*注意* 大人向け


音色





 行きたくないなぁ・・・。

 そう思いながらもぴょこぴょこと揺れ動く髪を見ながら歩いた。

 久しぶりにイルカ先生と休みが重なって、何をするでもなくイルカ先生に纏わりついてたら、イルカ先生が服を取りに行こうと言い出した。
 服は「取りに行かないと」と思ってはいたが、出来れば今日はこのまま家にいたかった。
 イルカ先生のいる家で二人っきりで。
 そう思ってもイルカ先生は行く気まんまんで、ぐずぐずしているとオレを置いてでも行ってしまいそうだったので仕方なくくっついていった。

 イルカ先生の少し後ろを歩くのが好き。
 話しながら歩くイルカ先生は目を見て話すのが基本の人だから、そうすると前を見ながらも時折オレを振り返る。その時、僅かに上目使いで振り返るのが壮絶に可愛いかった。
 イルカ先生越しに見る景色は何もかもが眩しくて、普段は気にも留めない紅葉もイルカ先生が指差すから格別に紅く染まって見えた。
 楽しい。
 このまま散歩だったらいいのに。

 家を目の前にしても往生際悪く思った。



 イルカ先生がオレの家に来たことは数えるほどしかない。オレがイルカ先生の家に入り浸っているせいもあるが、それ以前に家にはあまり来て欲しくない。
 家に人柄が表れると思う。もちろんそれがすべてだとは思わないが、イルカ先生の家は温かい。生徒から貰ったものや誰かのお土産だったり、自分の思い出のものだったり。そういうものを大事に取ってある温かい家。
 三代目の家はどこか古風で威厳があった。先代が―――先生が使っていた頃とはすっかり様相を変え、同じ部屋なのにと驚いたものだ。
 オレに家はと言えば。里から支給された時のまんまで持ち込んだものといえば、写真と本と植木鉢だけ。あの頃、オレにとって本当に必要なのはそれだけだった。それも今はイルカ先生の家にあるから、今は一見何もないように見える。
 ―――誰も住んでいない空っぽの部屋。
 それをイルカ先生に見られるのが恥ずかしい。だから家には呼びたくない。


 おまけに。

 家は埃っぽかった。
 あまりにも閑散とした様子に「さむ・・・」と呟いたらベッドの上に追いやられた。イルカ先生はてきぱきと掃除を済ませると「さて」とオレを見る。
「俺、この家好きなんですよねー」
「え!?」
 どこが?と不思議に思っているとニコニコしながら壁際に立った。足で床を探ると踏み板を順番通りに踏んでいく。何枚か押すと床下でコトっと音がして、それを合図にイルカ先生が壁をスライドさせた。隠し扉になっているのだ。
「あっ!まって・・・・」
 慌てて駆け寄る前に、イルカ先生も心得たもので、すっと横へ避けると飛んできたクナイを掴んだ。オレがふうっと安堵の息を漏らすのに、イルカ先生ときたら、
「これぞ忍者屋敷!」
 無邪気に喜んでいる。
「まだなんかあります?」
 期待に満ちた、うるうるした目で見上げてきた。
「あのね・・・・」
 イルカ先生の『好き』はそこか、と内心項垂れながら手を伸ばして奥の仕掛けを外した。
「あー・・・、見たかったのに」
「危ないですよ」
「でも、カカシ先生の仕掛けってすごいから・・・それにカカシ先生がいれば大丈夫でしょ」
「・・・・・・・もう」
(なんで臆面なくそういう事言うかな・・・)
 嬉しいし、照れくさい。
「また今度ね・・・・・さ、とっととやっちゃいますよ」
 顔が赤くなってる気がする。不満気なイルカ先生を置いて箪笥の抽斗を開けた。
 中を見ているとイルカ先生もすぐ横に座った。持って来た紙袋に服を詰めていると、イルカ先生が「これは?これは?」と聞いてくる。その様子が可愛くて、早く終わらせて帰ろうと思っていたのに、ついついのんびりやってしまった。
「あれ?カカシ先生、これ」
 なんでこんなところに?と差し出された巻物に楽しかった気持ちが一気に冷えた。
「ちょっとごめんね」
 断りをいれて、巻物を受け取ると後ろのベッドに腰掛けた。巻物を括ってある紐を解いて中を確認する。
(やっぱりコレか・・・)
 忘れていたわけではないが、うっかりしていた。
(中を見られなくて良かった)
 服を手に「これは?」と振り返るイルカ先生に頷きながら、心の内ではそんな事を考えていた。
 それは巻物というよりノート代わりに使われていたもの。アカデミーの授業の内容を写し取ったと思われる下忍でも知っているような簡単な印が書いてある。ただし、他里の。
 子供だった。中忍に成り立てだろうと思われるような。倒れたときに胸から落ちた。ポーチにでもホルダーにでもなく胸の奥に仕舞われていた。まるでお守りのように。何度も捨てようと思ったが出来なかった。今まで何でもなくしてきたことが出来ない。あの時はそれが何故だか分からず、仕方なく目の付かない所に仕舞ったが。今なら分かる。
 裏切っているような気がするからだ。イルカ先生を。
 子供たちを育むイルカ先生と敵対すれば容赦なく始末するオレと。考えても仕方無い。それに裏切っている訳ではない。ただ、そういう生き方を選んだだけだ。オレも、イルカ先生も。イルカ先生が笑っていてくれる限り、オレは何度でもこの手を伸ばす。
 ―――それでも。
(もし、それが原因でイルカ先生が離れていく事があったらどうしよう)
 考えても仕方の無い考えが頭の隅を過ぎる。そもそも『それが原因で』、なんてイルカ先生をバカにしてる。それでも、『離れていく事があったら』と考えると焦燥に息が詰まる。
 保障が欲しかった。イルカ先生がオレから一生離れて行かないと言う保障が。でも、そんなものはありはしない。
(イルカ先生がオレから離れていく日が来たら―――オレはどうなるんだろう・・・。)
 ぞっとするような寒気が走り、肌が粟立った。
「イルカセンセ・・・・・?」
 ヘンな不安に駆られて呼んでみた。巻物は元に戻して――捨てた。
「イルカセンセ?」
 呼んでも気付かない。
 見ればぼんやりと・・・・・いや、セーターを撫ぜている。愛しげに。それを見るとちりちりと胸が焦げる。
「イルカセンセ!」
(お願い。こっち向いて!)
 堪らずイルカ先生の背中にしがみ付いた。泣きたいというより泣き喚きたいような衝動が込み上げる。でも泣けない。息を詰めてイルカ先生の首にしっかり手を回すとイルカ先生がその手を軽く撫ぜた。そうされてる内に荒れた気持ちが和いでくる。首筋に顔を埋めてイルカ先生の匂いを胸いっぱいに吸い込んでようやく気持ちを落ち着けた。
(イルカ先生は、今、オレの傍にいる)
(―――傍にいる)
 何度も自分に言い聞かせた。だから、怯えなくていいのだと。
「なーに考えてるの?」
 心の動揺を隠して何時も通りに聞いてみた。見れば手元に水色のセーター。
「いえ・・・・なんにも・・・」
 僅かに赤い顔して何かを隠すのに、ちくっと胸に痛みが走る。
「そう・・・?」
 何気ないように答えながらも不安に胸がじりじりと焼ける。
「終わりました?」
「まだ、です」
 穏やかに笑いながらその手がしっかりとセーターを握っているのに、
「・・・・これ好きなの?」
 聞けばイルカ先生の顔がぶわっと赤く染まった。
「イルカセンセ?」
「何でも・・・・ないです」
(―――・・・また)
 また、イルカ先生が心を隠した。イルカ先生が何を考えているのか分からない。そうなると不安で堪らなくなる。
(取り上げないで・・・・)
 イルカ先生は知らないだろう。一緒に買い物したり、ご飯を食べたり、―――服を貰ったり。そういう誰もが手にする普通の日常がオレにとってどれほど奇跡に近いのか。絶対に手に入らないものだと思っていた。イルカ先生に会うまでは。
(アナタに会って、一緒に暮らして・・・・オレがどれほどこの日常を、アナタを失いたくないかだなんて・・・)
 知らなくてもいい。ただ守る。この幸せが壊れないように。失ってしまわないように。
「これ、気に入ったんならイルカ先生にあげるよ」
 前に似合うと思ったのを思い出して言ってみるとイルカ先生の顔がみるみる曇った。
「いいです」
「あれ?イルカ先生この色好きじゃない?」
「俺は別に・・・・」
「そう?選んでくれたトレーナーもこんな色だったからオレてっきり・・・。
じゃ、コレは置いていこ」
 イルカ先生が好きじゃないものは必要ない。
 ぽいっと箪笥に放り投げると、「えっ!」とイルカ先生が声を上げた。
「えって・・・なに?」
「・・・別に」
 むすっと俯くのに何か失敗したのを悟ったが。
「別にって・・・何か怒ってる?」
「別に。怒ってません」
(ウソ。ならどうしてそんな顔するの?)
「ねぇ、ちゃんと言ってよ」
 イルカ先生が遠くに行ってしまうようで―――離れてしまわないように体重をかけて抱きしめた。いやだ、いやだと焦燥が込み上げる。イルカ先生を理解したいのに出来ない。だからせめて。
「どうして欲しいの?」
 オレに話して欲しい。
「―――・・・して」
「え?」
 掠れた声が聞き取れない。
「キスしてください」
 呟くように囁かれた言葉に思考が止まった。刹那、乾いた導火線の先に火がついたようにカッと頭の中が弾けて何も考えられなくなった。
 イルカ先生の頤に手を掛けて振り向かせると貪るように唇を合わせた。首を捻じ曲げた無理な体勢にイルカ先生が苦しげに息を吐いたが離れる事が出来ない。離れたくなかった。息を吸うために開いた唇に舌を差し込むと中を掻き混ぜた。
(足りない)
 もっとイルカ先生を感じたくて口付けながら手でイルカ先生の輪郭を撫ぜた。
(もっと、近くに)
 でも、どんなに望んでもいつも互いを隔てる境界線があってそこから先に進めない。望みは尽きず身の内から突き破るような押さえ切れない衝動が込み上げておかしくなりそうになる。
(もっと!)
 堪らず噛み付いた。
(そんなことしたらイルカ先生が・・・・)
 ――傷つく。
 頭では分かっているのに止められない。足りない、足りないと喉が、体が飢える。それを早く満たして欲しくてイルカ先生の服を剥ぎ取った。
(はやく、はやく、ひとつに・・・・)
 焦ってまともな愛撫も出来ない。服を着たままでイルカ先生の肌を直接感じられないのがもどかしいが、脱ぐ時間が惜しい。
 すると、イルカ先生の手が背中にまわり、たくし上げるようにして服を脱がさせてくれた。脱ぐために僅かに肌が離れるのに慌てて重ねる。ぴったりと重ねればイルカ先生の温もりを感じてほっとした。見上げればイルカ先生は目を閉じて身を委ねてくれる。明るい部屋で普段なら絶対嫌がるのに。
(なんか・・・・泣きそう)
(ごめんね)
 心の中で謝罪して体を起こすと、イルカ先生の下衣の前を寛げた。恥しげに足を捩るのに構わず下着ごと一気に引き下ろし、自分の下衣も取り払った。その間、イルカ先生は何も言わずギュッと目を閉じて羞恥に耐えている。互いに身を包むものが無くなると、イルカ先生に覆いかぶさり、深く口付けた。角度を変えて舌を差し込み喉の奥を浚うように舌を絡めると、イルカ先生が応えるように口を大きく開けてくれた。
(でも・・・まだ・・・)
 指に唾液を絡ませると襞を撫ぜた。
「んぐっ・・・!」
 驚いたイルカ先生の喉からくぐもった声が漏れた。いつもならこんなことしない。ゆっくりと体中に愛撫して緊張が解れてから、ここに。でも、今日は――。
 一旦そこから手を離して、もう一度指に唾液を絡ませると再び蕾に宛がい、逸る気持ちを抑えて出来るだけゆっくりと埋め込んだ。
「あっ、・・・っっ!」
 緊張に身を硬くしたイルカ先生の中は狭く指をぎゅうと締め付ける。はぁ、はぁ、と息を吐いて健気にもイルカ先生が体から力を抜こうとする。硬い床の上では縋るものも無く、宙を彷徨うイルカ先生の手を掴み背に回せばぎゅっと引き寄せるようにしがみ付いた。
(ごめんね・・・イルカセンセイ)
 指を入り口付近まで引き抜き、壁を擦るようにして差し込む。何度か繰り返してそれが楽にこなせるようになると指を2本に増やした。抜き差しを繰り返しながら中で指を広げて性急に寛げた。耳元にふっ、ふっとイルカ先生が忙しない息遣いが聞こえる。
(もう、はいりたい)
 触りもしない自身が滾って勃ち上がり張り詰めた。イルカ先生の中からくちゅっと湿った音がしはじめると、
(まだ、はやい)
 分かってはいたが抑えが利かなくなり、指を抜きながら先端を宛がい、指が抜ける前に、捻じ込んだ。
「うぁっ、・・っ、・・っ」
 苦しげなイルカ先生の息使いが聞こえたが、止まらない。まだ狭いソコにぐっ、ぐっと腰を押し付けた。痛みに床を蹴って無意識に逃げようとするイルカ先生の両膝裏を捉えると広げて折り曲げ、腕を差し込んで押し上げるとイルカ先生の胸の脇に手を付いて押さえ込んだ。そのまま上から圧し掛かり根元まで挿入した。
「ああっっ」
「くっ・・・」
 あまりの狭さに息を詰めた。それでもぎゅうっと締め付けるように隙間無くイルカ先生の中に包まれると、ようやく満たされたようなカンジがして――・・・・。
「イルカセンセ・・・?」
 いつの間にか背中に回されていた腕は外れ、力なく床に横たわっている。抱えてた足を下ろし顔を覗きこめば、虚ろな目で横を向いて、ひゅうひゅうとか細く息を吐く。
「センセ・・・大丈・・・・」
 言いかけて、キンと心臓が冷えた。
(あんまりだ・・・こんなの・・・)
 行為を始めて最初に掛けた言葉が『大丈夫か』だなんて。
(なんて自分本位な。)
 手を伸ばしてイルカ先生の頬に触れようとして、触れる直線に指を曲げて引っ込めた。
(触れない)
(こんな勝手なことをして傷つけて、今更どの手で――)
 ――触れようというのか。
 腕を突いて体を起こし、イルカ先生の負担を軽くしようとした。未練たらしく己を中に残したまま。
 傷つけたくないと思う。守りたいと思う。でもその想いを時に欲が凌駕する。自分でもコントロールする事が出来ず、想いとは反対の結果を招いてしまう。今のように。
(オレは、いつか、イルカ先生をひどく傷つける)
 それは予測ではなく、確信。
 どんなに傍に居て、何度肌を重ねても求めて止まない。満ちることのない欲求でいつか――イルカ先生を、喰い尽くすして、傷つけて・・・。
 そうと分かっていても離れる事も出来ない。一度手にした幸せを自ら手放す事など出来ない。知らなければ良かった。こんな幸せがあることを。でももう知ってしまった。離れられない。
 ――イルカ先生といたい。
 その想いが愛情なのか執着なのか依存なのか、分からない。
 ただ、もう――。
 苦しい。
 息も吐けず、じっと胸を刺す痛みに耐えていると頬を撫ぜられた。視線を向けるとイルカ先生が不安げに眉を顰めて手を伸ばしている。その唇が声にならない言葉を紡いだ。
(・・・どうしてこんな時に・・・)
 苦しいのはイルカ先生の方だろうにその唇が何度も繰り返す。
 『泣かないで』と。
 『泣いてないよ』、そう言おうとしたけれど喉が締め付けられて言葉にならない。唇が勝手に震えてそれを押さえるために下唇を噛み締めると、イルカ先生のもう片方の手が上がって後頭部に回った。その手が引き寄せるままイルカ先生に近づくと乾いた頬に濡れた感触がして――舐められた。いつだったか、オレが泣いてるイルカ先生にしたみたいに。
「イ・・ルカ・・センセ?」
 不思議に思って顔を覗き込むとみるみる瞳に涙を溜めて、それが目じりから滑り落ちた。そして、また『泣かないで』と。
「泣いてないよ」
 泣いてない。泣いてないけど、――でも。
 イルカ先生が『泣かないで』と髪を撫ぜるたびに気持ちが楽になる。刺すような痛みは引いていき、代わりに温かい何かが広がる。
 涙の流れるイルカ先生の頬にぴったりと自分の頬をくっつけた。そうしていると心の中で冷え固まったモノが溶け出すのを感じた。くっつけた頬の間をイルカ先生の涙が流れ、イルカ先生がヒックとしゃくり上げる振動が頬から喉へと伝わった。
(泣くってこんなカンジだったな)
 懐かしい感覚。イルカ先生の涙が頬を伝うたびに、胸の中が洗い流される。
 ――ありがとう。気付いてくれて。
 そばに居てくれて―――ありがとう。
 頬を離して眦に口付けた。零れ落ちる涙を啄ばむように吸い上げるとイルカ先生がギュッと眼を閉じた。ぽろっと零れ落ちた涙を追いかけるように吸い上げる。そうやって口付けているとイルカ先生がくすぐったそうに首を竦めて笑う。
「痛くしてゴメンね」
 言えばふるふると首を振った。その目が優しく弧を描く。
 ゆっくりと目を閉じるのに引き寄せられるようにして口付けた。柔らかい唇の感触を確かめるように重ね合わせて、離して、もう一度重ねた。薄く開いた唇から舌を滑り込ませるとすぐにイルカ先生の舌に触れて、互いにくすぐり合うように軽く合わせた。いたずらに逃げる舌を追いかけたり、差し出された舌を吸い上げたりしていると、イルカ先生の手が腰を撫ぜた。
 戸惑うように、でも、促すように。
 ちゅっ、ちゅっと唇を合わせながらゆっくりと腰を引いて奥まで埋め込んだモノを引き抜くとイルカ先生の手が留めるように力を込めた。
「や・・・」
 抜かないで、と目で訴えるのに口付けを深くして応えると、抜け出る前に浅く埋め込んだ。そのままゆるゆると慣らす様に腰を揺らし、ふうとイルカ先生の震える吐息が唇に当たるようになると更に深く埋め込んだ。狭い壁をゆっくりと押し広げながら慣らしていく。
「あっ」
 唇を離してイルカ先生が小さく声を上げた。そこに戻って何度も擦り上げる。
「あ、あ、あ」
 悩ましげに眉を寄せて呻くのに、
「イルカセンセ、もうちょっとだけ、足、広げさせてね」
 膝裏を捉えて腰を上げさせると、突き上げるようにしてそこを抉った。
「ああっ!ふあっ・・まっ・・・て」
「だめ、待てない」
(だって、もっと)
 カンジて欲しい。
「やだ・・ぁっ!もっ・・と」
「もっと?」
 突き上げを早くするときゅっとイルカ先生の背がしなった。
「・・・っつ!ちがっ・・ゆっ・・く・・っん・・ィ!」
 律動に合わせて揺れる美しい肢体を眺めた。
 激しい揺さぶりに歯の根の合わないイルカ先生の言いたい事はなんとなく分かったが。
 腰を大きくグラインドさせるとイルカ先生のイイところを抉りながら更に奥まで掻き混ぜた。
「んあっ!」
 鼻にかかった甘い声が漏れる。顎を反らして仰け反るイルカ先生の首筋に唇を落とすと張り出た喉元を舐め上げた。イルカ先生が声を上げるたびにその振動が唇に伝わる。
「大好き」
 言いながら喉元から頭を下げ、赤い後を散らしながら胸へと辿りつけば、突起が唇に触れた。舌を出してそれを絡め取る。輪郭を確かめるように舐めてから口に含んで軽く歯を立てて扱き上げればイルカ先生の体がびくびく震えた。
 ぴたぴたと腹に当たる物に視線を向ければイルカ先生のが硬く起立して動きに合わせて揺れている。浮いた腰に手を回し引き寄せると先走りを零すそれを互いの腹に挟んで、扱いた。
「ひっ、アッ・・ヤァ!」
 後ろと前を同時に責められて今度は快楽から逃げようとするイルカ先生をしっかり抱え込み尚も責め続けた。くちゅくちゅと粘着質な音が腹と中から聞こえる。
「ア・・っ、と・・けるっ、こわっ・・」
 髪を振り乱してイルカ先生が訴えた。
「うん。溶け、そう」
 でも、怖くないから。
「一緒に・・・イ、こう」
 ぐっとイルカ先生のに腰を押し付けるように背を反らすと最奥まで突き上げた。
「ッあっ、ああっ、・・ア!」
 突き上げて引くたびに、臨界点間近のイルカ先生が締め付けて背筋に甘い痺れが駆け上る。おかしくなりそうなほど気持ちがイイ。
「も、でるっ、・・ん!ああぁ!!」
 先にイルカ先生が弾けた。腹の間にピシャと生温かいものが広がる。中が引き攣れるように絞り上げ、腰から下が溶けて火傷しそうなほど熱くなった。
「く・・・っ」
 それにもっていかれそうになるのを耐えて腰を引くと、イッたばかりの所への強すぎる刺激にイルカ先生が悲鳴を上げた。腹の間で粘液にまみれ柔らかくなったモノもくにゅくにゅと擦り上げた。奥へ、奥へと誘う体に2、3度叩きつけるように突き上げて吐精すると、ガクガク痙攣しながら、イルカ先生が落ちた。



 はぁ、はぁと荒い息を吐いてベッドに横たわった。気管がヒリヒリして吐く息は熱く肺が痛い。イルカ先生も同じようで胸を押さえてひゅうひゅと喉を鳴らしている。耳がじんじんと熱く、体中が熱い大気に包まれたようにぶわっと火照り体の輪郭が曖昧になった。
 ヤバイ、ヤリすぎた。
 あれから意識を取り戻したイルカ先生をベッドに運んで、もう一回と挑んだ。途中からおかしくなって繋がったまま何度も吐き出した。オレも。イルカ先生も。あまりにも長い間繋がっていたから、そこから溶けて一つになったような気さえする。
 腕で体を支える事も難しく、ぐったりと体を横たえれば繋がったままの所が動いて、ひくんとイルカ先生が体を揺らした。
 吐精の余韻にヒクヒクと伸縮を繰り返す度にソコからとろっと精液が流れ出るのを感じた。飲み込んだまま小波のように揺れるソコに何もしないでもまだ勃ちそうな気もするが―――。
 これ以上ヤったら、死ぬ。
 アホことを思いながら体を起こし、ゆっくりと引き抜こうとすれば苦しげに息を吐いていたイルカ先生が泣きそうに顔を歪めた。
「やっ・・・やだ」
「大丈夫、抜くだけだから」
「ちがっ・・やだっ・・・やだぁ」
 ぽろぽろと涙を零しながら力なく腕を伸ばして縋ってくる。その体は快楽の名残からか小刻みに震え、歯はかちかちと鳴った。
「イルカセンセ・・・これ以上は・・・」
 毒だよ。そう続けようとしたが、
「は・・なれないで。そばに・・・いて」
 不意に喉が詰って言葉が出ない。
「そっ、ばに・・・いて・・・っ」
 子供みたいに泣き顔を晒してイルカ先生が息も絶え絶えに言う。
「うん、いるよ。ずーっと。そばにいるよ」
 もう、泣かないで。
 涙に濡れる瞼を拭って、汗で張り付いた髪も拭った。
「だから―――」
 そっと顔を近づけて囁いた。
「イルカ先生も、そばにいてね」

 しっかり視線を合わせて写輪眼を使った。
 眠りに落ちていくイルカ先生が、あどけなく笑って―――頷いた。



 さっとシャワーを浴びてイルカ先生も綺麗にした。汚れたシーツも取り替えて新しいシーツの上にイルカ先生を横たえる。額に触れるとイルカ先生がびくっと身じろいだから慌てて手を離した。
 床に座ってベッドの端に肘をついてイルカ先生の寝顔を眺める。
(早く起きないかな。)
 ふうーっと息を吹きかけて、イルカ先生の睫を揺らした。
 今はもう穏やかになったイルカ先生の呼気が何もない部屋に響く。
 すー、すーと、耳に心地よい音色が部屋中に満ちて。
 これ以上この部屋に必要な物なんて何一つなかった。


 



end
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