遊ぼ!
「うわぁ、良い天気〜」
トラ舎を出ると青空が広がっていた。連日の雨で、ずっと外に出して貰えなかった。白い雲を見上げて、う〜んと伸びをした。
「気持ち良いね、カカシ」
「ウン」
俺の後から外に出たカカシも伸びをした。前足を伸ばしてしっぽをピンと立て、続いて後足を伸ばして背中も伸ばした。髭がピーンと張っている。
傍に寄って鼻先をくっつけた。イイ匂いがしてペロリとカカシの口許を舐めると、さっき食べたお肉の味がした。美味しくてペロペロカカシの口の周りを舐める。カカシの鼻がピンク色に染まった。
「イルカ、オレも舐めてあげる」
「まだだめ」
がしっとカカシの首に腕を回して体重を掛けた。俺の重みでごろんと横たわったカカシの顔を舐めまくる。
「ふふ、くすぐったいヨ」
そう言いながら、気持ち良さそうに目を細めている。ついでだから毛繕いもした。ペロペロ舐めていると、カカシも俺の体を舐め始めた。ねろーん、ねろーんと舌が這う。
気持ち良くなって仰向けに転がり、腹を晒した。そこも綺麗にして貰う。最後に顔を丹念に舐められた。
「綺麗になったーよ」
「ありがとう」
ぺろんと大きく口の周りを舐めたカカシが腰を下ろした。
「カカシ、遊ぼ!」
「ウン。日向ぼっこしよ」
「日向ぼっこ…?」
空を見上げれば、ぽかぽか日差しが降り注ぐ。
「うん!」
カカシの隣に伏せた。背中にお日様が当たって気持ち良かった。カカシも心地良さげに目を閉じている。ゆったりした気持ちになって、カカシに頭をくっつけた。
「カカシ、スキー」
ぐいぐい頭を押し付ける。
「オレもスキだーよ」
「えへへ」
満たされた気分になってカカシの前足に顎を置いた。
ぽかぽか、ぽかぽか、お日様に当たる。
だがしばらくすると飽きてしまった。
(いつまでこうしてるのかな…)
「…カカシ、寝ちゃったの?」
チョイチョイと顔を突いた。
「起きてるヨ」
カカシは薄く瞼を開いたが、いかにも眠そうだった。
俺は立ち上がり、運動場の中を歩き回って縄を拾った。それは両端に瘤みたいな結び目がついていて、引っ張って遊ぶのに丁度良い。
「カカヒ、ホレ」
ブラブラとカカシの鼻先で縄を振った。薄く瞼を開いたカカシは縄を見て、のっそり立ち上がった。わくわくして喉がふるるっ!と鳴った。
カカシが縄の端を咥える。
「ふんっ!」
思いっきり引っ張った。地面に足を突っ張り、後に跳ねる。だけどカカシの力は強くてビクともしない。体を左右に揺らして引っ張ってみた。
「うーん!うーん!」
カカシがぶんっと首を振り、俺の体は横に転がった。
「わあ!」
吃驚したが面白かった。
「カカシ!もう一回!」
縄を噛んでと強請った。
カカシが咥え直した縄をまた引っ張った。今度はじっくり後に下がろうとした。だけどやっぱりカカシは動かない。
(引いてだめなら…)
「とう!」
カカシの上に飛び掛かった。虚を突かれたカカシはのっそり倒れて、俺の体を受け止めた。
「あははっ!」
カカシにじゃれついて遊んだ。
「カカシ、カカシ!」
俺は楽しかったが、気付けばいつの間にか軽くあしらわれていた。
「カカシ!もっと真剣に遊んでよ!」
「イルカ。ちょっと休憩しよう?」
そんな事言ったって、カカシの休憩は長い。一日の大半を寝て過ごす。そんなの俺はつまらなかった。
「もっと遊んで」
重ねた前足に顎を載せたカカシは、また後でとでも言うように、しっぽをパタパタ振った。
「カカシ…」
ぱたぱた。
傍に寄って、嫌だとカカシのしっぽを踏みつけた。すると、するりと足の下から抜け出て左右に揺れた。再び戻って来たしっぽを踏みつけようとして、今度は足が地面に着く前に逃げられた。
ふ…ふるるるっ!
カカシのしっぽが大きく左右に揺れた。
右、左、右、左…。
「右だ!」
大きく跳躍したが、捕まえる前に逃げられた。
左、右、左、右…。
低く構えて、おしりをプリプリ振った。今度は絶対捕まえる。
右、左と見せかけて右、小さく右、小さく右…。
しっぽの先がタシタシ地面を叩いた。
プリプリプリプリ…。
カカシのしっぽの付け根が大きく持ち上がった。
(左だー!)
先回りして飛んだが、しっぽはすかっと前足の間をすり抜け、反対側に逃げた。
「えい!この!」
すか!すか!
右に左にジャンプした。
(ぜいぜい…)
どうして捕まらないんだ?
俺が頑張っている間、カカシはしっぽ以外は身じろぎせずに眠っていた。息を切らし、前に回ってカカシの顔を覗き込む。
「見てるの?」
「…うう…ん…」
眠そうな声が帰ってくる。
どっと疲れて、カカシの体に体当たりしてやった。ムリムリカカシの前足に顎を置いて目を閉じる。
ぺしぺしとしっぽを地面に打ち付けた。
ちょっぴり悔しい。
だけどしばらくすると、お日様とカカシの体温に包まれて眠くなってきた。
(俺もお昼寝しよ)
くわーっと大きな欠伸をした。ぺろりとカカシの耳を舐める。
再びカカシの前足に顎を置いてウトウトする。意識を手放す瞬間、頬にカカシの息が触れた。
ねろーん、ねろーんと舐められて頬が緩んだ。
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