愛しい人
少し開けた後の窓から涼しい風が入ってきて背中を撫でいく。春にしては強い日差しが背中を焼きじんわりと汗が滲んできそうだった。
「イルカセンセ」
空き時間に先ほどやった小テストの添削をしていたらひそひそと呼ばれたて隣を見たらいつの間に来たのかカカシさんが横に座っていた。姿勢を低くして此方を覗き込む様にして見ていた。
「こんにちは」
カカシさんがひそっと言うのにつられて俺もこそっと返した。
「どうしたんですか?こんな時間に」
「うん。時間が空いたからイルカ先生に会いに来ました」
「そうですか。で、なんでひそひそ話すんですか」
「だって」
カカシさんがこそっと山積みの書類の影から職員室を窺うのを真似て俺もこそっと覗いて見た。職員室には数人の先生が残っていて皆思い思いに時間を潰していた。誰もここにカカシさんが居る事に気付いた様子はなかった。
「隠れてるんです」
にこっと笑って言うのに可笑しくなってくすくす笑った。この人は凄い人なのに偶にこんな子供みたいなことをする。俺はそれが可愛く思えてならない。
チョイチョイと指で呼ばれて顔を近づけた。
「ね、外行きませんか。風が気持ちいいですよ」
誘われて行きたいと思った。でも、仕事が。
「えーっと。ごめんなさい。仕事がまだ残ってるんです」
「えー。ちょっとだけでいいですから。ねぇ?」
やばい。
そう感じてカカシさんからすっと離れた。
今、ちょっと背筋がぞわっとなったぞ。
離れた俺にカカシさんは不服そうな顔をすると自分から俺の方に寄った。だから更に離れてみた。
「なんで逃げるのよ」
「イエ、別に・・・・・・」
カカシさんのささやく声が腰にキそうになって内心焦った。出来れば普通に話して欲しい。
「・・・仕事だったら後で手伝うから。ねぇ、一緒にいこう?」
囁かれて、あっと思ったときにはひくんっと背中が引き攣った。
「・・・っ!」
慌ててカカシさんから顔を背けたが意地悪そうな顔が想像できた。きっとしてる。顔が熱い。恥ずかしくて堪らなかった。カカシさんから離れようと足を踏ん張ったがいつもはコロコロと動いてくれるイスがびくともしない。下を見るとカカシさんの手がイスを裏側から押さえていた。
ぐっとカカシさんの体が傾いた。
「イルカ先生さぁ」
わざと耳元で話すのに止めようと思っても体が勝手に反応した。カカシさんの手が確かめる様に背中に当てられた。
「オレの声、好き?」
腰というよりはもっと下の尾てい骨辺りがヒクヒクと何度も引き攣ってじんと痺れた。逃げようとイスから立ち上がると腰に力が入らなくて崩れ落ちた。
「おっと」
小さくカカシさんが言って、腕が腰に回り次の瞬間には太陽を浴びていた。
******
「何なんですかっアナタは!俺まだ仕事があるって言ったのに!」
何処をどう登ったのか気付いたらアカデミーの屋上に居た。俺を抱えてさすが上忍と思ったがハハハと声を上げて笑うカカシさんに口が裂けてもそんなことは言えない。替わりに照れ隠しで怒鳴った。ちゃんと立てなくてカカシさんにしがみ付いておいてなんなんだが。
「あんまり可愛いんで攫って来ちゃいました」
「かゎ・・・・っ、なに言ってんですか!・・・・」
もっと怒鳴ってやりたがったがカカシさんがあんまりにも嬉しそうに笑うので何も言えなくなった。だいたい可愛いのはカカシさんの方だ。
「可愛い」
笑いを収めてほうっと溜め息を吐くように言うのに居心地が悪くなって 腕の中で身じろいだ。可愛いなんて恥ずかしいし当然のことながら慣れていない。言われるのもこんな扱いも。
「イルカセンセ?」
「・・・可愛いって何なんですか。俺、男なのに。だいたい可愛いのはカカシさんの方じゃないですか」
言ってやった。カカシさんが吃驚したように俺を見た。
「イルカセンセ、オレのことかわいいの?」
さすがに上忍の年上の男に可愛いはマズかったか?とは思ったが前々から思っていたことなのでこくんと頷いた。カカシさんはかわいい。見ていると胸がじんわりする。
怒るかなと思ったら、嬉しいとぎゅっとされた。
「怒らないんですか?可愛いなんて・・・」
普通、男が言われて喜ぶ言葉じゃないだろう。
「どうして?嬉しいよ。オレが可愛いって言うのはねぇ、イルカ先生と居るとね胸の底の方からじーんと温かいのが込み上げて来るんですよ。・・・これは"愛しい"ってやつですよ。・・・イルカ先生はイヤだった? 」
俺の反応を見るためにカカシさんが腕を離して覗き込もうとするのをぎゅっとしがみ付いて阻止した。顔が火が点いた様に熱かった。だた首を横に振った。なんて事を言うんだ。恥ずかしい。でも嬉しい。でもやっぱり恥ずかしい。胸の中がじんわりを通り越してじんじんした。
「ぉ、俺もカカシさんといると胸がじんわりします」
喉が痞えたがやっとのことで言った。そうだこれは"愛しい"だ。
「嬉しい」
またカカシさんにぎゅうっとされてしばらくそのままでいた。少し冷たい風が頬に心地よかった。
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