帰る場所
キィンと金属を弾く音が耳にこびり付いて離れない。頭の奥で耳鳴りのように響き続ける。それに付随するように、刃が擦れ合う感触が手の中に響く。それから―――。
久しぶりの任務だった。敵地にいる部隊への伝令を頼まれ、向かう途中に戦闘に巻き込まれた。自然、応戦する形になり何人か斬った。
一瞬の出来事だったが、体の中で一気に昔の感覚が蘇るのを感じた。教師になる前、中忍として任務を受けていた頃の感覚に。
任務を無事終え、自宅に戻って夕食の支度をする。米を研ぎながら何時までも鳴り続ける耳鳴りに頭を振った。
ざっ、ざっと米を研ぎながら、どこかその感覚は遠い。
「イルカセンセ!おかーえり」
いつの間に帰ってきたのか気配のなかったカカシさんにぎくりと体が強張りそうになる。
「・・・カカシさんもおかえりなさい。今作り始めたところなんで、先に風呂でも入っててください」
振り向いてそう言えば、カカシさんがおや、と言う顔をした。
それに構わず米を研ぐ。
遠い。実体がない。たぶん、半分ぐらい置いてきた。あの場所に。あそこで俺の半分はまだ戦ってる。だから音が消えない。血がざわつく。
前はどうやって戻ってきた?この現実味のなさはなんなんだろう。
考え込むと、今、本当に自分が米を研いでいるのかも判らなくなる。
突然、カカシさんが背中から腕を回して絡みついてきた。強い力で抱き込まれ、首筋に顔をうずめると強く吸い上げた。
「い・・っ!ちょっと!邪魔しないでください」
「まぁまぁ、それは後でいいから・・・ね?」
体を捩って抵抗すると宥めにかかる。
「ね、じゃない。そんな気分じゃありません」
「そんなことないと思う、よ?」
何故そこで疑問系。
「勝手に決めんな」
米の付いた手でめいっぱい抗ったが、抵抗空しくベッドに押し倒された。
はぁ、はぁ、と荒い息を吐きながら目の前の男を見上げた。さっきから何か言ってるが、自分の息が煩くてうまく聞き取れない。あんなに嫌だと思ったのに、いつもより荒々しい愛撫を施されて簡単に息が上がった。
そういえば、この人はどうやって戻ってくるんだろう。それともこんな風に違和感を・・・、平穏な日常に違和感を感じたりすることなんてないのだろうか・・・。
「痛っ!!」
そんな事を考えてたら思いっきり肩に噛み付かれた。あまりの痛さに涙が出た。
絶対血が出てる。
「なにするんですか!」
髪の毛を掴んで引っ張り上げれば、眉尻を下げて苦笑するカカシさんと目が合った。痛かったのはこっちだというのにどこか泣きそうな顔をして。
唇が動いた。
「え・・・?」
なに・・・?
また聞き取れず戸惑っていると頬に張り付いていた髪をかき上げて、耳を曝すと唇を近づけた。
「・・・・・・・・・・・」
直に言葉を吹き込まれ、どくんと心臓が跳ねる。
「あっ、あ、っん・・」
そのままねっとりと舌を這わされ、快楽に意識が沈む。同じくらい熱い体にしがみ付いて熱を求める。
互いにイって、だらしなく弛緩していると、カカシさんが肩を舐めた。
「あと、ついちゃった」
嬉しそうに付けた歯形を舐めるのにぺちんと頭を叩いた。
熱が引いて、舌が触れるたびにひりひりとする。
「加減ってもんを知らないんですか」
叩かれても、にへら、と笑うカカシさんに次に言う言葉が見つからない。
「イルカセンセ、おかえり」
「・・・・・・・」
返事を求めるように覗き込まれて、かあーっと顔に血が上る。
「あれ?まだ足りない?」
「うるさいですよ」
「んーー?オレ、まだがんばれるよ?」
「うるさい」
ごそごそと動き出す手を掴んで引き剥がす。
簡単に言えるか。
―――早く帰ってきてよ。オレのところに。
そんな風に言われたら、恥ずかしくて「ただいま」なんて簡単に言えない。
にやにやしながら攻撃を仕掛けてくるカカシさんの手を逃れてシーツの中に潜り込む。クスクス笑いながら、ぎゅうぎゅう締め付けてくるのに、今度から、カカシさんが任務から帰ってきたらちゃんと応えようと思った。