はっはっと息を切らして家へ帰る。
 本来なら任務中だって息が切れるなんてことは無いんだけれど、時間が時間だったから急いで帰った。今帰り着けば、イルカ先生と一緒にご飯が食べられる。四週間の任務を一週間早めて帰って来たから、イルカ先生がオレの晩飯を用意してくれてる筈がなかった。吃驚させるんだ。それでもって、早く任務が終わったことを誉めて貰おうと頭の隅で考えていたら、イルカ先生のアパートが見えた。
(いるいる。)
 ちゃんと部屋の中にイルカ先生の気配がある。やった!と気持ちが弾んで、ドアを開けようと手を伸ばしたら、先にドアの方が開いた。イルカ先生がオレに気付いて開けてくれたのかと思ったが、ちょっと違う。額当てをきっちり結んでベストを着た先生は今から出掛けるところだった。
「わっ!カカシさん。今お帰りですか」
「えっ!イルカ先生、出掛けるの!?」
 イルカ先生の吃驚した声とオレの情けない声が重なった。
「やだやだ!三週間ぶりに会えたのに、もうちょっと居てよ!」
 逃がすか!とばかりにイルカ先生の体を抱え込むと、ぐいーっと中へ押し戻した。
「わわっ…!」
 足を縺れさせるイルカ先生を支えて、後ろ手にドアを閉める。ぎゅうぅぅとベストの上からイルカ先生を抱きしめると、とろーんと体の中の緊張が解れていった。熱いお風呂に浸かったみたいに、「はあぁー」と深い溜め息が漏れる。
 最近風呂に入ってなかったから凄く臭いとか服も汚れてるとか、よろしくないことがたくさん頭の中を飛来するけど、どうにも腕が緩められない。ついついイルカ先生の頬や首筋に顔を擦りつけてしまい、「痛いっ!」と言われてしまった。
「カカシさん、ヒゲが伸びてますっ」
 ぐいっと顔を押しのけられてしまうが、戻そうと頑張る。
「やだ〜」
「風呂に入って来て下さい!俺、まだ居ますから」
「ホント?!」
「今日は夜勤なんですが、早めに家を出ようと思っただけなんで。その間に晩飯作りますよ」
「イルカ先生と一緒?」
「俺はもう食べました」
「ちぇー」
 口を尖らせると、はいはいと背中を押された。風呂場へ誘導されるが、「あ」とイルカ先生が手を緩めた。
「カカシさん、お帰りなさい」
「ん。ただーいま」
 きゅっと唇を尖らせてイルカ先生に近づけると、一瞬目を彷徨わしたイルカ先生が伸び上がって唇をくっつけてくれた。
「よく温まってくださいね」
 そそくさと風呂に押し込めようとするのに笑いを堪えた。いつまで経っても慣れないイルカ先生が可愛くて仕方ない。
 風呂を上がってイルカ先生を探すと、ベストを脱いでエプロンを着けたイルカ先生が台所に立っていた。ぴょんと跳ねた纏めた髪と背中でクロスしたエプロンの白い紐と右上がりな蝶蝶結び。もうもうと上がる白い湯気に包まれて、お玉を持つ手が鍋を掻き混ぜる。見慣れた光景にジンと胸を熱くしていると、イルカ先生が振り返って「もうすぐですよ」と笑った。
「今日はなんのご飯だったの?」
 背中から腰に手を回して、イルカ先生の肩越しに鍋の中を覗いた。ちゃんと剃った頬をイルカ先生の首筋にくっつける。
「……美味しそう」
 そう言ったのは、鍋の中でくつくつ泡を弾けさせるシチューに対してじゃない。オレに密着されて頬を赤らめたイルカ先生に、だ。夜勤さえ無ければこのまま美味しく頂くのに。
「そ、そうですか?」
 オレの思惑に気付かないイルカ先生は最後に鍋をひと掻きして火を止めた。皿を取るように言われて用意すると、具をたっぷりに注いでくれる。ソレを卓袱台に運ぶと、こんもり盛られたご飯が届いて「いただきます」と両手を揃えた。
 イルカ先生が一人の夜でもご飯をたくさん炊いているのを知っている。いつオレが帰っても良いように多めに炊いて、余ったらイルカ先生の明日のお弁当になるのだ。イルカ先生は何も言わないけど、いつもそうしてくれている。
 オレにとって、いつ帰っても良いところが用意されてるのはありがたいことだ。どんな任務を遂行しても許される気がした。実際には許されないのだろうけど、許す許さないなんて忍者が考えてたら仕事にならないから考えないけど、そうしてくれるイルカ先生がありがたい。時々神様の様にも思えて畏怖した。
 イルカ先生が居なくなったらどうなるんだろ、オレ。
 ソレは考えたらダメなことなので、怖いことには蓋をした。ずずっと最後の一滴まで啜り上げてごちそうさまをする。唇の端を舐めると、イルカ先生がそこじゃないと笑って指で拭った。唇をイルカ先生の乾いた指で擦られて欲情する。食欲が満たされれば、性欲ってワケだ。男の体は分かり安い。それでなくても三週間。三週間もイルカ先生に触ってなかったのだから、欲情するなって方が無理な話だ。
「カ、カカシさんっ!俺、無理ですよっ、仕事が……」
「後、何分?」
「え?」
「何分経ったら仕事に行くの?」
「……三十分」
「じゅーぶん」
「えっ!?」
 押し倒して唇を重ねると、イルカ先生が逃げを打った。
「駄目ですってば!仕事に行けなくなる……っ」
「最後までシないから……。触るだーけ」
 四つん這いになって逃げるイルカ先生の背中にのし掛かって体重を掛けた。崩れまいと頑張るイルカ先生の前に手を回してズボンのファスナーを寛げる。いきなりそんなところから触ったもんだから、イルカ先生が慌てふためいた。
「や、やだ…っ」
「しぃー」
 まだ萎えたソコを外に引っ張り出すと手の中に納めた。
「あっ」
 ぐにぐにと柔らかな性器を揉み込むと、イルカ先生の中心がグンと張り詰めて伸び上がった。
「あ…、あっ」
 久しぶりだからかイルカ先生が勃起するのは早かった。隆々と勃ち上がったソコを上下に扱く。
真っ赤になった首筋にちゅっと吸い付くとイルカ先生の背中が跳ねた。
「だいじょうぶ、痕付けてなーいよ」
 吸い上げた所に、ねろっと舌を這わせるとイルカ先生が首を横に振った。辛いのかとかわいそうになったが、手は服の下に潜り込んで突起を探した。
「はぁ…っ、あ、…んっ」
 ふに、と小さな粒を指が探し当てる。ふにふに、ぎゅっと押し潰すとイルカ先生から悲鳴の様な声が上がった。手にした性器がビクビクッと跳ねて、感じたことを教えてくれる。
「気持ちイイ…?」
 耳元で囁くと、かあっとイルカ先生の体が火照った。しっとり汗ばんでいく肌を手の平で撫で、ズボンを下げると腿の内側を撫でる。扱いていた手から、くちゅっと濡れた音が立って、イルカ先生の性器の先端に触れた。そこはもう、しっとり濡れて、飴が溶けたみたいにねちょねちょした。先を手の中に包んでくるんと撫でると、イルカ先生が「ふぅん…んんっ」と感じ入った声を上げた。その声はオレの鼓膜を焼いて、腰を直撃する。空いた手を乳首に戻して捻りを加えたりしていると、ふいにイルカ先生が腰を揺らした。
「…!」
 ぐりっと股間をイルカ先生の尻で擦られて、甘い痺れが走る。いつの間にか勃ち上がっていたソコを立て続けに擦られて、欲が滾った。
「…イルカセンセ、挿れてほしの?」
 屹立を知らしめるようにイルカ先生の尻に擦りつけると、イルカ先生は首を横に振った。煽った癖にと焦れると、イルカ先生が性器を掴んでいたオレの手を外して振り返った。もしかして、これで終わりって言うんじゃないかと狼狽えていると、イルカ先生が震える手でオレのズボンに手を掛けた。ファスナーが下ろされ、あまりの光景に逆上せていると、ズボンと下着が膝まで下ろされる。興奮して飛び出したモノにイルカ先生は頬を染めると、おずおずと膝でにじり寄った。互いの性器をくっつけて、こうやってしてとオレを見上げる。ぶぶーっと鼻血を噴きそうな程興奮して、互いのモノを握りしめると擦り上げた。
「イルカセンセ!」
「あっ、あっ、あっ!」
 喘ぐイルカ先生の顔をもっと見たくて体を密着させた。腰を回してグラインドさせると手とは違った刺激を与える。
「アアッ、カカシさぁん」
 はふはふと喘ぐ唇に吸い付いた。上唇に噛みついて軽く歯先で扱くと、ちらちらと覗いた舌に舌を絡める。深く口の中を掻き混ぜると呼吸が苦しそうになったから唇を離した。イルカ先生の手が背中に縋る。
「あ、ぁっ…あっ…」
 溢れたヨダレを舐め上げ、首筋に歯を立てる。そのまま首を曲げると服の上から乳首を探した。硬く尖ったソコに頬を擦りつけ、唇を寄せるとキチっと噛んだ。
「ああ…っ、まっ…、だめっ…っっ!!」
 イルカ先生の解放は突然で、ビクビクッと痙攣するとビチャッと顎の下が濡れた。青臭い匂いが広がり、何度かイルカ先生の体が跳ねた。その快楽に染まり恍惚とした顔を見て、オレも射精した。それを感じて、イルカ先生がまた跳ねる。たまらなく可愛かった。
「イルカ、センセ…」
 火照った顔を啄んで、汗を吸い上げた。もう一度、させてくれないかな?と下心もある。だけどと言うかやはりと言うか、イルカ先生は乱れた呼吸が収まると、オレの胸を軽く押して「着替える…」と呟いた。イルカ先生の忍服にはオレとイルカ先生のが掛かっている。
 うん、と言って体を離すと、初めて気が付いたようにイルカ先生はオレを見て、ぎょっとした。
「ご、ごめんなさい!」
 顎に手を伸ばしてくるのに、ひょいと避ける。
「勿体ないからこのままでいる」
 きょとん、としたイルカ先生がかーっと顔を火照らせた。
「馬鹿言ってないで、さっさと洗ってください!」
「じゃあ、また後でくれる?」
 顎に付いたものを指先で拭って、くんと匂いを嗅いでから口に含むと、イルカ先生はこれ以上ないぐらい茹で上がった。その様が可笑しくて笑いが込み上げる。
 何かを言い出しそうに口を開けていたイルカ先生がばっと立ち上がって、オレに背を向けると服を脱ぎだした。あらら、やり過ぎたかなと気落ちする。イルカ先生を怒らせたいワケじゃなかった。
「イルカ、センセ」
「……ですよ」
「え?」
「良いって言ってるんですっ」
 それがさっきオレが言ったことに対する返事だと気付くのに、少々時間が掛かった。後ろから見たイルカ先生の耳が真っ赤になっている。
「だから、俺が居ない間、浮気しちゃあ駄目ですよ」
「しません!イルカ先生が帰ってくるの待ってます」
 するもんか。この三週間、ヌいてだっていない。そんなのは、さっきイった早さで分かりそうなものなのに―…。
(じゃあ、イルカ先生もなんだ。)
 嬉しい発見に頬が緩んだ。背を向けたままのイルカ先生にくふふと笑いを噛み殺す。イルカ先生は照れ屋さんだから、知らん顔してた方が良いこともあるのだ。
 それじゃあ、行ってきますと玄関に向かうイルカ先生を追いかけた。ドアの内側から出て行くイルカ先生を見送る。
「いってきます」
「いってらっしゃい。……イルカ先生、明日お休みデショ?」
 ドアを閉めかけたイルカ先生は、頬を赤く染め上げて頷いた。正確な意味が伝わって嬉しい。
 もう一度いってらっしゃいを言うと、イルカ先生はもごもご唇を動かしながらドアを閉めた。
 遠離っていく気配をずっとずっと追いかける。きっと今頃は赤くなった頬を擦っているだろう。それから一人になった部屋で何が出来るか考えた。イルカ先生がしてくれたみたいに、オレも待っていることを伝えたい。

 ――いつもアナタのことを想っていると。

 それは傍にいないアナタへ捧げる愛の証。



 アナタに捧ぐ愛の証



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