睡
眠れない。眠れない。眠れない。
寝返りを打ちたいのを我慢時ながら、まんじりともせずコチコチと秒針が鳴るのを聞いていた。
イルカが布団に入った時、夜中の3時を過ぎていた。
次の学年会議で使う資料を作成しながら、手元に資料が足りない事に気付き、仕方なく片付けたのが2時。それからさっとシャワーを浴び、明日の授業の準備をして寝室に行ったのが3時前。
寝室に入れば先に寝たカカシが手足を伸ばして眠っており、どこに寝ようかと僅かの間逡巡していると、イルカの気配に気付いたカカシが体を片側に寄せ場所を空けてくれた。
「すいません」
起こしてしまった事に謝罪すれば、カカシは目を閉じたまま口角を上げた。滑り込んだ布団の中はカカシに温められて心地が良い。伸ばされたまま残された腕に頭を乗せて横になれば、包み込むようにもう一方の手が背中にまわる。ごそごそと互いに良い位置を探して・・・・ほうっと息を吐くと眦を閉じた。
カカシの腕の中でウトウトしながら、明日の予定を組み立てる。受付に行くまでに資料を探さなくてはならない。資料はアカデミーの図書館にある。どの時間に図書館へ行こう。昼は生徒の相談に乗る約束をしている。
(・・・相談って何だろう。ちょっと思いつめた顔してた。)
それから生徒のこれまでを思い返して―――ふと時計を見ると3時半になっている。
(やばい、早く寝ないと明日にひびく)
頭を空にして眠りに落ちるのを待つ。が、頭の中が張り詰めて妙に冴えている。一瞬沈んだ夢の中で、資料を探している自分やその子が入学してきた頃のことを見る。
(今のは夢か?・・・それとも考え事か・・・?)
夢と覚醒の間をフラフラしながら、再び時計に視線を向ければ更に30分経過していた。
(寝ないと。寝ないと。寝ないと)
ぎゅっと目を閉じるが、―――眠れない。
(もういっその事このまま起きていた方がいいのかも。今から寝ると寝過ごしそうだ。でも最近忙しいから少しでも寝ないと身が持たない)
じりじりと眠気が襲ってくるのを待つ。途中、寝返りを打ちたくなったが我慢した。
(さっきカカシさん、起こしたからな)
額に上下するカカシの胸を感じた。
(大人しくしないと)
じっと身を竦めながら、秒針の音を聞いていた。音に合わせて数を数えてみるが、1000まで数えて面倒になった。ずっと同じ体勢で居たため体の下半分が痺れ始めた。小さく身じろぎして体をずらすが・・・。
(一回だけ・・・)
起きないで、と思いつつ寝返りを打った。カカシに背を向けて落ち着いたと思った途端、
「眠れないの?」
低くざらついた声と共にカカシが背中に覆い被さった。
「ごめんなさい」
謝罪するとふっとカカシの息が髪に掛かった。
「いーよ・・・眠れないんだったら・・・・スル?」
先ほどより幾分はっきりした声が降りかかる。笑っているのだろう。最近忙しさにかまけてカカシとはごぶさただった。
「し、しません」
そのことは悪いとは思うが今から始められては夜が明けてしまう。
「ごめんなさい。もう寝ます」
「でも、眠れないんデショ」
前に回ったカカシの手が下肢に下りるとパジャマとパンツの合わせから滑り込み、直に性器を握ると外に引っ張り出した。
「カ、カカシさん!」
「しぃ〜・・・黙って・・・・大丈夫だから」
囁く声が首筋に当たる。
(大丈夫なもんか)
やわやわと握りこまれて体が強張った。
「イルカセンセ、力抜いて。シないから」
しないと言いつつ手の止まらないカカシの意図が読めず戸惑う。ゆるゆると扱いてくる手を外そうと手首を掴むと、もう一度カカシが「大丈夫だから」と囁いた。
「睡眠導入―――だから・・・まかせて」
(睡眠導入って・・・)
「・・・これがですか?」
「そ。抜くと眠くなる・・・って、しない?」
「しませんよ。・・・カカシさんはするんですか?」
聞いたのは聞かれたのが恥ずかしかったからだ。自慰をするか、だなんて聞かれて答えられるもんじゃない。意趣返しのつもりだったが、
「するよ。一人寝のときイルカ先生を思って一回抜くと朝までぐっすり」
あっさり答えを返された。更に、「一回ですまなくなる時もあるけどね」と続けられて赤面する。
「何言ってんですか・・・、・・・っ」
「もう黙って・・・」
そして、まかせて。
静かに告げられる声に抗えない。それにカカシがすると言った以上されてしまうのだ。諦めと共に身を任せた。大人しくなったイルカのモノをカカシが扱き続ける。その手つきはいつもと違い触れ方が優しい。性急に追い上げる事も焦らす事もせず、だからさっき会話が出来た事に今更ながら気付く。
(こんな風にも出来るんだ)
カカシの手が上下するたび緩い快楽が生まれる。時折、芯を持ち始めたのを確かめるようにカカシの指が押してくる。それもイルカがひくっと喉を鳴らせば外された。強烈な快楽へと誘う気はないらしい。
(きもち・・・いい)
連続して湧き上がる快楽を不思議な気持ちで受け止めた。カカシはいきなりソコに触れてくることはない。カカシのセックスは激しく執拗。普段、カカシがココに触れて来る時はイルカがどうしようもなくなった時が多い。そこ以外の体中に愛撫を施され、欲しくて欲しくて堪らなくなったとき、硬く勃ち上がったソコにカカシは指を這わす―――。
思い出して、ぎゅんとイルカの硬度が増すとカカシは手を止めた。握る手を少し緩めると再び擦りだす。
―――カカシが触れて来る時、イルカの頭は熱に溶けきっている。だからイルカはカカシの手がこんな風に己に触れるのを知らない。そしてカカシの手の中で姿を変えていく己を知らなかった。
はあっと息を吐けばカカシが髪に頬を摺り寄せた。今やしっかり勃ち上がったイルカをカカシは優しく扱く。それは焦らされてるわけでもなく、ただただ気持ちが良い。触れられたソコから熱が生まれ、早くなった鼓動がその熱を体中に運ぶ。火照った体が芯を失い、ぼうっとなった頭は思考を失い、たゆたい始めた。
(ねむれそう・・・・)
瞼を伏せ、うとうとし始めたとき、
「イキたい?」
カカシが静かに聞いて来るのに瞼を上げた。
(必要ない。このまま眠れそう)
そう思いつつも頷いたのは、ただの甘えだった。
「ん。ちょっとまって」
掴んでいた手を離し、カカシの体がイルカから離れた。出来た隙間に冷たい空気が入り込んでイルカは体を振るわせた。何を?と思っていると、しゅっ、しゅっ、とティッシュを抜く音が聞こえて、かぁっと顔が火照った。霞んでいた頭が覚醒する。
(恥ずかしい。俺、とんでもないことを・・・・)
頼んでしまった、と焦っているとカカシが体勢を元に戻した。
「あ・・の・・・」
「イルカセンセ、ちょっと腰あげて」
え?と戸惑っていると脇腹をカカシの手がくすぐった。
「ちょっ・・・なにっ」
くすぐったさに腰を浮かせるとそこからカカシの手が滑り込み、腹を抱えこむようにして引き寄せた。
「あの!・・・・・っつ!」
やっぱりいいです。
言いかけたとき、カカシのティッシュを掴んだ手が前に回り、ザラついた薄い紙がイルカの先端に触れた。腰が振るえ息を詰めていると、
「そんなのにカンジないで」
拗ねたようなカカシの声がして、強く握られた。
「カ、カカシ先生っ」
「いつでもイってイイからね」
耳元で囁いた次の瞬間、カカシの手が根元から先端までぎゅっと絞り上げた。
「はぅっ」
襲った衝撃に耐えるように体を丸めるとカカシが足を絡め体を開いてくる。
「やっ!」
「だいじょーぶだから」
何が大丈夫なのか解らない。繰り返し上下するカカシの手に翻弄される。根元から扱きながらもう片方の手でパジャマの上から袋を揉んでくる。服を着たまま竿だけを出して、思えばとんでもなくふしだらな格好だが、素手と布越しの両方の感覚に体が溶け、火を放つ。擦り上げる手がカリの部分に来た時、人差し指と親指で作った輪に捻るようにして絞られると、とろっと先走りが溢れるのが分かった。
「あっ、あ、でるっ・・・も・・やめ・・」
射精の予感に腹筋が震える。ピンと張り詰めた大腿が痛い。
「いいよ。イって」
くるりと先端をティッシュで包まれて快楽と羞恥に身を焦がす。
「やめ・・て、・・・っ、あぁ・・・だめっ」
「いいから」
焦れたカカシが先端を親指で小刻みに擦る。
「イっちゃえ」
「んぁっ、んっ、ぅんん!!」
耐えようとしたところをぬるつく指で擦り上げられて一たまりもなく弾けた。その後もびゅくびゅくと吐き出し続けるのをカカシが先端に宛がったティッシュッに吸わせた。はぁ、はぁと息を吐いていると、またティッシュを抜く音が聞こえて―――恥ずかしさに涙が零れた。
カカシは乾いた紙で濡れた先端を綺麗に拭うとパジャマの中に大事そうに仕舞いこみ、ぽんぽんとあやす様に叩いて手を離した。
こうして何もかもをカカシに世話されてしまうと、自分が何も出来ない雛にでも還ったような気がして情けなさが溢れる。ぐすんと鼻を啜ると、ん?とカカシが顔を覗き込んできた。
「泣くほどヨかった?」
(ちがうよ、バカ)
八つ当たり気味に心の中で悪態づいていると、
「かーわいい」
満足そうにカカシが言って眦に口付けた。それで心が軽くなった。カカシがそう思うならそれでいい。熱く火照ったままの体を後ろから抱きこまれる。
「寝よーねぇ」
歌うような声を耳に、眦を閉じた。
程よく疲弊した体に睡魔はすぐに訪れた。
眠りに落ちたイルカにカカシの口元が笑みの形を取った。もともとの眠気がイルカの身を素直にカカシの預けさせた事を知っている。しらふのイルカなら理性がジャマをして、ゆるりと己が姿を変えていくところを晒したりしない。だからいつもは性急に追い上げていたのだが・・・。
(すっごーく、イイ)
次の楽しみが出来たとカカシがほくそえんだのをイルカは知らない。