気付いた事





知らなかったんだ。



 三週間の予定で任務に出た。帰ってきたのは予定よりも早く終わって 出立から2週間後。急に帰って吃驚させてやろうと玄関を開けて固まった。

  どこだ・・・ここ?

「イルカ先生!」
 いつもは綺麗に片付いている部屋がまるで賊が荒らした後のようにぐちゃぐちゃだった。床に散らばった沢山の衣類、落ちた野菜、転がった食器。
 何があったんだ?イルカ先生は・・・?
 指の先から心臓に掛けてきゅぅと冷たいものが走った。
 居間の入り口に立ち尽くしていると背後でガチャッっとドアの開く音がして ばっと振り向くとイルカ先生が立っていた。俺を見つけて喜びが顔中に広がったが 固まっている俺の顔を見て、カーっと赤くなると"まずい"といった態でゆっくり目を逸らした。
「イルカ、せんせ?」
 イルカ先生は脚絆を脱ぐと目を逸らしたまま中に入ってオレの横にカバンを 置いた。オレはもう一度居間を見た。脱ぎ散らかした服と調理して落としたままの野菜、 使った跡のある食器・・・・・・・。
「・・・・すいません。すぐに片付けます」
 落ちている衣類を拾い出すのを無言で手伝った。


  向こうでウォンウォンと洗濯機の回っている音がする。着ていた服はついでに 一緒に洗ってもらった。スウェットを着て一通り片付いた部屋で一緒にビールを 飲んだ。
「なんだか一人だと洗濯するのとかめんどくさくなっちゃって・・・・」
ポツリとイルカ先生が呟いた。


知らなかったんだ。オレが居ないとイルカ先生がちゃんと機能しなくなるなんて。


end