漆黒に染まる 12





 家に帰り着くと、ノートを広げて間取り図を書いた。今日見たモデルルームを参考に、理想の家を描いていく。
 今日の家は確かに木造だったけど、俺の理想とは違った。俺は畳の似合う家に住みたかった。
 ゴリゴリと間取りを書いて部屋の名前を書いていく。
「イルカ、なにしてーるの?」
 洗濯物を取り込んでくれたカカシさんが俺の隣に座って、ノートを覗き込んだ。
「ちょっと理想の家を描いてみようかと思って。カカシさん、今日の家どうでした? なんか俺の理想と違ってたんですけど……」
「そうだーね。オレも違ったかも」
「そうですか」
「何度も言うけど、家はイルカのスキにしていいからね。イルカの居るところが、オレの家だから」
 さらっと凄い事を言うカカシさんに耳が熱くなる。照れて、「うん、はい」と、おかしな返事をすると、描いたばかりの間取り図をカカシさんに見せた。
「あの、ここが居間で和室なんです。いつもいる部屋は畳がいいなぁと思って。で、ここに縁側を作って……」
「あ、縁側良いね。オレも縁側スキ」
「そうですか! それでこっちが寝室で、……カカシさん、書斎いりますか?」
「ウン、あったら嬉しい」
 じゃあ、と寝室の隣に書斎を書き出す。
「イルカ、この部屋なぁに?」
 寝室の隣の四角い空間をカカシさんが指差した。
「ここは隠し部屋なんです。入り口は寝室の壁で、大事な書物と、武器はここに隠します」
「へぇ…、忍者屋敷なんだ。面白いね」
「はいっ」
 今どき忍者屋敷なんか建てたいって言ったら馬鹿にされるかと思ったけど、カカシさんは楽しそうに俺の話を聞いてくれた。
「それで、壁と壁との間に隠し通路を作って、表からは分からないようにします」
「…それだと、一般の業者には頼めないね。設計図描ける人いるかな」
「あ。」
 失念していた。忍者屋敷は特殊な技術が用いられる。一般では普及していない施工方法に、建てるのは難しいかもと悄気ていると、カカシさんが「任せて」と、事も無げに言った。
「オレの知り合いに木造建築に詳しいヤツがいるから、なんとかなるよ。忍びだし。きっと忍者屋敷にも詳しいよ。今度聞いとく」
「本当ですか!」
「ウン。それよりイルカ。お風呂場なんだけど、浴槽は深くして」
「そうですよね。俺もそう思ってました。場所はこの辺りでいいですか?」
「ウン。いっそのこと温泉引いちゃう? 木の葉の里は、どこを掘っても温泉出てくるし。源泉引いておいて、退忍後は銭湯始めるのもいいんじゃない? イルカ、温泉スキでしょ」
「銭湯!」
 どどーんと壁に描かれた藤山を連想してわくわくした。
「あ、でもイルカが女の人の裸見て鼻血出ちゃうかも」
「出しません!」
「裸は見るんだ」
「見ません!」
 からかわれて必死に言い募ると、カカシさんがお腹を抱えて笑い転げた。
「もうっ」
 怒ったフリでカカシさんにのし掛かると、その腕の中に包まれた。
 ――二人でだったら、いつまでもこんな風に過ごしていける。
 そんな幸せな未来を想像して胸を弾ませた。



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