いつもいっしょ
その日は何故か朝から様子が違った。皿に盛られたお肉の量が少ない!
ガツガツと自分の分を食べ終えると、檻の外にいた父ちゃの元へ駆け寄った。
「父ちゃ! 父ちゃ! お肉が少ないよ! どうして?」
首を傾げて父ちゃを見上げるが、父ちゃはニコニコするばかりで、お肉を持って来てはくれなかった。
切ない。きっと父ちゃは肉の量を量り間違えたのだ。
外へ行ってしまった父ちゃに、とぼとぼ戻ると、カカシが肉を俺の皿に移してくれた。
「イルカ、オレの肉食べていーよ」
「…いい。カカシのお肉はカカシが食べて」
「でもオレ、お腹いっぱいになったから」
そんなこと言うカカシの皿だって、いつもよりお肉が少なかった。
カカシは優しい。いつも俺を優先してくれる。だから、ここは我慢だ。
「いい。カカシが食え」
「じゃあ、半分こしよ」
ぐらりと誘惑に負けて半分こした。
「カカシ、ありがと」
額を寄せて、カカシの顔を舐めた。カカシの目がきゅっと細くなって、俺に頭を向けてくる。んべんべと舐めてついでに体も舐めると、カカシも俺の体を舐めてくれた。
カカシと毛繕いするのは気持ち良い。そのうち楽しくなって、カカシに飛び付いた。藁の上をゴロゴロ転がる。
「カカシ、外に行こ!」
「ウン」
一緒に木に登って遊ぼうと思った。だけど、いつもは開きっぱなしの扉が閉じていた。
「あれ?」
カリカリと扉を引っ掻いてみたが、開かない。
背伸びして扉の上の小窓に顔を寄せた。外を見ると父ちゃがいる。それから檻の周りにたくさんの人がいた。
「どうしたんだろ…?」
「なぁに?どうしたの?」
カカシもすぐ隣に並んで外を見た。顔と顔がぴたりとくっついて、外にいた人がわあっと声を上げた。
「いつもと違うネ」
「うん…」
しばらくすると、父ちゃが草の上に何か置いた。
「あれなにかな!」
きっとオモチャだ。父ちゃは時々変わった物を持って来てくれた。大きな木の枝だったり、ぐらぐら揺れる丸い塊だったり。あれはどんなオモチャだろう。
ワクワクしてしっぽが揺れた。早くあれで遊びたい。
ふるるるっ!
嬉しくなって声が漏れると、父ちゃがこっちを振り返って笑った。
(父ちゃもいっしょに遊んでくれるのかな!)
ふるるるっ!ふるるっ!
ねっろーーーん。
突然カカシが顔を舐めた。ねろん、ねろんと必死で舐めてくる。
「…カカシ、毛繕いはもういいよ」
地面に降りて、カカシから逃げようとした。だけどカカシの前足にがっちり体を掴まれて動けなかった。
「カカシ…、カカシってば!」
「…イルカは俺よりアスマがスキなの?」
カカシに聞かれて赤面した。
「ば、バカだな…」
父ちゃのスキは肉親の好きだ。カカシとは違う。父ちゃと体の舐めっこなんてしない。それにエッチなことも…。
ねろーーん。ねろーーん。
照れ臭くて黙っていると、カカシのねろねろ攻撃は続いた。
(そんなに舐められたらハゲちゃう…)
隙を突いてカカシの鼻を舐め返した。それから唇も。
「父ちゃにはこんなことしないもん」
「イルカ…!」
カカシの鼻がピンク色に染まった。
まったくカカシは世話が焼ける。
すっかり機嫌の良くなったカカシとトラ舎の中で寛いでいると、扉が開いた。
「あ! 開いた。カカシ、行こ!」
「ウン!」
外に出るともう父ちゃはいなかったけど、父ちゃが置いたオモチャはそこにあった。
白く丸い形をして、棒が二本立っていた。
駆け寄って、くんと匂いを嗅いだ。すると美味しい匂いがして、口の中に涎が溜まった。
(お肉だ!)
「カカシ!お肉があるよ!」
パクッと棒に齧り付くと、歓声が上がった。
『イルカ君、二歳のお誕生日おめでとう〜! カカシ君も来園一周年になります』
パチパチと拍手が耳に届いたけど、お肉に夢中であまり感心がなかった。隣を見ると、カカシもお肉にかぶり付いていた。
「カカシ、美味しいね!」
「ウン」
『二人が食べているケーキは飼育員のアスマさんとシカマル君が考えたものです。丸く切ったお肉を重ねて土台を作り、生クリームの代わりに鶏皮で周りを包んだそうです。ローソクは牛脂で作り――』
お腹がいっぱいになると草の上で『腹ごなし』した。
先に寝そべっていたカカシも元へ行って、カカシの前足に顎を載せた。
すぐにウトウトして瞼を閉じた。
「カカシ…、起きたらいっしょに木登りしような。その後砂場で遊んで、夕方になったら縄張りの点検に行こうな」
「ウン」
「それからな…、それから…」
カカシとしたいことがたくさんあった。約束を取り付けておこうと、言い募る俺の鼻筋をカカシが舐めた。
そんな風にされると、ますます眠くなっていく。
「イルカ、ダイスキだーよ」
「うん。俺も…」
ぎゅっと顔を押し付けてきたカカシに額を舐められて、意識が途切れがちになった。ついに眠りに落ちる瞬間、体にカカシの重みを感じて安心した。
お日様に当たりながら、カカシと一緒にするお昼寝は気持ち良かった。
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