に注がれるのを見て、オレも下を見た。
布団からはみ出たイルカの長く黒い尻尾が悠々と揺れている。
「………」
…バカだ。
得意げに揺れる尻尾は自分が隠れていると確信しているのだろう。体隠して尻尾隠さず。この調子でイルカが任務に出たらと思うと心配になった。
構わず布団を引き上げ横になると、心得てる看護師は何も言わず明かりを消した。
パチッと部屋が暗くなり、イルカと二人きりになる。看護師の気配が去ると、イルカは向きを変えて布団から顔を出した。
「んなぁ」
その顔が達成感で輝いている。はっきり言ってイルカが夜、オレの病室に潜んでいるのは病院内の誰もが知っていた。天井裏にはテンゾウだっているんだ。気付かないワケがない。
それなのにイルカは、誰にも気付かれてないと思ってひっそり布団の中に隠れる。病院側が何も言わないのは、イルカがオレの護衛になるからだ。
だけど、オレも何も言わない。毎夜必死になってオレと一緒にいようとするイルカが見たいから。
イルカはバカだ。バカだけど可愛い。
体を撫でてやると、イルカは枕元まで来て体を丸め、オレの顔に頭をくっつけた。
「もう寝るの?」
「にゃー」
「ん。おやすみ」
息を吐く度イルカの毛が揺れる。イルカの小さな呼気も頬に触れて、――やがて穏やかな眠りへと落ちていった。