256 後編1 sample




 触れるか触れないかの微妙な触り方だった。たた触りたいと言うより、誘われている気がした。
 でもイルカだ。誘ってくる筈がない。
(いやでももしかしたらお誘いかもしれない)
 心臓がドキドキした。オレはまだいける。イルカに誘われていると思えば、さっきより興奮した。
 イルカの指が頬を滑り、唇に触れる。
(キスされるかも!)
 飛びつきたいのをじっと我慢した。イルカに聞えるんじゃないかと思うぐらい心臓が高鳴っていた。
 指が唇をなぞる。そこは皮膚が薄く、敏感だ。指の動きに電流が走った。
 イルカの指を咥えたい。ぱくっと噛み付いたら驚いて体を跳ねさせるだろう。
 楽しい空想に唇が笑いそうになる。
 指は唇を離れ、睫毛に触れた。左右に揺れる睫毛に瞼がピクピク震えそうになる。
 そして気付いた。イルカはただオレの顔に触りたいだけだ。前に寝顔を撮られた。日本人とは違う顔立ちや色彩が珍しいのかもしれない。
 ちなみに睫毛も鼻毛も銀色だ。髭も然り。
 睫毛を揺すっていた指が瞼に触れた。普段閉じている左目の方だ。
 瞼の上から頬へ走るキズをなぞる。もう一度瞼に戻って軽く押した。
 そっとイルカの手を捕まえた。さっきの想像通りにイルカがビクッと跳ねた。目を開けるとイルカが驚いた顔でオレを見ていた。
「眠ってるとばかり…」
「ふふっ…。いつキスしてくれるのかなぁって待ってた」
「キッ…、キスなんてしません…」
「そうなの? …オレはしたいなぁ」
 イルカに甘える様に顔を寄せた。だがキスはせず、イルカを引き寄せ強く抱いた。
 誤魔化したかった。これ以上触れられたくない。
 だが、イルカは伸びをするようにオレの腕から顔を出した。
「カカシさんのこっちの目。ずっと閉じてるけど眼球はあるんですね」
 好奇心も悪気も無い顔だった。事実を知りたいのだろう。
 誤魔化そうかと一瞬思ったが、それより違う欲が湧いた。
 ――イルカにオレを知って欲しい。
「ウン。ホントはちゃんと目があるの。でも気持ち悪いって言われるから閉じてる」
「目にもキズがあるんですか?」
「ウーン…キズがあるって言うか、顔を切られた時の後遺症?みたいなのがあって…」
「見えてるんですか?」
「ウン」
「じゃあ閉じてるのって不便じゃないですか?」
「もう慣れたーよ。…見たい?」
「カカシさんが嫌じゃなければ」
「オレはイヤじゃないよ。でもイルカが気持ち悪くなるかも」
「俺は平気です。――カカシさんのこと、もっと知りたいです」
「そう…」
 嬉しくて、抱き締める力を強くした。でも少し怖い。随分長い間、誰にも見せていなかった。オレの目を知る父はもういない。日本でオレの目を見せるのはイルカが初めてだった。
「あのね、赤い色をしてるの。もとは左右同じ色だったんだよ。でも顔を切られた時に眼球に強い衝撃を受けて色が変わったの。眼の奥が傷付いたンだって。血が入って戻らなくなった」
 イルカがコクリと頷いた。引かない顔だ。



こんなカンジのお話です。
後編1ってなんだ!感じですが続きました。
付き合い始めた二人には、しなくてはならない事があれこれあったのです。
としか言いようが無い!

それではまた後編2で〜ノシ

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